12話『傍から見たら痛いぞ』
気まずい空間。千三十を見送った後なんとなくお互いソッポを向きその場に立っていた。
「な……なんか喋りなさいよ」
「なんかって……なんだよ。」
この雰囲気の中、俺に盛り上がる話題を出すこともできるはずもなかった。
「うー気まずい!気まずいわよ!なによ!なにが!趣味が合うよ!仲良くなれたよ!魔族と勇者が仲良くなんて出来る訳ないじゃない!」
そして気まずさから最初に爆発してしまったのは、エリーゼだった。
「そっちこそなんだよ!良い所って言っていたのにカッコいいって!アホか?!そこは、もっと別に褒める所があったろうに!」
「ほ……掘り返すな!私だって、なんであんなこと言ったか分からないもん!」
なんというか、普段の喧嘩のようにキレがない。まあ、あんなことのあった後に普通に戻れといわれても、無茶なことなのだ。
「とりあえず歩くか」
「そうね……こういう時は、しゃべらないのが一番よ」
「……そうだよな。元々、俺達は、仲が悪いからな」
そう言い、俺達は、二人で歩いて帰り道を歩くのだが、無言のまま少し時間が経ち、エリーゼがボソッとつぶやいた。
「でも私たちが、こうやって肩を並べて歩くなんて思ってもなかったわ」
「まあ、元々、俺達ずっと争っていた敵同士だったもんな……」
「本当よ。私が、死に物狂いで征服した土地をシンスケは、安々と奪っていくんだもの」
エリーゼは、懐かしむように、語りだす。あんまり、二人になった時、異世界の話をお互いに必要以上にしなかった。
話してしまえば、絶対に喧嘩になるし、周りから見たら、ヤバい奴みたいに思われてしまうからと言うくだらない理由だった。
「俺だって、大変だった。いきなり訳のわからない世界に来たと思ったら、魔族と戦えとか言われたんだぜ、良く分からない女神?に……」
俺が異世界転生したら、目の前に自称神がいて、ガブ……聖剣だけ渡されて、エルスダムにほっぽり出されたのだが、よく考えれば、酷いものだった。
「うわ、ベタな異世界転生物過ぎるわねそれ……私は、そもそも最初は、食客扱いだったから、まずは、この世界の常識から教わったわね……」
「なにそれ!なんで、魔族の方が、そんなに転生者への待遇がいいのさ!」
「ふふ……日頃の行いが良かったかしら?」
「なんだって!」
日頃の行い……まあ、確かに俺が転生する前は、人生そのものに色が無かった。楽しいこともなく、熱中することもなかったからこそ転生したのかもしれない。
「けど、エリーゼは、どうして異世界転生したか考えたことあるか?」
「うーん?私の場合は、人生を舐めていたのかもしれないわ。何をやってもできたし、神童なんて言われたこともあったから。図に乗っていたのよ、だからかしら。異世界では、挫折もしたし、悲しいこともあった。努力が素晴らしいなんて思えたきっかけにもなったわね」
エリーゼは、きっと異世界で変われたのかもしれない。俺もそうだが、あっちでの生活は、楽しいことが多く苦しいこともあった。俺は、人生に色を手に入れることができたし、エリーゼは、きっと人間らしい泥臭さを知ったのかもしれない。そう考えると異世界転生も悪いものではなかったのかもしれない。
「なあ、エリーゼは、戻ってきてよかったと思うか?」
俺は、もしかしたら自分は、こっちの世界に戻ってきて後悔してしまったのかもしれない。
勇者から昼行燈に逆戻りしてしまったのだ。けど、この答えは、自分勝手。現代で、俺は、両親や、千三十を心配させてしまった。それをしっかり自覚しておきたかったのかもしれない。
「うーん。保留。私は、シンスケに負けたのが悔しいから、またやり直したいとも思うけれど、その選択は、私の家族心配させちゃうもの」
「そっか……」
「そっか……ってなによ!シンスケ!なに少し満足そうな顔して!なにに満足したのよ!」
……自分が、エリーゼの答えをきいてなんでそんな表情をしたのかは、分からないけれど、きっと立場が役立たとしても俺たちは、きっとこうやって現代で再開出来たのかもしれない。俺は、そう考え満足した表情をしたのかもしれない。
「お!ついたぞ!じゃあな!」
「ちょっと!私の質問に答えてから帰って!」
気が付くと俺たちは、互いの家に着いていたので、俺は、エリーゼの制止を無視して家帰って行った。
きっと、明日も楽しい一日になるだろうと考えて。
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