7話『光の飛び降り勇者(笑)』

「あはははは!なに!?魔力?視線を感じたですって……ぷーくくく……傑作ね、光の飛び降り勇者様!現代の日本には、精霊の風なんてないのに魔力が感じられるわけないじゃない!」

「そこまで笑うか、エリーゼ」

そして、検査入院から解放された日の放課後、俺の家にエリーゼを呼び今日のことを話すが、エリーゼは、大爆笑で人のことを変なあだ名で呼んでくる。

「いやだって……魔力が放出できないのは、私達でも立証済みなのに……今更、エルスダムでの栄光が惜しくなったのかと思うともう滑稽ね」

「なんだと、魔力も感知できないヘッポコ魔導士様にそれは言われたくなかった」

「あらあら……元が抜けているわよ。もう……くくく」

笑いをこらえきれないのか笑いが漏れている。

「……本当にエリーゼって順応するのが、早いよな。もうクラスに馴染んでいるし」

「それは、シンスケがコミュ障だから悪いのよ。それに私は、完璧美少女だから!」

「くっ……なんも言えない」

復学して二週間ほどが経ち、異世界から帰ってきた俺たちには、差ができていた。悔しいが容姿も良く、社会への順応性が高い高スペック女と現代じゃタダの高校生でしかない俺では、その結果も納得するしかない。

「しかし、感じるのは、おかしいだろ。火のない所には、煙は立たない」

「そうね……けど、魔力はおろか、精霊の風が無い世界で、魔族が現れるのは、ありえないもの。シンスケも知っているでしょう。世界の修正力」

「まあな……」

修正力。自然現象の様なもので、その世界に相応しくないものを元に戻す力。

これは、絶対で、神ですら抗えない力。神にすら抗えないものをただの魔族が、修正力に抗って、この世界に来るなんて、ありえない現象であった。

だからこそ、戦いが終わって、俺たちは、現代に戻されたわけである。

「けどこの世界も融通が利かないわよね……」

「まあ、そこは、同意。異世界にいきなり飛ばされたと思ったら、すぐに元の世界に戻っているなんて……」

「はぁ……」

「はぁぁぁ」

俺たちがため息をつくと、家のドアを開く音と、よく聞く幼馴染の声が聞こえて来た。

「お邪魔します。伸介の退院のお祝いに食べ物買ってきましたよー」

「あー!チサト!お帰り、男盛りハイパー激アマプリンパフェ買ってきた?」

「もちろん!エリの大好きなホールケーキサイズの奴です!」

「サンキューチサト!大好きぃー!」

……なんで、この二人、こんなに仲良くなっているのかは、分からないが、俺も甘味の香りにつられて少しテンションが上がってきた。

「お!と言うことは、ポテチのショートケーキ味は、あるか!あれ、俺大好きなんだよ!」

「……すみませんシンスケ。流石にあれは、食べ物ではないです」

「そうよね……甘味にポテチとか……センスの低さが伺えるわね」

「あれ?これって俺の退院祝いだったよね?君たち仲良すぎない?流石に冗談をそこまで否定されると俺だって悲しくなるのだが」

狙ったような反応の二人……少し傷つく。

しかし、そんなの関係なしに進行するのは、企画者でもある千三十である。

「まぁ!伸介のつまらない冗談は、さてとして、始めますか……退院祝いの名を関した、第一回、異世界から現代へ社会公正会議を……」

「え?だからこれは、俺の退院祝いの……」

「ちっちっち……これは、異世界に入り浸りすぎてしまい忘れてしまった現代での常識を不遜ながら私、三十木千三十が優しく指導する会議なのです!」

どや顔で指を天井につきあげる千三十。なんというか、いつも楽しそうにはしている千三十なのだが今日は、やけに張り切っていた。

「えー!シンスケは、光の飛び降り勇者様だから必要かもしれないけれど、私は、もう、完璧にこの世界に馴染んでいるじゃない」

「その呼び方はやめろ」

少し不服そうな、エリーゼ。この自信は、本当にどこから来るのだろうか……しかし、千三十は、少し引いていた。

「え……でも、学年の違う私ですら知ってるエリーゼの奇行もありますよ。理科の授業で、変な呪文唱えて、火を起こそうとしたりしましたし。体育の授業じゃ世界記録にすら届くような記録を出すや、無駄に負けず嫌いで、伸介と喧嘩する時に異世界の話を持ち込んで……私から見たら、伸介とは、別ベクトルで現代社会に馴染めていないと思うのですが……」

「キ……キノセイヨ」

「おい……エリーゼ。完璧美少女ってどこだ」

「う……うるさいわね!」

壮大なブーメランがエリーゼを襲い少し顔を赤らめて否定する。

「はい!二人とも!二人で盛り上がりすぎないでください!私が寂しいです!」

俺とエリーゼの喧嘩を止める千三十だが、とめ方が、少しお子様みたいでホッコリするのだが、千三十の今の雰囲気は、ロリッ娘幼馴染ではなく真面目な委員長みたいになっていたのであった。

「でも会議って具体的に何をするのかしら?身のない会議をするくらいなら、打ち切って、ささっと実行する方が効率的よ。戦でも速さが重要なのだから」

「はい!エリーゼ!減点1です!!」

「なんで!」

「いや、現代日本で戦の話とか……まだ、エリは、異世界の頃の感覚のままです。普通の女子高生は、なんか頭よさそうな会話なんてしません。もっとウェーイとか、それな!を連発して頭悪そうにふるまわないと!」

千三十は、何か高校生活に不満でもあるのだろうか、凄く、高校生と言う生態を馬鹿にしているような失礼な言い方だった。

「う……うえい?それな?え……えっと……?シンスケ、この謎言語。あなたに分かる?」

「分からん!」

「……うーん。なんというか、お二人とも、キャピキャピ感が足りないみたいです。もっと騒がないと!」

千三十は、そういうのだが、騒ぐとなると祭りか、戦いの二択しか異世界にはなかった。しょうがない、三年間、お互い戦場に身を投じていたのだから。

「騒ぐ……サバトかしら?」

「それは、魔族だけだろうと言いながら、エルスダム側も荒れていたからな。軒並み祭りは、中止だし」

「なんでしょう。そういう世界に私は飛ばされなくてよかったです」

異世界の話をすると、よく引くようなった千三十だが、そこまで、エルスダムは、娯楽には……よくよく考えたら無かった。

「いやいや……よく考えろ……あったはずだ……娯楽。エリーゼって、何かあったか?娯楽?」

「うーん。基本的には、魔族は、いつでもお仕事だったし……せいぜい血の池地獄を魔法で、ろ過して綺麗な湖にしたくらいかしら……魔王様は、喜んでいたけれど、そこに生息していたインスマウスの魚人一族の反対運動があったし……基本的には、制圧と圧政が私の役割よね……」

「魔族って意外と楽しそうだね!」

エリーゼは、平然ととんでもないことを言った。確かに、エリーゼの軍が制圧した土地は、無駄に整備されていたし……あれ魔族って意外とまともだったのか?

「むしろ、シンスケは、エルスダムで何が楽しかったの?」

「賭博と娼婦街……両方行ったらジャンヌにトラウマになるくらいの折檻があったから、全然行っていなかった。こっそり行って、どっかの国王から国の利権すら奪い取った日には、もう死ぬかと思うほどジャンヌに折檻を……あぁやめて……」

「……シンスケも苦労したのね」

「ああ……」

そういえば、ジャンヌと出会ったばっかりの頃、冒険のさなか、賭博街に泊まった時、こっそり行って、大もうけした次の日、全額寄付させられたっけ?

うん……怖かった。

「はぁ……二人とも、なんというか、うんスケールが高校生の範疇越しています」

深くため息をつくのだが、やっていた俺たちは、ただの高校生であったから、別に変な所はないと思う。

「……圧政が?」

「賭博で一夜のぼろ儲けが?」

「当たり前です。むしろ、現代で、圧政とかギャンブルで国を手に入れることが普通にできる高校生がいると思いますか?」

俺と、エリーゼは、きょとんとしていた。そして、二人で目を合わせると言いたいことは、一致していたみたいで……

「「できないの!?」」

「できません」

すぱっと言い切られてしまうと俺たちは、少し切なくも感じるが、千三十は、そのまま、話を続けていった。

「二人が、異世界に忘れて来たものは、ずばり!現代での楽しみ方!なので、まずは、今週のお休み私と、普通の高校生の遊び方を思い出しましょう!」

高校生としての遊び。それは、こっちに戻ってきてから、できなかったものである。俺とエリーゼは、こっちに戻ってきてから、自分たちと高校生のギャップから、遊ぶということがなかったから、その響きは、甘美であったが……

「えー、私がシンスケと遊ぶ?」

「無理だな。楽しめない」

「……二人は、本当に現代社会に馴染む気があるのですか?」

千三十は、呆れた顔で俺たちをジト目で睨んできたが、しょうがない。だって俺たちは、まだこっちに戻ってきて日が浅いのだから……

「……二人とも、日曜日は、予定を開けておいてくださいね」

「「い……イエスマイロード!!」」

しかし、千三十の含みのある笑顔には、俺たちも逆らえなかった。なぜだか、分からないが、逆らえない本能のようなものであった。

あの笑顔こそ、高校生がしてはいけないものなのではないだろうかと言うツッコミは、控えておくことにした。怖いから。

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