双子と護衛と家庭教師

「こちらは構いませんが、けれども少女を二人、身内でもない男の家に預けるのは少し心配ではないですか?」

「そのことなら大丈夫。あなたの家で「冬」を過ごすのは娘たちだけじゃない。護衛と家庭教師をつけるわ。護衛はほら、あなたの幼馴染だったボリス・マーレイよ」

「ああ……」


 昔住んでいた家を思い出す。その隣に獣人の少年がいた。物心つく頃にはすでに仲良くしていて一緒に学校に行った。それから違う道を歩むことになったが、現在でもごくたまに顔を合わせている。


 ボリスはこの件をどこまで知っているのだろうか、とミカゲは思った。この「冬」は彼と過ごすことになる。近いうちにここに来るだろうから、その時に聞いておきたい。


 なんだか賑やかな「冬眠」になりそうだなとミカゲは思った。予定外の客が四人。ボリスに双子にそして家庭教師とやら。それほど大きな家ではないのに、少し手狭ではなかろうか。


 「冬眠」とそしてマリアンヌ。ガーネットの一族は、ミカゲの中で「冬眠」と深く結びついている。それは8年前のことだった。忘れられない、忘れることのできない「冬」となった。その「冬」に、ガーネットの家の末っ子のエヴァンジェリンは、「冬眠」から目を覚まさず、息をひきとったのだ。




――――




 話ははるか昔に遡る。ずっとずっと昔のこと。遠い太古の時代のこと。その頃には複数の世界が存在していた。世界は狭い通路によって結ばれており、自由に行き来をすることができた。人間に獣人、羽のあるもの角のあるもの、様々な生き物たちがあちこちの世界を行き交っていた。


 けれどもしかし、事情はわからぬがその通路はある日突然閉ざされた。狼狽した人々は魔術師を中心として、再び通路をよみがえらそうとした。空間に穴を開けることによって。しかしこれは上手くいかなかった。逆に空間に余計な力がかかりそれを歪ませることになった。それによって、空間に予期せぬいくつかの奇妙な穴が開いたのだ。


 そこから災厄が流れ込んだ。太陽は陰り、長い長い冬が訪れた。多くの生き物が死んでしまった。けれども生き残った者は希望を捨てず、また魔術師の出番となった。彼らは穴を塞ごうとした。けれども完全には塞ぐことはできなかった。穴は一年の内何か月か開く。それを人々は「冬」と呼んだ。


 「冬」を乗り切るために、偉大な、大きな力のある魔術師が、世界を眠りの魔法にかけた。「冬」の間、全ての生き物が眠りにつくのだ。それを「冬眠」と呼ぶ。こうして「冬」と「冬眠」の習慣ができあがったのだ。


 災厄をもたらした穴は各地に開いていた。それらの穴を管理するため、魔法の力を持つものがそこに屋敷を建てた。彼らは現在もなおそこで暮らす。ガーネット家もそうした人々の一つだった。穴は現在では「門」と呼ばれ、何人かの「門番」たちがそれを管理する。ガーネットの一族は代々「門番」を排出していたし、またガーネット一族ではないが、ミカゲの父親もまた「門番」だった。


 ミカゲもまた「門番」になるつもりだった。途中まではそう思っていた。あの、8年前の「冬」を迎えるまでは。




――――




 マリアンヌの突然の訪問から1週間が経っていた。そして「冬眠」の日までは後10日ほど。その日、ミカゲの家にマリアンヌの娘たちがやってきた。


 「冬」を過ごすためには眠る場所がいる。ベッドや箪笥は既にミカゲの家に持ち込まれていた。二階には三部屋ある。そこで一つを双子と家庭教師の部屋、一つをボリスの部屋、残りをミカゲの部屋とすることになった。


 車が到着して、元気よく娘たちが出てくる。ミカゲは玄関先でそれを見ていた。秋の色濃い前庭を通って、ミカゲが横着をして放っているために雑草に覆われた庭の小道を通って、二人の少女がやってくる。ミカゲはそれを意外な気持ちで見つめた。


 最後に双子にあったのは――確かまだ彼女らが5歳かそこらだった時だ。あれから8年。双子はすっかり大きくなっていた。13歳になったのだ。そして昔はよく似た二人だと思っていたが、今こうして見ると、すっかり印象が変わっていた。


 一人はばっさりと短い髪をしており、少年のような恰好をしている。歩く足取りもきびきびしていて元気そうだ。もう一人はそれとはとても対照的だった。髪は長く、同じく丈の長いワンピースはふんわりと少女趣味だ。不安そうな顔をして、双子の片割れの後をついていく。


 けれどもよく見ればどちらも似た顔立ちをしている。やはり双子なのだ。


 車からはもう二人降りてきた。獣人であり幼馴染のボリス。頭はオオカミで全身がふかふかとした毛に覆われている。背が高くがっちりとしているので、非常に迫力ある。それからもう一人若い女性。こちらは半獣人だった。獣人と人間の間に産まれたものだ。茶色のネコの耳が頭に生えている。そして同じく茶色で先が黒い優雅な尻尾。全体的に毛深いが、獣人ほどではない。顔立ちは美しかった。けれども冷ややかでもあった。顎のところで綺麗に髪を切りそろえ、銀縁の眼鏡をかけている。


 四人がミカゲの元へやってくる。ミカゲは彼らを迎えるために、笑顔になった。




――――




「いや、すまないな、大勢で押し掛けることになってしまって」


 朗らかに、ボリスは言った。玄関で迎えた後、車に積んでいる荷物を一緒に家へと運んだ。それも済んで、ミカゲと四人は共に居間にいる。

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