1-5:王を騙り国を簒奪した女
この日、アクシーノ・リテア史上類を見ない反乱闘争が勃発した。
当時国政を我が物としていた女王リザと、彼女に反発する首脳陣、騎士団、および国民との間の衝突である。
『傾国の美女』、『流輪の反逆者』、『魂の破壊者』、さまざまな呼称で恐れられた彼女だが、中でも最も通りが良い名は『
王を
アクシーノ・リテアにおいて国王というものは血筋では決まらない。数年に一度しか訪れることのない『
時期が来れば国中の有資格者は首都セントロメシィ・トリアに集められ、
リザは現在から数えて二代前の国王、タージュに選ばれた人間であった。
もともと天煌月生まれの者には常人にはない特別な能力が天から授けられる。タージュ王もこれに漏れず、類い希な判断力と先見の明を兼ね備えた傑物であった。
流輪を信仰する諸宗派を統合させた『湖の会談』、人口過多に陥り自壊寸前だった村を解体し、国費をもって各都市へと移住させた『ポルトの大移動』などが、その功績の一例である。
一方のリザは容姿において天煌月生まれに恥じない素晴らしい魅力を持っていたが、それ自体は珍しいものではなく、唯一目を惹くのがその特異な髪色という程度の田舎娘だった。
だからこそタージュが王直属の選定人たちの推挙を一蹴し、南方の一地方民に過ぎなかったリザを選んだことに、周囲の者たちは愕然としたのだ。
――あの賢王が生まれ月しか取り柄のない娘を選んだのは、我々すら見過ごした王たる資質がこの娘にはあるということか。
タージュ王の数々の功績を目の当たりにし、また直近で支えてきた者にしてみれば、そう解釈するしかない決断だった。
無論、王の判断は絶対である。
反対する者など誰もいなかった。決断に異を唱えること、疑義を抱くこと、それすなわち王としての能力を疑うということだからだ。
ここで誰かひとりでもリザの能力について詳しく調査、分析した者がいたのなら、その結果知り得た事実をしかるべき場所で
リザの能力――それは『ジェノオス』という
ジェノオスとは支配の魔法。晶籍に宿る魂を支配し、持ち主の人格、記憶、能力を操る。
王を決めるのは王の意思のみ――この大原則がリザの力の前では崩れる。
彼女はジェノオスを用いて先王を支配、彼の意志とは関係なくリザを王として認めさせた上、さらに
即位してしばらくの間、彼女は首脳たちの影に甘んじていた。
朝議には必ず顔を出し、言うべきは言い、頷くべきところは頷いた。引退した先王タージュもよく彼女を補佐したため、周囲の動揺はほどなくして収まっていく。
このときはまだ、彼女は自らの意図をひた隠し、表向き平穏を保つようにしていた。ジェノオスの存在も、また彼女がその唯一の行使者であることも、誰も知り得なかったのだ。
雲行きが怪しくなってきたのは、即位から半年が経過した後のことである。
奇妙な事件が起こった。
『湖の会談』により誕生した巨大な宗教団体、ラファーナ会の宣教師数人が、
『晶籍を重んじ、流輪の定めに従って生きる』というラファーナの教義そのものを否定する暴挙暴乱である。
が、それだけのことをやってのけたにも関わらず、いくら調べても動機、目的ともまったく明らかにならなかった。しかもその後、同様の事例が何件も相次いだのである。
一連の事件に対し、リザはある
『ラファーナ会、およびそれに属する全ての団体の活動を差し止める』
誰もが、惨たらしい悲劇を防げなかったラファーナ会に対する一時的な制裁措置だと考えた。
だが、続けて公布された第二の勅令を見て人々は度肝を抜かれる。
『ラファーナに
黒色化も白色化も晶籍特有の現象である。
前者は流輪の定めに逆らい続けることで起こり、後者は晶籍の持ち主が死亡することで起こる。晶籍を持ち主から引き離す、あるいは破壊する方法は基本的にこの二種類しかない。
第二の勅命の意味するところ。
それは『ラファーナの教義に逆らうか、命を捨ててでも晶籍を渡せ』ということだったのだ。
流輪の定めに従うとするラファーナの教義はアクシーノの法の原則にも通じる上、国民の多くがラファーナに帰依している現状からすると、最悪、社会構造そのものを否定してしまうことになりかねない。
当然、至る所から
だがリザは一顧だにせず、さらに衝撃的な言葉を吐く。
「私は流輪もそれを
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