6話『自由への羽ばたき』

「えー、であるからして……」

授業と言うのは、きっと催眠音波が流れている。そんな気がしてやまない、今日この頃。

三年ぶりの授業も何度か受けて慣れて来たのだが、どうにも瞼が重く眠い……真面目に授業を受けているエリーゼは、凄いと思う……

「……篠崎センパイ、寝たら、とめチン絶対当ててくるから、起きていた方がいいっスよ」

「だから、センパイは、やめろと何度も言ったろ、伊織……」

そんな中、授業に集中できない仲間、戸倉伊織(とくらいおり)は、ひそひそと俺に話しかけて来た。

「でも、先輩は、先輩ッス」

「はぁ……伊織授業中は静かに寝る……だろう」

伊織は、俺が、異世界から帰ってきて最初に話しかけて来た後輩で、今は、同級生である。

異世界に帰ってきたはいいものの、エリーゼの様に高い社交力のない俺は、孤立寸前だったところに話しかけてきたのが伊織である。

一言で言えば、好奇心の塊で、それを隠さない体育会系のさっぱりとした野郎友達。

「良いんッスよ……俺、先輩の失踪中のお話が聞きたいッス。授業なんかよりよっぽど有意義ですし」

「だから、記憶がないの……何度説明させる」

「嘘ッス……同じ復学者のエリーゼさんとは、妙に仲がいいじゃないですか」

伊織は、妙に勘が良くしつこく、そして人の触れてほしくない所にもズカズカと踏み込んでくるが、不思議と嫌な気分はしない。伊織の人間性でもあるが、正直うらやましいほどのリア充男。

「お前の目は節穴だな……あいつと俺のどこが仲良く見える。口喧嘩を何度していると思っている……」

「けど、エリーゼさんの弁当って篠崎センパイお手製ですよね?」

「ぐ……そうだが」

「篠崎センパイたちが、帰って来た日は、同じでしたね」

「……そうだ」

なぜ、こう追いつめられるのか俺は……そして、伊織は、さらに続けた。

「放課後、いつも一緒に帰っていますよね」

「チッ……勘のいい後輩は……って、やりたいだけだよな」

「バレました?いやー先輩といると飽きませんね……。好奇心がくすぐられるッス」

「やめろ、俺にそっちのけは、ないからな」

俺は、めんどくさそうに伊織をあしらおうとしたが、伊織は、止まらない。

「……ちぇ、それなら、先輩。ドッペルゲンガーって知っているッスか?」

「あーん?自分の分身にあったら死ぬってやつだよな」

関係のない話題を拭てくる伊織だが、恐らく、彼の好奇心と言うのは、なにも俺だけでなく、与太話にも興味があるらしい。

「そうっス。それが最近出るらしいですよ」

「……それがどうした?俺には関係ないだろう」

「いやー、それが、先輩たちが見つかった後から、このうわさが爆発的に多くなって」

伊織は、ワクワクとして俺にそう話し始めるとさらに話し始める。

「いや、篠崎センパイなら知っているかと。むしろ先輩は、ドッペルなのかも知れないっスね」

「そんなわけないだろう?」

「やっぱりそうですよね……いや、もしかしたらと。だって篠崎センパイ……怪しいじゃないですか」

ニマニマとした、笑顔は、なめずるように俺を包み込む。

「あまりくだらないこと言うなよ」

「言いますよ。だって、センパイをからかうと楽しいですもん」

「俺を玩具にするのは、やめてくれよ!」

いつもみたいなノリに誘導されついついツッコミに熱が入ってしまった。

しかし考えてくれ、今は、授業中である。こんな大声をあげてしまえば、目立つわけで…

「せ……先輩……」

…クラスの視線とクスクスと嘲笑のような笑みを浮かべるエリーゼ、そして、教師……とめチンの冷静で冷たい視線と目が合い。

「あー、篠崎。この問題を解く自信がよほどあるみたいだな。ちょっと解いてみろ」

「いや先生……」

「篠崎、解けるよな」

「はい……余裕です」

俺は、先生の圧に負け、席を立ち黒板の方に移動する。伊織は、謝るように手を合わせて来た。アイツ……いつか、絶対アッと言わせてやる。

「えーと何々……」

俺の前には、黒板に書かれた数式がずらりと並ぶ。数学なのに、なぜ、xやyの英語を大量に使うのだろうかさっぱりである。

「え……と」

「……グ!」

俺は、助けを求めるように黒板の目の前に座るエリーゼに目で、救難信号を送るがエリーゼは、珍獣でも見るように親指を立て、楽しんでいた。絶対に次の弁当に一個だけ激辛ハンバーグを入れてやろう。

「篠崎?どうした?」

「あ……あははは、今解きますとも……ッ!」

俺は、震えた手で、チョークを握り、黒板に書きだそうとした瞬間、背筋に感じる何かが見ているような感覚。

エリーゼは、気が付いていないみたいであったが、これは、異世界で、魔族が近くにいる時の見られている感覚である。

「校庭か!」

「し……篠崎!」

俺は、春先の空気を入れるため、開いていた窓の方をから感じる魔力を追いかけようとし、窓の方に走り出す。これは、おかしい。ここは、異世界ではないはず。

俺は、慌てて窓の方に走りだす。

「ちょ……シンスケ!あんた!」

そして、俺の奇怪な行動に、いち早く反応したエリーゼが止めにかかったが、すでに時遅し。俺は、三階の窓から飛び降りていた。

「あ……アンタ今じゃもう……!」

「そ……そうでしたあぁぁぁぁぁ!もう俺、勇者じゃなかったあぁぁぁぁぁぁ!」

俺は、重力に身を任せて、下に落ちていき、木の枝を折りながら、落っこちてしまう。

「……痛ぅ。……ま……魔力の反応は!」

しかし俺は、一階に落ちた時点でもう感じた魔力はなく、残っていたのは、教室から奇妙なものをのぞくクラスメイトと、念のための検査入院に、反省文と言う地獄のような仕打ちだけであった。

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