小説でいちばん大切なこと

 なんだかわかりますか?


「読者をイライラさせないこと」です。


 簡単そうでしょう? 実は、これがとっても難しい。



 なぜならば人間にとっていちばん難しいのが、「自分を客観的に見ること」だからです。


 人間というのは、自分が創ったものに愛着を抱きます。価値があるように思えてきます。あろうことか、ほかの人間も、同じように価値があると感じるだろう、と思ってしまうわけです。しかも、自分が苦労して作れば作るほど、そう思います。たとえどんなにひどい出来であったとしても、です(行動経済学者ダン・アリエリーより)




 小説も同じです。


 書いていると、つい、面白く思える。

 自分の思ったこと、考えたこと、感じたことを書きたくなる。



 でも、そういった「自分のこと」は、往々にして「うざい」のです。


「思想」や「お説教」は、読者のもっともきらいなものです。


 楽しく居酒屋で飲んでいたのに、自分に興味のない政治や宗教や仕事の愚痴をしてくる友達がいたら、一気に興ざめしませんか?


 実は、書きはじめた人のほとんどが、小説の中でそれをしてしまうのです。




 読者は作者の顔がちらつくのをいやがります。


 あなたの個人的な思いなど、だれも聞きたくないのです。


 読者が読みたいのは登場人物の考えであり、彼らの行動であり、彼らの行方です。

 まちがっても、創造主たる作者のことなど考えたくありません。


 作者のことを考えるのは、読み終わって、しみじみと「これを書いた人、すげえ!」と思うときにとっておきましょう。




 地球には70億人の人々が住んでいます。

 あなたはその70億の中の、たった一人です。


 たった一人だから、あなたの考えていることは、あなたにしか共感できません。

 自分が70億分の一である「少数派」だと、自覚しましょう。


 あなたはオンリーワンです。

 オンリーワンのあなたの考えなど、だれも聞きたくない。


 小説を書くときは、自分の考え方と距離を置き、せめて日本にいる、一億人の人だけでも共感できるようなものを書いてみてください。


(今、私はおおげさに書いています。本当は、一億人が共感できるものを書くなんてだれにも不可能です。ですが、一人にしか伝わらないものと、百人に伝わるものでは、やはり明確な境界線があるような気がしてなりません)





 つまりなにが言いたいかというと。


 独りよがりはすぐにばれます。



「自分に距離を置くこと」



 これができれば、読者はイライラしなくなります。

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