侵略者Ⅴ 束の間の静けさ


教会軍の引き揚げを終えたドーリーら枢機卿親衛隊副隊長の面々は暗い顔でヴァックスの下に報告をしに行く。


7人の副隊長の顔は予想外の結果に皆沈み切っている。最悪、自らの進退に関わる失敗をドーリーは恐る恐る報告する。


「、、、そうか。」


しかし、ドーリーの思いとは裏腹にヴァックスの反応は薄いものだった。むしろ、4000の兵を温存できたことに、よくやったと褒めるくらいだった。ドーリー達は報告からそのまま次回以降の大星山攻略の作戦会議へと移行した。具体的に議題となったのは、攻略進路であった。


ドーリーは前回と同じルートを、他の6名は前回とは違うルートを選択すべきだとした。


「同じルートならば、敵の罠も確認しているのに加え、敵の本陣に到達する兵力の想定もある程度可能です。むしろ、今日の戦闘で芝の多くは燃え尽きたため、今日よりも火攻めによる被害は減るかもしれない。違うルートを選択すれば、違う罠が張り巡らされているでしょう。」


ドーリーがヴァックスに進言すると、すぐさま他の6人が反論する。


「いや、6000の兵で攻めて、それが全滅したのだぞ。もしかしたら、確認できなかっただけで岩落としの後に更に罠が仕掛けてあるのかもしれないぞ。どちらにせよ今日と同等の被害が出るのなら


同じルートを攻めるべきではない。」


ヴァックスは沈黙を貫き、部下達の議論に耳を傾ける。


「ドーリー殿が、そこまで申すならドーリー殿は自らの手勢のみで今日と同じルートを攻めればよいのだ!!」


副隊長の1人がそう叫んだ時、ヴァックスが唐突に立ち上がる。慌てて副隊長達は口を紡ぐ。


「うん、それがいい。ドーリー、お前は6000の兵を率いて今日と同じ道を攻めよ。他の者は各々1000の兵を率いて自らが良いと思う場所から攻めよ。異議はないか?」


ヴァックスの問いに異論を出すものはいなかった。


「ならば決定だ。解散してよし。」


ヴァックスの一言で軍議が終わる。副隊長が下がっていき本陣にはヴァックスが一人残る。すると、奥からゴドフリーが出てくる。


「思った以上に敵は賢いようだね。」


そう声をかけるヴァックスにゴドフリーはフンと鼻を鳴らす。


「ゴドフリー、俺は明日の大星山攻めに参加するよ。」


「なっ、、、!!」


仲間の発言にゴドフリーは固まる。


「ヴァックス、お前。敵方に復活したリオがいたらどうするんだ。嚙み千切られて終わりだぞ。せっかく生き残ったんだ。魔王様を復活させるという目的はどうする⁉」


まくしたてるように言うゴドフリーを一瞥すると、ヴァックスは感情のない声で言う。


「復活していたらしていたで大人しくやられるさ。もとより何千年も前に無くなるはずだった命だ。惜しくはない。それよりも、久々に戦いに参加したくてね。リオがいなければ俺一人の蹂躙で事足りる。お前は精々リオの陰に怯えてここで待ってろ。」


そう言うとヴァックスは立ち上がり本陣を出ていってしまう。ゴドフリーは何も言えず、数少ない生き残りである仲間の背中を見送ることしかできなかった。



◆ ◆



その頃、コウを始めとする天狼族の別動隊は少し離れた森から教会軍の陣営を観察していた。


コウ達は一日中陣営を観察しゴドフリーを攻撃する機会を伺っていたが、教会軍の半数である1万の兵が待機していたことで遂にその機会は得られなかった。


「今日は我々も夜営だな。」


コウはそう言うと森の奥へと入っていく。


「コウ、お帰り。どうだった?」


コウが別動隊のもとに帰ると仲間から声がかかる。


コウは首を横に振ると夜営の支度をするよう指示する。今回、別動隊に選ばれたのはコウとその同期3人、そしてカイ、ムツ、ルナの7人であった。コウの同期はいずれも12年前にキーンと共に下山隊に参加していたメンバーである。


「明日に期待だな。」


仲間の言葉にコウは頷く。


「カイ、火は起こすな。煙が立つようなこともダメだ。」


夜営と聞いて火を起こそうとしていたカイを注意しつつ、コウはルナ用のテントを用意するのだった。




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