七月二日 夏海陽向の独白

 私は暗闇から目覚めた。

 

 一瞬よくわからない状況ではあったけど、時間が流れるにつれ記憶が脳内にへと流れ込む。


 それはトラックの影。


 それは石榴の実が潰れた後のようにアスファルトに流れる鮮血。


 そして思い出すかのような痛み。


 ……そうか、私は死んだのね。


 生物がいずれ死ぬのは当たり前のことであって自然の摂理なのはわかっていた。 私は自分の死期をいつも砂時計のように例えていた。砂時計を反対にして、流れる砂は過ごし死に絶える時間。そして上の砂は生きられる時間。

 だからこそ思う。


 ――私の寿命は少なかったんだなって。


 でも……こんなの理不尽じゃない。


 なんで神様は私の砂を他の人よりも少なくしたの?


 おかげで未練がいっぱいできたじゃない。


 まだ友達と話したかった。

 まだ部活動を真剣に取り組んで成績を残したかった。

 まだ家族と一緒にふれあい、もっと愛されたかった。


 何より――幼馴染である周君にこの「好き」という言葉を伝えたかった。


 私の初恋の相手である周君にこの思いを伝えたかった。


 もっと早く伝えてればこんな後悔もしていなかっただろう。


「神様、お願いします。少しの時間だけでいいの、周君にこの思いを自分の口から伝えさせてください」


 ただ、それだけを願った。

 ただでさえこんな早くに死んでしまったのに沢山の後悔を抱えて生まれ変わりたくない。

 せめて伝えられなかったこの「好き」を伝えたい。


 ――君はそれを望むのかい?


 暗闇の中からそんな『声』がした。

 神なのか神に近いものなのか神ならざるものなのかはこの際どうでもいい。

 この願いを叶えてくれるのなら――


「はい」


 ――では行こう、暗闇の中から彼に会いに。ただしタイムリミットは二十四時間。それを過ぎたら君はこちらに強制送還だ。


 『声』が聞こえた瞬間――私の世界は反転し、やがて意識が途絶えていく。






 そして私は目覚めた。

 彼のいる世界へと……。


 八月二日。


 私のあるはずのない誕生日の日に、私の最期の一日が始まったのだ。

 






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