10話『エッチな触診』

「おい、エリーゼ!どうしたんだよ!あることないこといって!」

「しょうがないじゃない。すこし、シンスケと二人で話したいことがあったのだから」

俺は、拘束が解かれ、エリーゼに詰め寄ると、エリーゼは、少し不服そうに俺に説明を始めた。

「私、ちょっと気になってチサトを調べてみたの」

「調べたって?」

「チサト……現代日本にいる、理から外れた獣について」

「……なんで、調べる必要があった?戻ってきたんだぞ、もう、異世界のことなんて関係がない筈だろう?」

俺は、不思議に思ってしまった。現代に戻ってきて、人間……俺たちを脅かす魔物もいないはずであり、この世界では、戦う必要がない筈なのに、千三十が理から外れた獣だとしても、人間に危害を加えるなんて到底考えられないから、あまり気にしていなかったことだったからかもしれないが、エリーゼの意見は違うらしい。

「ここが、私たちが戻ってきたここは、本当の日本元居た世界だと思う?」

「それはそうだろう。ここの世界は、思い入れがある。それに、千三十とか元居た世界にいた友達もいる」

「じゃあ、ここが、私たちの居た世界を再現しただけだったら?」

「んな!馬鹿なことが……修正力は、そんな曖昧なものじゃ」

俺たちは、世界の修正力、理によって異世界から現代に戻ってきた。修正力は世界を正しい形に戻す定規のようなもので例外は、一切ない。

これは、異世界で魔族と人間が戦争になったきっかけで、修正力を歪め、地位の向上を図った魔族が、見つけた自然現象である。修正力の調和を求めた人間と歪める魔族の戦争によって、転生した俺たち。修正力が、狂うことは、人類の勝利によってない筈だったのだ。

「のんのん。ナンセンス!まず、理から外れた獣ですら異世界では、修正力には抗えなかった。けれど、精霊の風の無い世界で、精霊の風の塊の獣は、生まれない。ありえないのにありえている。修正力は例外を許さないけど許されている。それが当たり前だから」

「どういう意味だよ!千三十は、千三十だ!」

訳が分からなかった。いや、分かりたくなかった。数週間だとしてもいたこの世界での再会や、喜び、悲しみ、怒り。すべてが否定されてしまう恐怖。ただ目を背けたいだけなのかもしれない。

「そうね。じゃあこの世界がそもそも、理から外れた獣がいてもいい世界だとしたら?」

「ありえない。俺たちの居た世界には、幻獣なんていない」

否定したい事実。もし俺たちが、元の世界に戻ってきていなかったら、今いる千三十が偽物だったら、そう考えると冷汗が止まらない。

「そう、だから、チサトを触診した。幻獣の性質は、触診による魔力の接触が基本……その結果」

「触診って……いつから、そんなプラトニックな関係になったんだ」

「なってない!あんたもさっき見ていたでしょう。私が、チサトを頬ずりしたりしていたの!あれが触診よ!」

少し呼吸を整えるエリーゼ。俺の渾身のボケもスルーされたが、意味のないことに見えたあの行為がそんな大事なことをしていたのか。

「エリーゼって凄いよな」

「まあね!まあ、これから、言う事を考えるとこんな笑ってもいられないのだけれど」

エリーゼは、悲しそうにも悔しそうにも見える表情。俺は、死刑執行前のような、先の見える恐怖におびえているのが、自分でもわかった。

「お……俺たちが居る世界って……。ここはどこだ」

「そうね……結果から言えば……」

「い……言えば」

「元の世界に戻っていたのよねぇー!あははは!」

そして、大笑いをかますエリーゼ……いや、待ってほしい。なに一人でシリアスな雰囲気出しておいて大笑いしているのさ!

「なんだよ……びっくりさせるなよ……」

「いやー!光の勇者のマジ顔は、面白いわね!あはははは!」

お腹を抱えて大爆笑するエリーゼに俺は、少しイラッと来てしまった。俺は、本当にこいつのこと嫌いだ。

「ま……まあ……あはは……おかしいのは、おかしいのよ……だって、チサトは、後発的に目覚めた幻獣なの……正確には……はは……私たちが、こっちに戻ってきた時あたりに目覚めている」

「笑うか、シリアスするかどっちかにしろよ」

大爆笑しながら、凄く不穏なことを言うエリーゼ。俺たちが、この世界の戻ってきてから、つまりこれは、矛盾だ。

「でも、もう、察しはついているのでしょう」

「つまり、俺たちが、この世界に戻ってくるとき、異世界からの帰還自体も、ありえない現象。もしかして、この世界の修正力が、千三十に与えた?俺たちの世界が、何かによって変えられているのかもしれない。矛盾正すため、千三十が幻獣に覚醒した?」

「そう、それが私の推測。世界は、はずみによって矛盾を生んだのかもしれない。矛盾の当事者の私たちは、気を付けようってこと」

「……気を付けろって、なにに」

「まあ、それは、分からないわ。それにお姫様が戻って来たわよ」

俺が、何に気を付けるのか、エリーゼに聞こうとしたのだが、エリーゼは、扉の向こうに、怪しく俺たちを睨む目……千三十に気がついた。俺たちは、こんな話を千三十にする訳にもいかず、そのまま異世界のことは、一旦忘れ、現代での日常を楽しむことにした。

ちなみに千三十をなだめた後、最後の最後でエリーゼと歌ったデュエット曲で100点を取ってしまい、千三十の機嫌は、少しだけ悪いままカラオケは、終了時間を迎えた。


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