侵略者Ⅷ 死にぞこない達の戦い
地下通路は集落から3kmほど離れた場所に通じていた。
オドが外に出て集落の方向に振り返ると、高々と上がる煙と炎が見えた。オドは拳を握りしめ、山を降りていくのだった。
「見つけたぞ。」
そんなオドの姿を見ている者がいた。ドーリーだ。
ドーリーは今回の戦闘でキーン・シリウスへの復讐に燃えており、戦闘の間ひたすら翡翠色に輝く魔剣を探し続けていた。ドーリーは天狼族が家に入った段階で自害、もしくは隠された逃げ道があるに違いないと踏んで集落の周囲を探していたのである。そんなところにオドが輝く魔剣を背負って穴から出てくるのを発見したのだ。ドーリーは
一方、オドも持ち前の鋭い感覚ですぐに追跡者の存在に気が付く。
しかし、悪魔との戦闘で負った左肩の傷が痛むのと、夜の山道にあまり慣れてない為か追跡者となかなか距離を開けられない。
「生き残らなければ。」
オドは小さく呟くと弓を取り出し追跡者に向かって矢を放つ。矢は真っ直ぐ追跡者に飛ぶが肩の痛みによって威力はない。ドーリーは難なく矢を防ぐ。
「流石に気づかれるか。しかし、、、手負いだな。」
ドーリーは急に冷めたように言う。
キーンがこんなに威力のない矢を放つわけがないとドーリーは思い、傷を負っていると考える。ドーリーにとってキーン・シリウスは憎むべき相手ではあるが、それと同時に剣の憧れであり目標でもあった。だからこそドーリーは万全でないキーンと戦ってまで剣で勝ちたいとは思わなかった。
「ならば、わざわざ剣で戦う理由はない。」
ドーリーも弓を取り出すと光る魔剣に向かって矢を放つ。
オドも初めは背後から次々と飛んでくる矢を避けていたが、徐々に苦しくなってくる。
「これで終わりだ。」
ドーリーは渾身の一矢を放つ。
オドの頭に向かい物凄い勢いで飛んだその矢はオドの耳を掠める。
一瞬、頭上の耳の痛みに気が向き、オドは斜面の岩に足を取られる。転げるようにオドは倒れ。そのまま斜面を滑り落ちていく。斜面は急になり、その速度はドンドン加速する。オドはそのまま大星山を転がり落ちていくのだった。
「よしっ!!」
ドーリーは転がるオドを見て声を出し、とどめとばかりに更に矢を構える。
その時、ドーリーの目の前を矢が横切る。
ドーリーが矢の飛んできた方向を見ると1人の獣人が立っている。
「またお前か。」
その獣人はコウだった。
コウは大星山を登り集落に向かう途中でドーリーを発見し、先にカイを集落に向かわせ、自分はドーリーとの決着をつけに来たのだった。
コウは何も言わずに剣を抜く。
それに応えるようにドーリーも剣を抜く。
月明かりが2人を照らし、剣と剣ぶつかり合う音だけが響く。
コウはドーリーとほぼ互角に渡り合い何合、何十合と剣が交錯する。死闘は絶え間なく続き、互いに息は切れる。遂には二人とも剣を手放し、鎧を脱ぎ捨てて殴り合いを始める。
◇ ◇
そして、戦いを始めてから約3時間、遂に決着が訪れる。
コウはドーリーに馬乗りになり顔を殴りつける。
ドーリーの意識が薄れていく。僅かに見える視界でコウが自分に剣を突き立てようとしているのが見える。
「こいつ負けるなら、後悔はない。」
そうドーリーは死際にそう思う。
コウはドーリーを倒し、立ち上がる。
再び集落を目指そうとして大星山を見上げる。
しかし、そこには自分の方向に向かって山を降りてくる教会軍の姿があった。
◆ ◆
その頃、カイは天狼族の集落に立ち尽くしていた。
カイが集落に着いた頃には教会軍は既に撤兵を済ませており、入れ違いでカイは集落に着いた。カイが見たのは集落に転がる仲間と敵が入り乱れた死体の山だった。中央に進むと爆発し、未だに燃え続けるローズの家が見えた。
「コウさんに伝えなきゃ。」
カイは来た道を引き返す。しかし、既に遅かった。
カイはコウと別れた場所の近くで全身に矢を浴びて倒れているコウの姿を見つける。カイはコウに駆け寄るが、既に息は無かった。
カイは何も言えずに膝を付く。もはや涙も流れなかった。
◇ ◇
朝日が昇り、長い、長い夜が明ける。
大星山にはカイがただ一人立っている。カイはコウを背負うと集落に向かって斜面を登る。集落に着くとカイは仲間を全員、土に埋める。既に陽は高くなっている。
「俺は死にぞこないだな。」
カイは疲れたように言うと目を閉じる。
カイが目を覚ますと空はすっかり暗くなっていた。カイは身体を起こして笑いだす。
「こんなことがあっても身体は眠りを求めるんだな。」
カイは立ち上がる。きっと俺の命が残ったのは天狼王様の導きだろう。
ならば生き残ってやる。生き残って、必ず仲間の無念を晴らしてやる。
カイはゆっくりと立ち上がると、大星山を東へ下っていくのだった。
◆ ◆ ◆
オドが気が付くとそこは霧の立ち込める森の中だった。
どうやら大星山を転げ落ち、そのまま気を失っていたようだ。
オドが立ち上がろうとすると左肩に痛みが走る。傷口が落下の衝撃だ開いたのか出血がひどくなっている。オドは矢の入っている革袋を左肩に巻いて止血するとフラフラとした足取りで歩き出す。
「生き残らなければ。」
オドはひたすら真っ直ぐ歩き続けるがいつまで経っても霧は晴れない。
オドはこの場所が霧の森の中であることを察する。しかし、それでも生き残るためには歩き続けるしかないとオドは足を前に出す。
しかし、どれだけ進んでも霧の森を抜け出すことはできなかった。
左肩の出血は止まらず、食料もないオドの体力は減っていく一方だった。徐々に意識が遠くなっていき、呼吸さえも辛くなってくる。霧はひたすらに濃く、周囲は暗い。朝か夜かもわからないような暗い森をオドは彷徨い続ける。
足が重い。腕が重い。もはや左肩の痛みは感じず、視界も安定しない。
「生き、、、残らな、、けれ、、ば、、、」
遂に倒れる。
倒れたオドの周囲には霧が立ち込める。
倒れた勢いでオドの背中から『コールドビート』の刀身がずり落ちるように姿を現す。
『コールドビート』は淡く光り、その光を霧に写す。
霧はオドを囲むように濃くなっていき、オドの周囲はオーロラのように色を変化させる霧に覆われ包まれていくのだった。
『Sirius Survivor ~シリウス サバイバー:1人生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の王となる~』第1章:大星山(完)
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