11話『ダイジェスト(嘘)』
その後、ボーリングに行っては、エリーゼとのスコア争いになったり、ゲームセンターでは、UFOキャッチャーに一喜一憂したりと気が付くと時間は、過ぎていき、気が付くと辺りは、すっかり暗くなり、俺たちは、帰り道にだべっていた。
「もう……今日は、普通の高校生がコンセプトでしたのに、なぜ、二人は、とんでも行動を起こすのですか?」
ボーリングでは、俺とエリーゼでスコア争いになり、弱化呪文が自分にかけられていないエリーゼは、ムキになりボーリングのピンを破壊し出禁。
ゲーセンでは、景品を多くとった方が勝ちと言う競い合いで、ゲーセンの景品を取りすぎこれまた、出禁になってしまった。
異世界での後遺症は、いまだに俺たちを悩ませ、千三十を困らせてしまった。
「面目ない。まさか、このバカ女がここまで負けず嫌いなんて思っていなかったから」
「ごめんなさい。このヘッポコが意外としつこいから……」
ヘッポコと言われた俺は、ついつい、反射的に、エリーゼをにらみつけてしまう。
「ああん?」
「なによ」
「……あー、はいはい。ドウドウ」
俺とエリーゼの間に慣れた様に入り、動物をなだめるように俺たちを制する千三十。
「千三十、俺たちの扱いが、適当過ぎないか?」
「いえ、大体わかりました。もうなんか、貴方達の喧嘩は、火に油を注げば火が強くなるようなものです。もう当たり前のことなので驚きません」
「いや、そんなことないわ!私だってこの糞男と仲がいい時だって……あれ?」
「ないな……」
よくよく考えてみれば、俺とエリーゼは、現代に戻ってきてから喧嘩ばっかりしていた。
それを聞いて、ため息をつく千三十。
「はあ……では、まずは、お互いの良い所でも言い合ってみたらどうですか。そうしたら、少しは、仲良くなるかもしれないですよ」
「おお……」
「な……なるほど……」
俺は、考えてもいなかった意見に少し感動を覚えた。それは、エリーゼも同じようで二人で驚いていた。
「むしろ、なぜ思いつかなかったのかが、私には、分かりませんよ」
「いや、そりゃ、うん……」
「……とりあえず考えてみましょうか?お互いの良い所」
エリーゼが渋々と、提案し、俺達は、お互いの良い所を考えることにした。
「そうだな……」
「言い辛いわねこういうの」
「あー!知っていましたとも!はい!わかりました。二人ともお互いに自分の言葉では言い辛いかもしれませんので私に言ってください。そのまま本人に伝えますから」
煮え切らない俺たちの背中を押すように千三十は、頭を抱えていたが、その提案は、俺達にとっては、とても楽なことだった。
「おー!流石はチサト……考えてみますか」
「だな」
俺は、エリーゼの良い所を考えてみることにした。
……胸が大きくて綺麗系な金髪美少女、性格は……うん、素直だ。あと、弁当をちゃんと全部食べてくれるし、感想だって言ってくれる。いつも冷静に物事を見ているけど、負けず嫌いで熱い所もある。正直、異世界で敵対していなければ、趣味も合うし仲良くなれたと思う。異世界に行って後悔したことは、エリーゼと敵対したことなのかもしれない。
……絶対に許しちゃいけないけれど、それでも、俺は、アイツがすごく羨ましい。
「はい、終了です。では、二人とも私に、耳打ちでお互いの良い所を教えてください。まずは、伸介から」
数分が経ち、千三十の声で思考を一回やめ、千三十に、エリーゼの良い所を教えた。
「えーとな……まずは……」
「はい……、はいはい。なるほど……え!」
俺が千三十に伝えることをすべて伝えると、千三十は、顔を真っ赤にしてしまった。
「どうした?千三十?」
「あー、いや。本当にエリのこと、伸介は、嫌いなのか少し疑ってしまいました」
「ちょ!シンスケ!あんた何言ったの!」
「内緒」
少し恥ずかしそうに俺に聞いてくるエリーゼだが、俺は、ここで言うのは、なんか恥ずかしいので言わないことにした。
「えーと、じゃあ次は、エリです」
「はぁ……分かったわよ」
ため息をつき、エリーゼは、千三十に耳打ちをし始めたのだが、またもや、千三十は、顔を真っ赤にしてしまう。
一体何を言われたのか、待つ立場と言うのは、ここまで苦しいものなのかと今になって実感してしまった。
「こっちもですか……なんというか……はぁ……」
呆れたように俺たちを見る。何か悪いことでもしたのか心配になってくるが、千三十は、困ったように頭をかいた。
「えーと。じゃあ言います。まずは、エリの見る伸介の良い所です」
「ちょ!なんでシンスケからなの!私からでも!」
「エリは、自分の感情に素直なので……なにしても反応の薄い伸介の方が安全と言う私の独断です」
「ええー!ずるい!」
千三十の判断に俺は、少しムッとしながらも、納得すると千三十が背伸びをして、俺の耳に話そうとするので俺は、少ししゃがんであげた。
「む……伸介、背が伸びました?私は、一センチも伸びていないのに」
「あー、話が脱線するから話してくれ」
「じゃあ言いますね」
千三十は、改めて、俺の耳に口を近づけ話し始めた。
「……アイツの良い所は、いつもは、何処にいても分からないような地味なやつなのにいざとなるとどんなに苦境でも立ち向かう勇気がある所。それに、しっかり話を聞いて善悪を判断するところもカッコいいし、正直……顔もちょっとこの……今のはなし。それに趣味も合うし見どころがある凄い男……らしいです」
口調まで、エリーゼに合わせて話す千三十。
正直その演技力に驚きながらも、ちょっとこそばゆい。いつも喧嘩ばっかりしているような奴にこんなこと思われていると思うとかなり恥ずかしい。
「お……おぅ。あのなんだ。ありがとう」
俺は、何を言っていいか分からず変なことを言ってしまう。エリーゼも、いつに見ないほど顔を真っ赤にしていた。
「な……なによ!いつもみたいに怒らないなんて調子狂うじゃない!」
「す……すまん」
「もう、二人ともラブコメは、いいですから、次は、エリです」
「「ら……ラブコメなんてしてないわ!」」
「はいはい、ツンデレ乙です」
俺とエリーゼのツッコミを無視して、千三十は、エリーゼの耳に手を当てて、話し始めた。
「な!え……はぅ……」
エリーゼは、だんだん顔を赤くし、顔を伏せていく。あの様子だと、俺の時みたいに口調まで演技しているのだろうが、やはり俺としては、恥ずかしいものがある。
「……とのことです」
話し終えると、話していた千三十も照れていたのだが……それよりも照れていたのは、エリーゼであった。
「なによ……見んな……」
いつの様に鋭い目つきとは、うって変わって、迫力のない目つきのエリーゼ。
「す……好きで見ているわけじゃない」
もちろん俺も照れているからかそう言う表情をしているかなんてわからなかった。
「そ……そう」
やらなきゃ良かった!なにこれ!めちゃくちゃ気まずいのですが!
俺とエリーゼは、顔を合わせることがなく、無言の俺とエリーゼにこの気まずそうな空気に当てられ喋れない千三十だったが……千三十は、とある交差点で、占めたという表情をする。
「あ!ここでお二人とは、お別れですね!」
「え!チサトなんで!私たちを置いて行かないで!」
エリーゼの聞いたことのないような弱々しい声に驚いたが、千三十は、申し訳なさそうに残酷な事実を告げた。
「あ……私、家こっちなので……」
そう、千三十の家は、俺たちの住むマンションの向かいの一軒家に住んでいる。距離的には、非常に近いので、この後、エリーゼと二人っきりになる時間もそこまで長くなく、今までも、別れた後は、大抵喧嘩をしていたので、気まずいことはなかったが、今日は例外。
これから、エリーゼと二人で歩く数分が何年にも錯覚するほど長い道のりになるような気がした。
「あの……楽しかったですよ。では、エリも伸介もまた学校で!」
「あぁぁ!チサトおぉぉ!」
千三十は、エリーゼの制止も空しく、自分の家の方に向かって行ってしまった。こうして、俺とエリーゼの二人きりの長い時間が訪れた。
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