第4話
つまりは一つの組織が勝手に動いていればそれはその世界の安定を覆してしまう。
よって力のある者達は力があるからこそ秩序を守らなければいけないという義務が発生する。
そして俺のやっていることは仕事の優秀さを考慮しても見逃せないということなのだろう。
とりあえずは使者が来たら大人しくやり過ごすとするか、例の襲撃者はその後で殺せばいい。
ふと時計を見ると時刻は六時四十分を指している。
「いかん……風呂に入らないと」
誰に言うでもなく一人言うと俺は固まった血が割れるバリバリという音を立てながら服とズボンを脱ぎ、洗濯機の中にいれる。
あらかじめ水を溜めておいた洗濯層が薄赤に染まるが、そのまま洗剤を入れてスイッチを入れた。
ゴウン……ゴウンという年台物の洗濯機が出す音を聞きながら俺は湯気の立つ風呂場のドアを開けて中に入る。
体中にこびりついた血と臭いを消すために。
そしてすでに傷はふさがっているのだった。
天気は快晴。
晩春を過ぎ、初夏に入り始めた陽気は早朝の雰囲気と相成って爽やかな感想を持たせてくれる。
睡眠不足の身体をいたわりつつゆっくり歩いていると、背後から誰かが駆けてくる音が聞こえた。
ああこの足音は……、
「よう!綾面、元気してるか?」
この陽気と競うような爽やかさで南条清嗣が俺の肩を乱暴に叩いて挨拶してくる。
「やあおはよう、南条君……ふわぁ……朝から元気だね」
「何だ何だどうした?朝から元気ないじゃねえか」
寝不足の頭にガツンと響くようなでかい声で南条が叫ぶ。
いや本人としては叫んでいるつもりは無いのだろうが、いかんせん陸上部所属の体育会系なこいつは普通の人間よりも大分声がでかいのだ。
全く許されるならこいつの声帯を抉り取って声を十分の一くらいの大きさにしてやりたいな。
「まあいいや……部室に用があるから先に行ってんぞ」
そう言って南条は力強い足取りで走っていってしまう。
俺はほっと一息つく。
さすがにクソ眠い状態で、ボケた爺に話かけるような声で話されていたら殺意が沸いてきそうだったからな。
宗家からの使者の手前と今月の殺人許可数は満杯になっているので我慢しなければならない。
「おはよう、綾面君……ってなんかすごい顔だけどどうしたの?」
栗色の長い髪に程よく整った顔の間宮 姫が声をかけてきて驚く。
「いや……睡眠不足でさ」
力なく返すと、間宮が大きな瞳をクリクリさせながら面白そうに首をかしげる。
「ええと……まだ中間テストは終わったばかりだし、もう期末テストの準備を始めてるの?中間テストがそんなに悪かった?」
「違うよ、ちょっとあるゲームにはまっちゃってさ、それで徹夜してしまったのさ」
「へえどんなゲーム?そんなに面白いの?」
間宮が目を輝かせて聞いてくる。
忘れていた……この女は大のゲーム好きで楽しいことを常に求めつづけ、そのためには金も時間も惜しまないということを……。
どうしようか適当なタイトルを言ってもすぐにばれるだろうし……。
「い、いや……ゲームと言っても……その……知り合いが作ったゲームをやってるだけだから……名前は知らないと……思うよ……」
そこまで言ったところで自分のさらなる失敗に気づいた。
間宮の目がキラキラと文字通り新しいおもちゃを欲しがる子供のように輝いている。
まずい……、よく考えなくてゲーム好きの前でそんなことを言ってしまえば興味を持つことは当たり前じゃない、やはり寝ていないせいか頭が回っていないのか?
「す、すごいね!綾面君の知り合いってゲーム作ってる会社の人なの?なんて会社に勤めてるの?やっぱり……とか……?もしかして……だったら嬉しいな私あそこの……シリーズ大好きなんだよね……」
凄い勢いでおそらくはゲーム会社であると思われる名前を列挙しているが、そのほとんどが俺にはわからない。
困惑顔をしている俺をよそに間宮は尚もしゃべり続け止まる事がない。
全く女とマニアが合体するとこうも煩いものなのか……マニアはとにかく事細かに情報を列挙したがり、女はその本性として話したがりだ。
つまりこの二つが合体している間宮はおそらくこの地域で一番うるさい存在になっているのではないだろうか?
少なくとも俺にとってはいま世界で一番になっているが……。
「それでねそれでね……聞いてる?綾面君」
顔を覗き込む間宮に一拍置いて、
「うわっ!ちゃんと聞いてるよ!」
驚いて後ずさるという純情少年風演技をして返す。
ああ早くこの場から立ち去りたい。
「だからね……私にもそのゲームを……」
「駄目!」
言い切る前に断る。
当然間宮は不服そうな顔をして、
「どうして?」
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