14話『異世界はつらいよ』

あははは、それは、伊織君が災難でしたね。伸介もエリーゼも変に気が合うと厄介ですからね」

「いや、まあ……もう否定はしないが厄介扱いは、流石に俺だって傷つく」

昼休みの立ち入りが禁止されている屋上は、俺や、エリーゼ、千三十のたまり場になっているのだが、エリーゼは、体育の後片付けのため、今は、俺と千三十の二人っきりだった。

「しかし、こうやって、伸介と二人っきりなのも久しぶりかもしれませんね」

「そうか?」

「ふふ、そうですよ。最近は、エリもいましたし」

笑いが漏れる千三十。そう考えると最近は、三人で出かけたりしていて、千三十と二人だったことが少なかったかもしれない。

「そうだよな。そう考えると、千三十も気が付いたら、エリーゼと仲良くなっているよな。エリとか呼んでるし」

「あー、エリとは、病院で仲良くなりまして、せっかくなので親愛を込めてエリと呼ばせてもらうことにしました!」

「俺の居ない所であった話があるわけか」

笑顔の千三十、エリーゼみたいにとっつき辛い性格なのにどちらかと言えば、人見知りをする千三十と仲良くなるなんて、俺は、考えもしなかったが、仲が悪いよりは、いいのだろう。そう思う。

「そう言う、伸介だってエリと最近仲良くなっていますよね」

「千三十までそんなおぞましいことを言うのか!?」

「お……おぞましいって……。いや、エリと伸介が仲良くなるために三人で遊ぼうって企画したのは、私ですよ……そう言う意味では、私は、企画の才能もあるのかもしれないですね!」

「そうなんだけどさ……うぐぐ……」

 確かにこの平和な世界で、いがみ合うこともなく。異世界でのことは、まだ保留しているが、よくよく考えれば、千三十が居なければ、絶対に流血沙汰になっていたので、感謝は、しているのだが、やはり、エリーゼと仲がいいとか言われると無性に癪に障る。

「まあ、私じゃ、二人のことに口出しすることはできないですが、それでも二人とも私には、友達ですから!自分の友達同士は、仲がいい方がいいです」

「本当に、しばらく見ないうちに千三十は、変わったよな」

俺の知っている千三十は、もっと暗い性格だったような気がするが、今の千三十には、暗さは、見えなかった。

「え!気が付きました!?そうなのです!身長が五ミリ伸びたのですよ!」

「全然変わらないじゃん!」

「じゃあ、何も変わっていません!」

バッサリと、俺の思ったことを否定してくる千三十。やっぱりまだ慎重に関しては、悩んでいた幼馴染に俺は、少し安堵を覚えた。

「そうじゃなくて、三年……まあ、こっちじゃ一年なんだが、見ないうちに千三十は、笑顔が増えたよな?」

「笑顔ですか……うーん。それは、どっかの誰かさんが失踪しちゃって、みんなに心配されたくないから笑っていたからですかね?」

「あの、すみません。本当にすみません心配させて!」

俺は、異世界に行っている間、こっちの世界のことをあまり考えていなかった。こうやって心配してくれる人がいたのに俺は、いまだに千三十に心配させたことを謝っていなかったのだ。

「まあ、別に異世界転生したのは、伸介のせいではないですし、謝らないでいいですよ」

「それは、助かる。俺も少し気はまぎれるし」

「伸介は、見た目は、変わりましたが、癖は、変わりませんね」

「はえ?癖?」

癖と言われたが、自覚はなかったからか、間抜けな声が出てしまった。

「ホッとしたりすると伸介って自分の頭を掻いちゃうのですよ。知っていましたか?」

「知らなかった……」

「あはは、良いことです。安心します。こうやって、伸介と普通にお話ができるだけでホッとします」

にっこりと笑う千三十は、かわいくて、見ないうちに魅力的な女性になってきた。

「お……おう」

「おやおや?どうしましたか?もしかして私の魅力にキュンキュンしちゃいましたか?」

にやにやと俺を覗いてくる千三十は、からかう様に俺を上目使いで覗いてくるのだが、確かに可愛かったし、キュンとも来たが、俺にそれ以上のことは、考えられなかった。

異世界でできた初めての彼女ジャンヌの生前がチラついてしまうからかもしれない。

「はいはい、千三十は、かわいいですよー」

「むむ、棒読み過ぎて流石に私でも演技とわかってしまいますよ」

「そうか?演技っぽく見せる演技かも知れないぞ」

「伸介が考えるようになった!前までは、慌てているだけだったのに今じゃ大人な対応に加え上げ足の取り方まで……変わったのは身長だけでないのですね」

「俺だって三年も異世界で暮らしたなら、少しは、成長するぞ」

「三年ですか……」

「……ん?何か言ったか?」

「な……なんでもないですよ!あははは!」

何でもないはずはなかった。千三十は、俺から見てもわかるくらいに無理をしていたのだ。

「……千三十。俺は、謝ることしかできない」

「な……なんでそういうことを言うのでしょう?別に異世界転生は、伸介のせいではないのに……」

「そうじゃない。心配させてごめん。約束破っちゃってごめん。無神経でごめん。寂しい思いをさせてごめん。もう絶対に寂しい思いなんてさせない」

「えっともしかして、一年前の話ですか?」

「そう、二人で遊ぼうって言っていたのに破って」

「ええええっとその……」

さっきまで、笑っていたのに、途端に戸惑う千三十だが、忘れない。俺の心残りでもある。

約束の日、俺は来ないで一年前一人で待ちぼうけ食らっていたのだ。

心配させていたのだから。

俺は、千三十に頭を下げ続けた。千三十は、別に怒っていないと言っていたが、だんだん目に涙をため始めた。

「だから……別に私は寂しくなんか……ないわけないじゃないですか……いきなり居なくなったと思いました!最初は、すぐ帰ってくるだろおうなんて思っていました!けどいつまでたっても帰ってこないですし、メールも電話も届かないですし!一部じゃ死んだんじゃないかとまで言われて!寂しいに決まっています!」

そして、感情は爆発してしまい、千三十は、滅多に流さない涙を滝の様に流しだしその場に崩れ落ちる。

「千三十……ごめんな……ごめん……」

「謝らないで……ください……」

「じゃあどうすれば……」

女の子の涙と言うのは異世界でも現代でも苦手だった。エルスダムでも何度も涙は見て来た。必ず俺はそういう時には戸惑い相棒のガブにあきれられ、フォローされていたが、今は、もうガブはいない。俺が何とかしないといけない。

しかし、千三十は、強かった。

「待って……ください……いま、泣き止みます……グス」

千三十は、上を向き涙を止めようとし、自分の両頬をバチンと叩く。

「もう……大丈夫です。すみません伸介。迷惑かけて……私の言ってほしいことは、ただ、伸介が帰って来たって実感が欲しいだけなのです」

意志の強さを物語る目。千三十に、俺が彼女に与えることのできる、帰ってきたという実感それは、一つだった。

「ただいま。帰ってきたよ。千三十」

「はい!おかえりなさい!伸介!」

「あぁ……」

そんなことを言っていると、どこからか叫び声が聞こえる。

「あんの糞勇者ゃぁぁぁぁぁぁぁ!人と約束した弁当渡さないでどこにいきやがったあぁぁぁぁぁ!」

到底女とは、思えない叫び声は、階段から聞こえるドタドタと言う足音が段々近づいてくる。その足跡の主には、俺達は、想像がついた

「あはは……なんというか、エリーゼって分かりやすいですよね」

「……あぁ、憂鬱だ。あの女、この後、絶対俺に暴力まがいなことをするぞ」

この発言に間違えはなく、屋上の扉が開くと靡く金髪にぜえぜえと、切れた息。走ってきたからか額には、汗をかいていた。

「ぜぇぜぇ!糞勇者あぁぁぁぁぁ!」

「は!」

俺を見た瞬間エリーゼは、持っていた鞄を俺に向かって全力で投げつけて来た。なんとなく予測はついていたからか、しっかり鞄をキャッチし、顔面への激突を防いだ。

「は!じゃないわよぉぉ!なんで……なんでキャッチしちゃうのよぉ!」

「それは、物が飛んでくるのは、予測できたしな。それに、攻撃の仕方が単調になったんじゃないか?エルスダムの頃の攻撃を忘れているんじゃないか?」

「う……うるさい……ぜえ……ぜえ……。それより私のお弁当は!?」

忘れていた訳ではない。まあ、エリーゼが屋上に来るのが分かっていたから、しっかり弁当は、二つ準備していたのだ。

「はぁ、ほり、今日は、カツサンド弁当に付け合わせのアスパラベーコンだ」

「はぁ……、女子にカツサンドって……アスパラベーコンは、好き」

ため息をつく、エリーゼであるが、そこに抜かりはない。しっかりと食の細い女子でも食べられるように、サイズは小さめ、付け合わせも、ポテトサラダとアスパラベーコンなど、カロリー抑え目である。

「あはは、ま……まあ、もうちょうど良いですし、ご飯にしましょう」

こうして、俺達は、昼食を食べるため、円を囲んだのであった。

「でね!このバカは、中学生でもわかるような問題すら、間違えているし、それを異世界生活のせいにしているのよ!」

「あはは、伸介流石に大人げないです」

「笑うことないだろう!それに全く勉強しないで、小テストで満点ばっかとるような奴の方がおかしいだろう!チートか!異世界転生はチートですか!?」

 昼ご飯は、いつもの様に俺とエリーゼの喧嘩でヒートアップし、千三十が、それを聞いて笑うという感じであった。

「なによ!チート?アニメ、見すぎよ!そんなのある訳ないわよ!これは、私の実力。分かった?どーゆーあんだすたん?」

嫌味の様に俺に向かって、指をさしてくるエリーゼ。俺は何も言えなくなってしまう。

「ぐ……飯マズ女子のくせに」

俺は、苦し紛れにエリーゼをけなした。

エリーゼには、唯一の弱点がある。それが料理だ。エルスダムに居た頃、俺達のパーティーに潜入していたころにふるまった料理は、焦げているのに生臭かったり、生なのに焦げ臭かったりして、毒を盛られたのかと思ったが、どうやら素の実力らしく、パーティーが震撼していた。

「な……なによ!料理くらい、私だってやろうと思えば!」

悔しそうに、俺を睨みつけるエリーゼ。どうやら、それは彼女にとっても痛い所らしい。

「いいか、料理は、科学の授業ではないのだからな。知ってる?」

「ぐぐぐ」

「うわぁ……自分が有利になると途端に饒舌になるなんて……伸介、大人げないです」

千三十は、俺のことをドン引きしたように見て来たが気にしない。気にしたら負けだから。

「でも、伸介って、エルスダムの頃からそうよね。なんというか、姑息。勇者のくせに自分の有利な状況になる様にして戦うから、逆境に立ち向かう勇者像は一切なかったわね」

「あー、伸介ってそう言うところありますよね。ゲームでもじっくり下準備をしてからボス戦に挑んだり」

千三十もエリーゼもそろって俺を分析しはじめていて、なんとも言えなかったが、エリーゼに関しては、言い返す余地があった。

「エリーゼだって、どんなに有利な状況を俺が作っても、『古き悪しき世界』で常に俺は、不利な状況で戦ってきたんですが!なんなのさ、お前の空間魔法!ずるいだろうチート乙!」

エリーゼの得意呪文『古き悪しき世界』は、どんなに状況が有利に進んでいても、全部無かったことにしてしまうので、正直、異世界転生でチートをしていたと思う。

「はぁ!?それなら、純粋な力が規格外を通り越した得体のしれない聖剣を相棒にして、本人自体も常人の扱えない聖剣を当たり前の様に扱えるチート勇者がそれを言うか!」

「ぐぐ……」

人のことをチートと言っておいて、あえて、俺も自分のことを言われると何も言えなかった。確かに異世界では、驚かれていたが……こうやってご丁寧に説明されると何も言えなくなってしまう。

「あはは……私から言わせていただきますと、二人とも十分人間離れしていますよ」

千三十は、言ってはいけない事実を言ってしまい、俺達は、固まってしまった。

「いや……俺ツエェ系は、いや……」

「死ぬほど苦労したんだぞ異世界で……ラノベみたいに強いだけじゃ何にもならなかったんだぞ」

「えぇ……なにがあったのですか?」

「「聞かないで!」」

掘り返されたくない過去が、俺達にもあった。無一文からのスタートで餓死しかけたり、サバイバル経験ゼロでキノコ食べたり、挙句の果てには、戦闘で破壊された施設の修繕など、他にもたくさんあって、それは、エリーゼも同じらしく、お互いに自分がチートであったとは、思いたくなかった。

「うわぁ……お二人とも苦労したのですね……」

俺達の苦労を察したのか、千三十は、その後、異世界については、聞いてこなかった。こうして、今日も一日が平和に過ぎていくはずであった。

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