第5話

 と当然の答えを返す。


 俺は疲労で本来の能力の半分くらいしかない……つまり半熟頭で言い訳を高速で考えようとするが、無意識なのか何処かからの電波なのか口から勝手に言い訳が飛び出す。


「実はそのゲームまだ発売前でトップシークレットなんだ……だから、知り合いが誰にも見せるなって……」


「ええ……そっか」


 間宮が残念そうな表情を浮かべる。 


 ほっ……、これで何とか誤魔化せそうだ。


「それじゃ秘密にするから少しだけやらせて」


 満面笑顔でとんでもないことを言いやがる。


 思わず俺の顔も引きつった。


「ねえいいでしょ?お願い!この通り!」


 可愛らしい仕草でお願いをする間宮をよそに俺はそっと周囲をうかがった。


 残念ながら登校時間中のため俺達の横を同じ制服の男女が何をしているのだろうと興味深げに横目で見ながら、急速に興味を失ったように視線を前に戻して歩いている。


 残念だ、人通りがなければこのうるさい女を始末できたかもしれないのに……。


「駄目?どうしても駄目?」


 相変わらず間宮は愛くるしい笑顔で俺の返事を待っている。 


間宮はマニアではあるが、中々可愛らしい顔をしている。


 スタイルも少々胸は薄いが悪くない……普通の高校生男子なら喜んで招き入れるだろうが、普通の高校生ではない俺には……。


 ましてや家などに入れられるはずがない、今朝風呂に入ってうっかりのんびりしてしまったので床にたれた血の掃除を後回しにしてしまったのだ。  


 しかも換気も中途半端で家の中は鉄臭い臭いでたっぷり包まれている。 


俺が家に帰る夕方頃には腐り始めた血がさらに臭いを悪臭にエスカレートしてくれるだろう。 

「……どうして黙ってるの?迷惑だった?」


 今度は泣きそうな顔で間宮が俯く。


 もちろん嘘泣きだ。 


人間がこの程度でましてや女が泣くはずがないだろう。 


泣くとしたらものすごい情緒不安定なんだろうが、そんなやつはそもそも元気に学校に登校しない。


 暗い部屋で手首でも切ってるか、死んだ目で街中を徘徊していると相場が決まってるってもんだ。


 しかしどうすればいい?


 すでに登校する同じ学校の奴らから、何か女を泣かしているという誤解をされ始めている。


「おいあいつたしか……」


「何をやってるんだ?」


「あの子泣いてるぜ」


「間宮さんを泣かしている!」


 非難轟々だ。 仕方なく俺は軽く溜息をついて小さく答えた。


「……わかったよ」


「ほんとに!」


 途端に間宮が目を輝かせて顔を上げる。 

 

 やはり嘘泣きだったなこの女……。 


そこで俺は彼女の耳に顔を近づけて、そっと囁いた……。


「ただし、今日来るときに下着の代えとお父さんお母さんに外泊の許可を貰ってくること……いいね?」


「えぅっ!それって……」


 俺は何も言わずにニッコリと作った笑顔で彼女を見つめる。


 ボンッ! という音が聞こえてきそうなほど間宮の顔が赤くなった。 


そして口を何やらモゴモゴと動かして、


「あ、あの……わた……その……キャーー!」


 大きく叫んで走っていってしまう。


 背中側からでもはっきりとわかるほど耳を赤くして……。


 ……意外に純情だったんだな。


 うそ泣きするくらいの狡猾さはあるのに……。 


 まったく女ってのはよくわからない。 


だがとにかくこれで彼女を家に連れてくるはめになることは避けられたようだ。


 あれでもまだ家についてくるようなら昨日の不良達のようになってもらうことになっていたからな、間宮のことは嫌いではなくむしろ好きな方の人間だったので殺すことにならなくて本当によかった。


「クスッ」


 後ろで聞こえたかすかな音に思わず振向く。


 間宮や南条……そして俺と同じ歳くらいの少女がそこには立っている。 


 年齢に比べると少し幼いかんじのワンピースを着て、肩の辺りでバサリと無造作に切られた後ろ髪に鋭くやや細い目、そして不敵に笑うその顔はともすれば何か嘲笑すらしているようにも思えてしまうが、何とも言えぬ上品さがそれら全てを包みこんで不思議な雰囲気をかもし出していた。


「ええと……君は?」


「……殺す気か?」


「えっ?」


 一瞬で身構える。 


明らかに周りの空気が変わった。 


この女は違う。 


他の奴らとは明らかに違う……もしかして昨夜の敵か?


 用心深く少女を上から下まで見つめる。


 違う……。


 彼女は昨夜の敵ではない。


 赤い髪ではないし、背丈もあいつの方がずっと小柄だ。 


それでは彼女は一体誰だ?


 少女はうっすら笑ったまま立ち続けている。


 気づくといま道に立っているのは俺達しかいない、まるで自分達だけ別の世界にスライドされたかのようだ。


「お前……誰だ?」


 俺の疑問の声に彼女は笑ったまま首を傾げるだけ。


 なんてイラつく行為だ。 

 

 俺はゆっくりと距離をとりながら臨戦態勢に入った。

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