2話『仕組まれたような偶然……いや本当に偶然』



そうして、俺たち数日後、退院すると、現代社会は、さらなる試練を俺に与えて来た。それは、高校である。

現代時間で言う一年、休学扱いになっていたらしく晴れて、高校生としての生活に復帰したのであるが……

「なんでお前がいる……エリーゼ」

「そんなの私が聞きたいわよ」

復帰の一日目ということで、今日は、授業に復帰するわけでなく、休学生のオリエンテーションということで生徒指導室に呼ばれたのだが、そこには、なぜか、俺と同じく霧埼高校の制服を身に着けたエリーゼが、不機嫌そうに座っていたのである。

「いや、エルスダムにいた頃から、お前が転生者であったことは知っていたけれどまさか……俺と同じ高校に通っていたとは……」

「はあ……悪夢よ……。どう?シンスケあんた学校やめない?私、貴方と同じ学校に通いたくない」

「いや、やめないぞ」

頭を抱えたエリーゼは、とんでもないことを提案してきたが、俺は、千三十を心配させ過ぎたから、退学届けは出さず真面目に学校に来てしまったのだから今更辞めるなんて言えなかった。

「はぁ……」

深くため息をつくエリーゼ、どれだけ俺のことが嫌いなのだろうか……こいつは……まあ、俺もこいつのことは、大嫌いだから、必要以上に関係を持とうとは、思わなかった。

オリエンテーションの開始時間までまだ少し時間があり、担当の先生が来ていないため、二人だけの空間この気まずい空間でもエリーゼは、苦痛なのか、気まぐれなのか、俺に話しかけて来た。

「で、シンスケは、三年生?それとも一年生?」

「いや、なんで二年生が抜けているんだ、金髪不良娘」

「私が、二年生だから」

「げ……嘘だろう。俺だって二年生……」

「はぁ!嘘でしょ!ふざけないでよ!あんたと一緒に卒業なんて……」

最悪の事実を共有した俺たちは、落胆の色を示した。

「エリーゼさ、お前、が学校をやめるって選択はないわけ?」

「無理、これ以上、家族を心配させるわけにはいかない」

「たく……事情は、同じか」

俺は、エリーゼと同じ質問をしたのだが、エリーゼは、俺と同じく現実世界の家庭があり、エルスダムを恐怖のどん底に突き落とした魔導士もこの世界じゃ、ただの女子高生なのだった。

「……」

「……」

続く沈黙と気まずさ、時間の流れる速度が、極限にまで感じる。

「なんか喋りなさいよ。つまらないから」

「うるさい、黙って待ってられんのか。お前、あっちの世界じゃ、口数が少なかったはずだろう」

「あら、そういう、シンスケは、あっちの世界じゃもっとお喋りだったじゃない。なんなのかしら、現実に引き戻されて無力に打ちひしがれているのかしら?」

「そんな訳あるか、お前みたいに俺はお喋りじゃないだけだ。なんだ、負けた世界から逃げられたのが嬉しいのか?魔導士様」

「む……嫌味なやつね……死ねばいいのに」

「なんだと!」

「何よ!」

売り言葉に、買い言葉。頭に血が上ぼり語彙力が低下した口喧嘩は次第にエスカレートし、お互い立ち上がり相対すると……

「選別の聖剣、光を導く必勝の剣!いでよ!『カリバーン』」

「すべてを焼き尽くす炎!燃やせ!『クトゥグア』」

俺たちは、異世界での名残か、お互いに最も信頼している呪文を唱えたが、ここは、精霊の風が吹かない地。現代の日本に位置する東京であることをすっかりと、俺たちは忘れていた。

「わー、留年した二人は、とっても仲がいいのねー。うん、これは、同じクラス決定ね」

「……」

「……」

俺たちは、自分たちの声以外が聞こえたことに気が付き、その方を向くとそこには、オリエンテーションを担当するであろう、ふわふわのショートヘアーに真面目そうな丸メガネをかけた女の先生がニコニコとこっちを見て笑っていた。

「あー、えーとどなたでしょうか?」

引きつった笑顔で、先生に話しかけるエリーゼ。おそらく、分かっていたのだろうが、わずかな希望をもって現実から目をそらすためなのか聞くと先生は、ニコニコしたまんま話しつ続ける。

「あー初めまして、私、あなたたちの担任をすることになった、飯塚菜々美(いいづかななみ)ですー。よろしくねぇ篠崎君、真雁さん」

「は……はい……」

呆然とするエリーゼ、呪文を唱えていた所を見られていたのが、恥ずかしいのか、それとも先生の言葉が聞き間違えだったと思っているのか、途端に顔を赤くしてしゃべらなくなってしまった。

しかし、俺は、このポンコツ魔導士とは違う。聞くことはしっかり聞かないといけない。

「えーえと、飯塚先生?聞き間違えなら幸いなのですが、俺とこのポンコツ金髪が同じクラスですか?」

「だ……誰が、ポンコツよ!」

呆然としていても俺の嫌味には、反応するエリーゼだが、今は、無視。先生は、なんだか楽しそうに俺たちを見ながら答えてくれた。

「あらあらー、篠崎君は、察しがいいのねー。そうですよー貴方と真雁さんは、明日から同じ教室での学友となりますよー。うふふ、なんというか、凄くアニメとか、ライトノベルとかエロゲーによくある展開で、先生は、今からワクワクですぅ」

聞き間違えでは、なかった。

俺たちは、明日から、異世界で戦った、最大の敵で俺が最も憎んでいる少女と同じクラスになってしまったのだ。

「嘘だろう……」

「本当ですぅ」

絶望のあまり、その後のオリエンテーションについての話は、頭には入ってこなかった。

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