幽霊幼馴染は海を所望②
駅前で独り言ショーをしていた俺はその場から逃げるように移動し、海岸に着いた。
海岸は想像通り色々な人が海を楽しんでおり、海岸は人で溢れかえっていた。そして何より気温の高さや照り付ける日光が俺に精神的ダメージを与える。
「ホントにいいのか陽向? 普通に人が多いけどいくら見えないからって人や物とは触れられるんだから、透明人間やポルターガイスト現象みたいな騒ぎを起こさないか?」
「大丈夫! 周君以外の人とは触れられないし、物は周君が大事に使っているものしか触れられないから。あの時この予定表を書くのに使ったペンやノートを使えたのは周君が大事に使っていたものだからだよ!」
「さいですか、なんかお前という幽霊は都合がいいようにできているな」
「でしょ~」
本当に陽向といると幽霊の固定概念が崩れ去る。
幽霊などただ人間に害をなす畏怖の対象で、現在では科学的に考えて存在するはずがないと提唱する人もいる。しかし俺は実際にその真逆の光景を目の前で見ている。
元幼馴染とはいえ幽霊なので科学的に考えようが考えなかろうが存在するし、別に怖くとも何ともないし、ましてや幽霊の状態でも天真爛漫な陽向を見ているとあたかもまだ現世に存在しているのではないかと錯覚してしまう。
まあ、いままで幽霊に抱いていたものは嘘だったわけで、俺はステレオタイプの人間だったわけだ。
実際はこんな陽気な幽霊もいるという事だ。
俺は海岸の人混みに突っ込むと、すぐさま場所取りを始めた。
しかしやはり夏の休日というべきだろう、人も多ければその人たちの場所もすでにいっぱいあるので中途半端な時間帯に来た俺たちは場所取りができない。
「場所無いな……」
「すっごい人が多いね~、もうレジャーシートとか敷いて荷物が置ける場所がないよね」
「さて、どうするべきか……」
「ねぇ周君! あそこの岩場なら誰もいなさそうだよ」
「俺は別にいいけど陽向はあそこでいいのか? 少し狭くはなるけど砂浜じゃなくていいのか?」
「うん! 大丈夫!」
陽向はにこっと笑い岩場のほうに駆けだす。
そんな彼女を追いかけるように俺はついていった。
陽向の言った通り、岩場付近に人はあまりいなかった。
まあ場所が無くて渋々ここにした人が大半だろう。俺達もその中の一人だが。
取り敢えずごつごつした岩場の中から比較的平らになっている場所を探し出し、そこに一通りの荷物を置く。
陽向は海を前にしてそわそわしながら「早く早く」と俺の腕を引っ張ってきた。
「……そんなに行きたいなら別に俺の事待っててなくても行ってきてもいいぞ」
「えー、でも周君と一緒に行きたいよ」
「ここにいて五月蠅くされるよりは行ってきてほしいんだが……」
「周君! 今日は何しにここに来たの!」
「え……、そりゃあ陽向とデ、デートを……」
「聞こえない! もっと大きな声で!」
「くそっ、陽向と一日デートで海に来ましたっ!」
「よろしい、だから早く行こう!」
陽向は荷物(と言っても肩掛け鞄にタオルしか入ってないが)を片付けてる俺の事を強く引っ張り、海へ連れて行こうとする。
別に海は目の前にあるというのに、本当に騒がしい奴だな。
「そんなに急ぐのは良いけどよ、お前水着は着れるのか? 仮に水着着用したとしても周りの人には〝宙に浮いた水着〟とでしか感知されないんだろ?」
「大丈夫だよ周君! 水着なんて必要ないから」
「そうか、幽霊だから濡れても平気という事だな」
「それはそうだけど……、でも海に来たならやっぱり水着着たいじゃん! だからね、えいっ!」
陽向がくるっと回ると、今まで来ていた服がなくなっており、代わりに水着を着ていた。
その水着は普段の明るい陽向を連想されるような明るい色ではなく、妖艶な女性を演出するかのような落ち着いた感じのブルーのビキニを着ていた。
彼女が腰を捻るとふわりとスカートがはためき、そのシルクのような白い柔肌に日光があたかも陽向を演出するかのように照り付けるようで陰陽がはっきりしており、俺の目を惹きつけた。
陽向が生きていたころでも見れてはいなかったであろうその姿に俺は思わず見とれてしまった。
「どう周君? 似合う……かな?」
「…………」
「何か言ってよ……」
「あ、ああ。すまん。思わず見とれちゃってさ、とても似合っているよ。普段から天真爛漫なお前が全く正反対の大人みたいな水着を着ちゃってさ。しかもそれが似合っているなんて反則だろ」
「惚れたか~周君?」
ウリウリと陽向がこぶしを俺の頬にぐりぐりとやりながらからかってくる。
その行為自体はとてつもなくしつこく五月蠅いのだが、正直陽向に惚れていた俺にとっては途轍もなくうれしい行為だった。
俺のために水着を見せてくれているんだぞ!
いや~眼福眼福。
「まさかな、まあ大抵の男のハートを撃ち抜けるだろうな。」
「私は周君のハートを撃ち抜いた、かな?」
「言っただろ? 〝大抵の男のハートを撃ち抜ける〟って。つまりは俺もその大抵の男にすぎないからな。撃ち抜かれたよ」
俺の言ったことを聞いた陽向は頬が朱に染まり、俺に向かって「バカ」と小さな声で耳打ちしてきた。
その言葉は俺の心臓を一瞬にして引き締めた。そしてそのまま通常より鼓動が早くなっていった。
「おい、今バカと言ったな!」
「気のせいだよ!」
「絶対言っただろ! 覚えてろ! お前に水ぶっかけてやる!」
「私は幽霊よ? やれるものならやってみなよっ!」
そう言い俺と陽向は海水を掛け合った。
こうバカをしていないと心臓の鼓動が収まらないと思ったからだ。
とにかく今はこの雄大な海を陽向と一緒に遊ぶことだけを考えた。
「取り敢えず水着に着替えてくるよ」
「うん、待ってる」
こうして俺たちは、夕方になるまでこの海を気が済むまで十分に遊び倒した。
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