目覚めるアデル
孤独が押し寄せてきた。身体を打ちのめすような孤独だった。エヴァンジェリンの顔が真っ先に思い浮かぶ。彼女に会いたい。彼女はどこにいるのだろう。ガーネット家には近づけそうにもない。
もしかしたら、どこか別の場所にいるのかもしれない、とミカゲは思った。足に力をこめ、気力を振り絞って、なんとかミカゲは立ち上がった。エヴァンジェリンを探さなければならない。何のために? と深く考える気持ちにもならない。とにかく彼女に会いたかった。
ガーネット家に背を向けると、少しは身体が楽になった。ミカゲはまた一歩、雪の中に足を踏み出した。
――――
アデルは目を覚ます。最初に目に入ったのは天井だ。白い天井。ここはどこ? アデルは考える。……ミカゲさんの家だわ。私は、私たちは「冬眠」に入ったのだった。ということは……もう春? いいえ、違う。
明るさが全く違う。それに風の音がする。春の風ではない。天気の悪い日の、嵐の日の、乱暴な風の音だ。春にも嵐はあるけれど、目覚めの日がそうだったということはない。
アデルは思わず目を閉じた。ここは多分……「冬」なのだ! 私は「冬」に目が覚めてしまったのだ……! 恐怖が込み上げてきた。固く目を瞑って、再び眠ろうとする。けれども頭が妙に冴えている。眠れそうにはない。
アデルは再び目を開いた。泣きたいような気持で辺りを見た。エイダ……は眠ってる。ローアン先生も眠ってる。シルク……はこの位置からは見えないけれど、きっと眠っているだろう。
「冬」に目を覚ますことを恐れていた。けれどもそれが本当のことになってしまったのだ! 私は一人ぼっち……どうすればいいのか……このまま眠りにつけなくても、待っていればそのうち春がやってくるの? でもそれはどれくらい? それとも……永遠に春なんてやってこないのだろうか。
「冬」に眠ったまま目を覚まさなかったエヴァンジェリン叔母のことを唐突に思い出した。私も叔母さまみたいになってしまうの? 叔母さまが亡くなったのは、「冬」に目を覚ましたから――ではないかもしれないけど、でも、「冬」に何かあったのかもしれない。何かが何なのかはわからないけど。
エヴァンジェリン叔母から続けて、ミカゲの顔が思い出された。二人の姿がアデルの想像の中で重なる。きゅっと胸が痛くなり、アデルはそれを急いで打ち消した。ミカゲだけが残る。優しい笑顔が残った。急にミカゲに会いたくなった。
ミカゲさんの顔を見れば――少しは気持ちも落ち着くかもしれない、とアデルは思ったのだった。そしてまた眠れるかもしれない。ミカゲさんに会いに行こう。もちろん眠ってるだろうけど、ちょっと顔を見るだけ。部屋に入って――部屋に勝手に入ってもいいものかしら? 行儀が悪くないかな。でも今は緊急事態だから――ミカゲさんには悪いけど――入らないで、ドアのすき間からほんの少し顔を見るだけだから――。
そう決意して、アデルはベッドを出た。
――――
ほんの少し後、アデルはもつれる足で自分たちの部屋へと向かっていた。ミカゲの部屋に行った――そっと、そーっと扉を開けてみた――しかしそこには、予想もしていない光景があったのだ。
アデルは混乱した頭で部屋へと入る。そして、そこで見たものに、さらに混乱させられた。エイダが立っていたのだ。寝間着姿のエイダが、怒った顔してこちらを見ている。
「アデル! どこに行ってたの!? さっき目が覚めてみたら、ベッドにいなくて、あたし心配して」
「……エイダ、ああ、エイダ」
アデルは呻くように言った。なんだか意味もなく笑いだしたくなってしまう。「冬」に目を覚ましたことから始まって、意外なことが次から次へと起こる。ついていけない気持ちになってしまう。
エイダがアデルのほうへと近づいた。
「どうしたのアデル。なんだか顔色が悪い――まあ、そう、そうよね。こんな予想外に目を覚ましちゃって。春じゃなくて「冬」なんだもの。あたしもびっくりしちゃった。外見てみた? すごい吹雪なの。雪がくるくる舞ってて、それもすごい量で……。アデル? アデル、ちゃんと聞いてる?」
「冬」に目を覚ましてしまったせいか、いささかテンションの高いエイダが、心配そうにアデルを見た。アデルはエイダへと手を伸ばした。恐ろしいことが起きているのだ。怖くて不安で仕方がない。エイダがアデルの手を握る。エイダに触れた途端、アデルの心は多少は落ち着いた。
「エイダ――」震える声で、アデルは言った。「ミカゲさんがいないの」
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