証言その④義姉レシィ:彼こそがこの国の王子様
お城の舞踏会はたくさんの人で賑わっています。
シンデレラの継母と姉二人は王子様を探しますが、王子様は中々見つかりません。そこに、どこかの国のお姫様のような美しい姿でシンデレラが現れたのです。
*
「ラヴィ! さっきから食べ物ばっかりつまんでっ! あなたは、もう少し男に興味を持ちなさい! ほーらっ、王子様を探しますわよ!」
「レシィだけ行ってくればいいじゃない。私はこうして豪華な料理を堪能している方が幸せなの」
年頃の女の子とは思えない冷めた口調で、妹のラヴィは黙々とお皿にフルーツを盛りつけているのです。せっかく、若葉色のひらひらドレスを身に着けて女の子らしい格好なのに中身がこれじゃぁ台無しですわ。
もうっ、ラヴィの馬鹿っ!
こうなったら、絶対に私だけで王子様を見つけてきますわ。
そう意気込んで、色とりどりの鮮やかな果物に目を奪われているラヴィなんて放ってその場を離れようとしたら腕に違和感を感じました。振りむけば、ラヴィが私の腕をつかんでおりました。
そして、絶対零度の冷ややかな声で、一言。
「それに、一国の王子ともなれば当然目が肥えているでしょうね。残念ながら、一般人の私達が王子の目に留まるとは思えないわ」
「な、なんて夢のないことを……! 確かにそうですけど……。で、でも、王子様とまではいかなくてもそこいらの貴族なら希望はありますわ」
「勝手にすれば」
全く、ラヴィときたら……。
どうして、こんなに老けてしまったのかしら。
ざわっ。
突然、賑わっていた人々の動きが止まりました。ラヴィも異変に気づいたのか、フォークを口に運ぶ作業をやめて辺りを見回しています。皆が皆同じ方向を向いて、固まっていました。私もつられるようにして目線を動かすと……。
城の大きな扉がぎこちない音を立ててゆっくりと開いてゆきます。
そして、扉が開いたその先に立っていたのは――
会場を包んだのは人々が息を呑む音。
――絶世の美少女でした。
きっと、お姫様ってこういう人のことを言うんですわね。
「すっげーきれいだなー、あの子」
「どこかのお姫様かしら」
「何でも、ナスの馬車でやってきたナスの国の王女らしいぜ」
「へぇ、ナスの国かぁ……」
再び人の波が揺れ動きました。そして、後ろのほうから誰かがこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえます。振り返ると、その人は顔を伏せてこちらに向かってきていました。身なりからして男の方らしいです。しかもかなり良い服を身に着けています、貴族の方でしょうか?
その人が一歩踏み出すたびに人々がその人のために道を開けます。私も例外なく彼が来たときは、ちゃんと道を開けました。
彼はナスの国の王女の前に立つと、ひざまずいて彼女のすらりとした手を取りました。
私は息を呑みました。
色白のふっくらとしたまん丸の顔。
線のように細い目。
つぶれた低い鼻。
極めつけに、小太りの小さい体。
「僕が、この国の王子だよ。一緒に踊らないかい?」
ナスの国の王女の顔が、信じられないくらいに引きつりました。
王子。
たったそれだけの理由で、誰からも美形だと信じられ疑われなかったのはどうしてでしょう?
つまり、王子様はものすっごく不細工だったのです。
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