プロスペクトⅤ 休日②
鍛冶区から冒険者ギルドに戻った2人は西側出口を出て”獅子の爪“方面へと向かう。
「クラン・クロウの本拠地が“獅子の爪”にあるのは知っているだろう? 実はビンスも“獅子の爪”出身でね、彼の後輩に面白い奴らがいるからオド君に会わせようと思ったんだ。」
「クラン·クロウに所属されている方々ですか?」
オドが問うとパウは首を横に振る。
「もとはウチに所属していたんだが、今は違う。クラン・クロウを飛び出した3人組で【鷹の爪】というパーティーを組んで活動している。最近1人増えて4人パーティーになったそうだ。」
「そうなんですか。」
「うむ。」
2人は“獅子の爪”に入ると大犬亭の近く、オドもよく行く酒場『モンタックの蜂蜜亭』に向かう。
パウが扉を開けて中に入ると、4人の若者が席から立ち上がる。日中の酒場は客も少なく、4人は一層際立っていた。
「おはようございます!!」
4人の若者たちは勢いよくパウに挨拶する。
「もう同じクラン先輩後輩の関係じゃないんだ。そんなに固くならなくていいよ。君達も今は一国一城の主、私と対等の関係だ。」
「ありがとうございます。それで、そちらの彼が、、、。」
そう言って4人組の一人がオドを見る。
「ああ、こちらオド君だ。歳は若いが才能は間違いない。クランの礎石となりうる逸材だ。」
パウの紹介でオドに4人の視線が集まる。
パウはオドに振り返ると、今度は4人の紹介をしてくれる。
「紹介しよう。彼らがパーティー【鷹の爪】の4人だ。まず、彼がパーティーリーダーのユーグ君、20歳の2年目で魔法を主に使う
パウの紹介でユーグが立ち上がり、オドと握手する。細身で背はあまり高くなくスッとした顔立ちををしているがリーダーなだけあり雰囲気がある。
「続いてこちらがハーザー君、20歳2年目でユーグ君の同期で
今度はハーザーが立ち上がりオドと握手する。細身の背が高く、赤毛の髪が短く整えられていて好青年といった顔立ちをしている。
「次は
コリンが立ち上がりオドと握手する。背が高く身体もしっかりとしている。先程まで無表情だったが、握手するときに少し微笑んでくれた。
「最後に、、、」
「彼については僕から紹介しますね。」
ユーグがそう言ってパウの話を引き継ぐ。
「こちらカルペラさん、28歳10年目の大盾使いです。最近【鷹の爪】に加入して頂きました。モンスターのヘイトを集め注意を引き付け攻撃に耐える王道のタンカーです。」
カルペラが立ち上がってオドと握手する。大きな図体と屈強な筋肉、まさにパワー自慢の大盾といった貫禄がある。
カルペラが座るとユーグが話を続ける。
「パウさんの前で言うのも失礼ですが、僕達は大規模クランの馴れ合いや向上心の無い現状に嫌気が差して独立をしました。独立して、所属していたクラン·クロウはマシだったことに気づきましたが、それでも僕達は自分たちの力で大規模クランと肩を並べる存在になろうとしています。」
ユーグは力強くそう言うが、その後に弱音を吐く。
「とは言っても、所詮若手冒険者の集まりなので目立った成果は挙げられてないのですがね、、、。カルペラさんの加入で一段階練度は上がりましたが、、、。」
ここまでの会話でなんとなく事情を察したてきたオドはパウを見る。どうやら、パウとしてはオドの【鷹の爪】加入を望んでいるようだ。
「パウさん、クラン·クロウに僕は合いませんでしたか?」
オドが聞くとパウは少しオドを見る。
「と、いうよりは【鷹の爪】の方が合っているかなと思ったんだ。彼らは向上心が強く勤勉で、才能もあり、何より若い。歳は一回り違うし、まだ荒削りだが、タイムラインが合っていてオド君と一緒に成長していける。」
パウは今度は【鷹の爪】の面々を見る。
「それに、君達は変化を求めている。3人では足りないと自覚したからこそカルペラ君を引き入れたのだろうし、集団グループとしての将来を考え始めている。彼(オド君)はパーティーをクランに、クランを大規模な物に成長させていく為の素質を持った謂わば原石だ。それを既に大きなクランで預かるのは勿体なく思ったんだよ。」
そこまで言うとパウは一度コーヒーを啜る。
「まあ、パーティー所属を希望するかも、パーティー所属を許可するかも、君達次第。俺にできるのはここまでだ。」
コーヒーを飲み干してパウが立ち上がる。
「まあ、取り敢えず一度ダンジョンに潜ってみるのも良いかもしれない。そこで色々分かるだろう。」
それだけ言うとパウは酒場を出ていく。
その後、残された5人による話し合いの結果、パウの言う通り一度一緒にダンジョンに潜ることになる。オドは昼過ぎになり混んできたモンタックの蜂蜜亭を【鷹の爪】の面々と一緒に出ると、彼らと別れ大犬亭へと向かう。
「パーティーか、、、」
オドは空を見上げ小さく呟くのだった。
◇ ◇ ◇
大犬亭に戻ったオドは自室のベッドに腰掛ける。ぼんやりと天井を眺めながらオドは午前中の出来事を思い出す。
「今朝は色々あったな、、、。」
鍛冶師グランツとの出合いに【鷹の爪】との出合い。
思えばこの街で目覚めてから新たな出会いと驚きの連続だった。オドの中で大星山での出来事は未だに消化しきれていないが、目まぐるしい日々はオドの気を紛らわしてくれていた。
「少し疲れたな。」
オドはポツリとそう言うとベッドに横になり目を閉じる。
オドはそのまますぐに眠りに落ち、スウスウとの寝息を立て始める。その表情はあどけない12歳の少年のそのものだが、その姿とは裏腹にオドは過酷な道を歩むことになってしまった。
オドが目を覚ますと、既に陽は沈んでいて外は暗かった。
どうやら深夜のようで物音は聞こえない。オドはもう一度眠る気にはなれず、梯子を昇って屋上に出る。見下ろす街の灯りもまばらで、オドは置いてある赤いハンモックに寝転ぶ。
「うわぁ。」
オドの視界に満点の夜空が広がる。
見上げる星空は地上を飲み込むかのように何処までも広がっており、ハンモックの揺れも相まってオドは夜空に吸い込まれるような感覚に陥る。星々のきらめきは美しく、各々の色や大きさで己を燃やしている。特に南中にひときわ強い光を発する真っ白な星が見え、更に南の地平線側には淡い黄色をした星が瞬いているのが見えた。
「えっと、、、」
オドは何かを探すように星空を見回す。
暫くキョロキョロとしたオドは視界の端に目的の星、北天に鎮座する紫金の一等星、大星天狼星を見つける。大星天狼星は北方の地平線ギリギリに見える。オドは無言で大星天狼星を見つめ、改めてかつて暮らした大星天狼星に最も近い場所から随分と離れた場所に来てしまった事を実感する。
「、、、」
オドは手元の大きくて親指に嵌めているシリウス・リングを見つめる。
ゆっくりとハンモックは揺れ、静かに夜は更けていく。様々な記憶、様々な思い、様々な感情が頭をよぎっては染み込んでいく。世界に自分しかいないような感覚に浸りながら、オドは小さく呟く。
ーーーその血、その涙、その痛みこそ糧なれば、其方の歩みに実りが訪れん。
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