第3話
「ただいまー」
ティアはそう言うと部屋のドアを閉めた。
熾天使といえどお金はない、道中倒したモンスターの
ドロップしたお金で生活している。
熾天使リエルはティアからマナを分けてもらえば
生活できるのだが、ティアには水食糧が必要だ。
ティアは買ってきたライ麦パンとミルク、果物を
テーブルに置くと携帯のナイフでパンを切り分け
果物の皮をむいた。
「リエルは食べないの?」
そう、ティアが聞くとリエルは天使や魔族の食料は
マナだ。知っているだろう。
「お前からもらっている。」
「エスタ帝国で『死者蘇生魔法』を扱う大賢者が
現れたらしいが、どこかへ行ってしまったらしい。」
リエルはそう言うとため息をついた。
かつての真なる神は使えたらしいが、
現在は使えるものが居ない。
「それにしてもお前は、なぜ今だに初級魔法しか使えないんだ。」
「一般人ならともかく、元魔族だ。しかも教えているのは
熾天使たる私だぞ。」
「早く食事を終わらせろ、ギルドで仕事を探すぞ。」
「は、ふぁい」急いでパンを詰め込むとティアは準備を整えた。
ギルド施設に到着した二人は初心者向けクエストを探しはじめた。
ティアはマナつまりマジックポイントが計測不能なほど高いが、
他のステータスが一般人並なので、初級魔法を連発できる
雑魚の集団を狩るのが向いている。
「このイノシシの群れ討伐などいいんじゃないか?
1匹につき銅貨3枚だ。」
「そうですねそれにします。」
ティアは快く返事をした。
街の門から出て500メートルも進めば今回の狩場だ。
別にイノシシは旅人や冒険者に害をなすわけではなく、
単に食料にするために狩っているのだ。
知力が低いため火力がなく、ティアの初級範囲魔法には手ごろな相手だ。
威力が高すぎて灰になったりしないためだ。
他の冒険者は剣や弓で倒している。
ティアは周りに人のいない場所を選ぶとイノシシの群れに魔法を放った。
『火炎球』『火炎球』『火炎球』・・・・・・
普通ならマナが切れるところだがティアは永遠に打ち続けられる。
イノシシを殺してストレージに入れる。
生きたままだとスタックされず、入らないからだ。
500匹は殺しただろう。これで豚肉の価格は
また大暴落しそうだ。
ギルドで金貨10枚と銀貨5枚を受け取ると、男に声をかけられた。
「よぉ、ねえちゃんたち。初心者クエストですげえ稼ぐな。」
「すげえといえば、ビギニングブルグに生きたマグロ2000匹を1日で
運んだやつがいるらしいぜ。噂だがな。でっかいドラゴンがいるらしい。」
「眉唾物だな。生きたマグロはスタックできない。
どうやって運んだんだ?それに1日で往復するなど不可能だ。
どこの港からなんだ?最寄りはマルセポートのはずだが。」
リエルは人を雑魚だと思っているので不機嫌そうだ。
「そう、マルセポート。と言っても往復600kmはあるだろうに。
どうやったんだろうな?100メートルくらいのでかいドラゴン
で運んだという噂だが。まあうわさに過ぎないだろうな」
その冒険者もうわさについての信憑性を疑っているようだ。
「まあ、結構有名な噂だからな。ビギニングブルグによった時には
聞いてみるといいだろう、ハハハ。」
男はそう言うと立ち去った。
ギルドを後にした2人はカフェでお茶をしていた。
「ここでの生活には慣れたが、生活するために生活している。
そろそろ拠点を移そうと思う」
「ティアはどう思う?」
「そうですね。そろそろ拠点を移動してもいいと思います。
さきほどの話で気になったのですが、死者蘇生を行なった
大賢者が復活させたのは『巨大な竜に乗った竜騎士』だったらしいです。
そんな巨大な竜がたくさんいるのでしょうか?」
ティアは気になったことをリエルに相談した。
「そうだな、巨大なドラゴンなら600kmを往復することも可能だろう。」
「死者蘇生をした白魔導士も関係者かもしれない。行ってみるか。」
二人は荷物をまとめると馬車を調達し、ハンフルクから1週間程度の距離にある
ビギニングブルグに向かった。
2
「米原さん、どちらへ行かれるのですか?」
おさらぎは不思議そうに尋ねてきた。
「いや、ウルティメットドラゴンを狩ってこようかと思って。」
「おひとりでですか?」
「ああ、この前もらった呪いの剣にエクリプスと名を付けたんだが、
こいつもモンスターなら、経験値を積めば強くなるだろ。
だから修行させようかと思ってな。」
「私たちは留守番していますね。」
俺は一人で山を登り、ウルティメットドラゴンと対峙した。
「なあ、エクリプス、お前、龍燐より強度低いよな?」
「はい、龍燐にまともにむかっても折れるだけだと思います。
普通にレベル上げしてもらってから、剣技の練習をしたほうがよさそうです。」
クレインA スライムA-Z 召喚(ゲージから出す)。
ウルティメットドラゴンは氷のブレスを吐いて自爆した。
経験値は30万EXP、それに加えて呪いの剣には、
龍燐でコーティングがされるらしい、0.1%くらいなので
1000匹ほどで完成しそうだ。
90日で呪いの剣の戦闘値が30億になった。
スラリンと同じくらいだ。
龍燐メッキのおかげで耐久度も上がり、いかなる金属の剣よりも
強いだろう。
ウルティメットドラゴンの戦闘値は1億程度。
しかし、龍燐と龍皮はとても固く、剣などすべてはじくだろう。
予想どうり、大上段からの振り下ろしは
ほとんどダメージを与えられなかった。
剣士は金属ゴーレムや防御力の高いものが苦手だ。
しかし、俺は魔法は一切使えない。
将来的にはドラゴン系以外の魔法を使えるペットが欲しいが、
無いものは仕方ない。適度な威力の魔法や補助魔法も欲しい。
自分自身で使えないというのも厄介だ。
もう一つの切り札、オリハルコンの盾を『カーバンクル』
クレインEに装備させそれを所持するとすべての魔法を反射できる。
死体のカーバンクルは魔法を反射しないが、生きているカーバンクルは
全魔法を反射する。
なぜ今まで誰も気が付かなかったのだろう、不思議だ。
クレインはヒットポイントが50万近くあるのでそう簡単に死なない。
それに死者蘇生魔法が使用可能なスラリンもいる。
おれは、1匹1匹に時間をかけて剣の練度を上げていった。
師匠とかはいない。呪いの剣が複数の剣の達人の記録を持っているので
それをトレースしながらドラゴンを屠っていく。
1撃で500ダメージとかなのでヒットポイント100万近いのを倒すのは
恐ろしく時間がかかる。
「ほほー、これがウルティメットドラゴンか。大きいですね。」
聞きなれない声に振り向くと天使らしき生物が立っていた。
「初めまして、私はリエル。宝瓶宮の熾天使です。」
天使に挨拶をされた。
「しかし、雑魚とはいえヒュージドラゴンと単独で戦うとは人間とは思えませんね。」
「装備も龍燐と龍皮を使った逸品もの、なぜこのような初心者ゾーンに
いらっしゃるのですか?」
「ところで、生きたマグロを2000匹運んだというのはあなたですか?」
マグロの件はごまかしても無駄だろう、正直に答えた。
「ああ、はい。ドラゴン4匹で運びました。あれで冒険者レベルが1から100に
上がりました。有名になり過ぎて困っているんです。」
「では、エスタ帝国で死者蘇生を受けた竜騎士というのはご存じでしょうか?」
リエルは尋ねる。
「いえ、知りませんね。」
死者蘇生がいかに異常な能力かわかったので、ここは伏せておこう
そう思ったが、
「嘘をつかれましたね。」
「天使は霊体、マナの色で善悪や嘘が判ります。」
「う~ん、こまったなー。」
「人間ならともかく天使なら殺しても文句を言うやつもいないだろう。」
「かかってきていいぞ!」
「舐めてもらっては困ります。熾天使は最高位。人間の及ぶところではありません。」
そう言うとこからでもなく剣を取り出した。
「霊体に通常の武具ではダメージを与えられませんよ。」
そう言ったリエルに激痛が走った。
「この件は呪われているモンスターなんだ。モンクでなくても生き物の攻撃は
通るだろ。」
一撃でマナの6割を持っていかれた。
「ティア!マナの回復を!」
ティアは 「はい!」と声を上げるとリエルのマナを全回復した。
「接近戦は分が悪いですね。」
こちらの切り札、ティアの無限のマナの泉は知られていない。
「ならば。」
「地獄の火炎、5連続射出。」
「ぐはっ、なぜ?」
「この盾も生き物しかも精霊なんだすまないな。」
スラリンが蘇生魔法をかけるとリエルは復活した。
生き返ったリエルに言った。
「俺の戦闘値は素で24億、あんたは8億ほどだろう。装備差もあるから
何度やっても負けるぞ。」
「私は死んだはずでは?」
「こいつが生き返らせた。スラリンだ。戦闘力30億だからお前より強いぞ。」
リエルは目的物に出会ったが、ペットでは手が出せない。
死んでしまった神を復活させる唯一のカギがペットのスライムとは
何と皮肉なことか。
「失礼いたしました。戦いはもうする気はありません。」
「よろしければパーティーに加えていただけないでしょうか?」
そう言って、リエルは頭を下げた。
「えっと、私は ティア。尽きることのないマナを持つ元魔族です。」
そう言ってティアも頭を下げた。
「わかった、天使と元魔族とは奇妙な組み合わせだが、いいだろう。
俺的にはOKだ。無限のマナはありがたい。だが仲間と相談してからだ。」
「ああ、俺は 米原 和 よろしくな。」
3
「おかえりなさい、米原さん。」そう言った大仏は
後ろに付いて来ている2人に目をやった。
「そのお二人はどなたですか?」
おれは大仏に全員集めるように言った。
「今日もウルティメットドラゴンを狩っていたんだが、なぜか
因縁をつけられて戦闘になった。こっちの天使っぽいのが
『リエル』、一般人っぽいのが『ティア』だ。苗字はないらしい。」
「初めまして、『露原 樹』と申します。一応、竜騎士です。
よろしくです」
槍戦士の露原はそういって挨拶をした。
「2人目ですが初めまして。『英島 豊』と申します。ユタカではなくトヨです。
黒魔導士をしています。よろしく」
「最後になりますが、『大仏 実』と申します。駆け出しの白魔導士です。
よろしくお願いします。」
「あぁ、英島、こいつらも戸籍とか身分照会ないんで、前みたいに背乗りっぽいの
よろしくおねがいする。」
「オッケー、明日にはできるよ。」
英島は気軽に返す。
中世ファンタジーとはいえ出自や人物を簡単に作れるのだろうか?
俺はアンダーグラウンド感が否めない英島が別の意味で怖かった。
「この、ティアっていうのがマナを無制限に発生させる能力らしくて
神罰で殺されたらしい。」
「私は ウリエル 訳あって神が不在なため、このティアの監視を行っている。
皆さんを見ていると私の戦闘値がまだまだだとわかった。
いずれ並んで見せます。」
「ん・無理だと思うよ。リエルさんは実体化している霊体でしょ。
パワーやヒットポイントという概念がない以上戦闘値は上がらないよ。」
「ティアさんは ウルドラ狩りしてたら、すぐに強くなると思うよ。」
一晩寝て朝飯を食っていると、英島が書類を2セットもってやってきた。
「今日からあなたは『井伊 リエル』さん。」
「あなたは『印旛 ティア』さんね。」
「「ありがとうございます。」」2人は声をそろえて礼を言った。
本来なら、ギルドクエを受けるところだが、ティアさんが弱すぎるので
30日修行です。戦闘力が80とかだとスラリンが大変です。
「ウルドラ狩りか!」
「姫の時は3億だったけど、ティアはいくらでしょう?」
「まあどうせカンストさせるけどね。」
俺たちは6人で山に登り、ウルドラを狩り続けた。
『印旛ティア』の戦闘値は30日で 5億になった。
おさらぎは12億になった。ほかのメンバーはカンストしているので
それ以上上がらないようだ。
俺たちは冒険者ギルドに寄ると、「魔法が封印されたため生活ができません。」
を受けることにした。すべての魔法を封印する術式は、自らを封印してしまうため
効果が全くない。この件はもっと別なところにありそうだ。
幸い、剣士として自信がついてきたし、露原もいる、大丈夫だろう。
霊体のリエルがどう反応するかも見たい。
その村は ビギニングブルグから馬車で6日ほど行ったところだ。
村に入ると村長らしき人物が出てきた。
「遠くからお越しいただき、ありがとうございます。」
話を聞くと塩や砂糖を作る生産魔法、
黒や白などの戦闘魔法も使えないようだ。
話をしているとリエルが言った。
「マナの気配がない。」
「マナはあるだろ、英島?」
「ティアさんのマナは感じ取れるけどここいら一体マナがゼロだ。」
リエルにはマナの流れが見えるらしくティアのマナは
村の中央の井戸に吸い込まれるように流れ込んでいた。
「村長、村の井戸に何か異常はありませんでしたか?」
俺は朴訥な村長に質問した。
「そういえば、このあたり一帯の水が汚染されて、地下水脈を探して
井戸を掘っていたのですが、それ以来、植物は枯れ作物は収穫できず、
野生の生物やモンスターも姿を消しました。」
「井戸の中に魔法陣がありますね。『なぜ吸い込める』のかは謎ですが。」
リエルは大体予測できるらしく言った。
「おそらく魔界につながっている。吸い込んでいるのではなく
向こうが陰圧だから。自然に流れていく。」
リエルは魔界も必死なのだなと思った。マナを陰圧にするなど不可能だ。
そもそもメリットがなさすぎる。単に魔界が異常なほどのマナ不足なのだろう。
ここにいるティアが魔界の野菜の5割以上を生産していたことは
天界の秘密だ。
「この魔法陣を消してしまえばいいですね。」
「大量に魔法陣を作り出しているのか、粗雑なのが俺のような
魔法素人にもわかる。」
「ディスペルするマナすら残さないようにしているらしいけど
ティアさんが居れば余裕だよ。ティアさん手を握らせてね。」
そう言うと英島は『魔法解除』を唱えた。
このような村はいくつもあるらしく、ある意味魔界も哀れなものだと
思ってしまう。
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