第6話秋(2)

2学期が始まると、リオはあまり私の所に来れなくなった。学園祭、体育祭などの準備に追われ辛そうにしている。そんな中での私の楽しみは彼の言っていた花の成長を見守ることだけだった。


夏ごろ白くて可憐な花を咲かせていたその木は少しずつだが、実を大きくしていった。その実をツンツンとつつきながら、彼がここに来るのを待つ。何せ私はここを離れることが出来ない。それはつまり、私から彼に会いに行く手段がないということだった。


それにも飽きて、私はサクラに登ると、リオがいつもやって来る方向を見て彼が来るのを待つ。それらしき格好が度々通るのだが、リオでないことも多く、気持ちだけが空回りしているようだった。


それから数日後、彼はウキウキとした表情で丘を登ってきて、サクラの根元に腰を下ろした。


「やっと終わったーー!!これでキノと心置きなくおしゃべり出来るな!!」


その涼しげな目元を緩め、嬉しそうな彼に胸がドキリとする。彼の視線を独り占めする度に胸がしきりに騒ぐのだ。それを私は声に出ないよう細心の注意を払い反応をする。


「そういえば、この木の果実ができ始めたみたいだけど……」


その果実に彼は顔を近づけた。


「うーーん、なんだか育ちが遅いなぁ。そう言えばこのサクラもまだあんまり落葉してないよね。もう10月の中旬なのに。」


彼は不思議そうな顔をして、サクラとその木を交互に見た。


「そうかな?」


他のサクラを知らない私は彼の言葉にこう返すしかなかった。


「ま、俺と喋ったら多分すぐ成長するよ。」


「何が?」


「このサクラだよ。」


そう言って彼は空を仰いだ。


「キノは気付いてないかも知れないけど、この木は俺とキノが会ったあと成長するんだ。」


「会ったあとに?」


そう聞き返したが、何となく思い当たる節はあった。確かにこのサクラは彼と話した後、成長が早くなる。


「俺のことそんなに好きなの?」


ふっと口の端を上げる彼は自分の魅力を十分にわかっていてそれをやっているので、なんだかとても腹立たしかった。


「はぁ?そんなわけない!」


少し食い気味で答えると、少し悲しそうな顔をしてから、彼は冗談だよと言って手をひらひらと振った。失敗したな……。そう思ってもさっきの言葉を取り返すことは出来なかった。リオが腰を上げて木を見上げる。


「あと二週間くらいでこの木の実が熟すよ」


そしたらまた来る。そう言って彼はこの場所を去っていった。


「またね」


私はそうつぶやき、黄色く色づいた葉がひらひらとまた一枚落ちていくのを他人事のように見ていた。


なに言ってんだか……。俺は先程の言葉を思い出して頭をガシガシと掻いた。好きすぎなのは俺の方だろ。頭の中で一人突っ込みをし、はぁー、と大きくため息をついた。後ろを振り向くとやはりあのサクラは成長し、青かった葉は、いくらか黄色やら茶色やらで染まっていた。

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