いつからからだろう、俺は草原をさまよっていた。

気が付いたとき、持っていたのは

フライパンと水食料、そして、卵だった。

元々住んでいた、日本の大阪とは違い、

空気も新鮮だし、気温も程よく、

すごしやすい。


だが、俺はそいつに出会ってしまった。

そいつはもっとも有名な「雑魚」

のひとつで、俺は軽い気持ちで

襲い掛かった。


「御門大和の攻撃、スライムに1のダメージ」

フライパンで全力で殴ってもダメージは1だ。

「スライムの攻撃、御門大和に3のダメージ。

おれは、自分の顔のまん前に浮かぶ

液晶画面のようなモニタに、浮かぶ数字

ヒットポイントの部分は「9」と表示されている。


つまり、スライムが3回攻撃すれば死ぬわけだ。

この世界は、ロールプレイングゲームのようだが

殴られたら痛いし、ナイフで刺せば

血のような物もでる。

雑魚スライムの攻撃を受けるたびに

顔面にサッカーボールキックを喰らったようで

全身がふらふらとして意識が遠のく。


死ぬと死ぬほど痛いだろうし、

現実世界と同じで、いまの自分自身にとって

死ぬということは未知だ。

ものすごく怖い。


助けなど来ない、

俺がいままでやってきたゲームは

ファミコムなどのオフラインゲームで

この世界が何なのかはまったくわからなかった。


あと一撃で死ぬ、痛みと恐怖で絶望している俺の

前で俺を殺すべく行動を起こしたその雑魚の

スライムは上空から降ってきた

一本の銅の槍に貫かれ絶命した。


「なっさけねえな。初期エリアの雑魚相手に

死にかけるとかありえねぇだろ。」

そう言うと俺を哀れみと侮蔑の表情で

見下ろす一人の少年がいた。


銅の鎧と銅の槍を装備した。

立派な槍騎士は俺の手をとると

腰の袋から薬草を出して

渡してきた。


「飲めよ。10くらいは回復するぞ。」

どうせ、3ゴールドで売ってるし

そこらを探索すれば拾えるぞ、

そう言うと、遠慮する必要はないとばかりに

大仰に手を振った。


「あ・あ・ぁ、ありがとうございます~~~。」

俺は緊張が解けたのか、

助かったと言う事実と、

まったく無関係な他人を

何の見返りも求めずに

助けてくれた人がいたと言う事実に

感動して号泣しながらひたすら

お礼を言い続けていた。


もぐもぐと薬草をほおばり

飲み下した。

ニガヨモギやドクダミのような味かと思いきや

意外なことに、オレンジ味だった。


槍戦士は、草原に出かけたプレイヤーが

二度と戻らないことが

しばしばあって、そういった初心者を

手助けして回っているらしい。


「お前職業何?」

槍戦士は俺があまりにも弱いので

職業選択に失敗したと思っているようだ。


「召喚士です。。」


槍戦士はうんざりしてこう言った。

こういう場合、攻撃力が高いほうがいいって

相場が決まってるだろ。

魔法使いとかはMPの回復に時間かかるし

狩りの効率も悪い。


スライムは打撃耐性あるから

斬るか刺すのが一番いいだろ。

それをフライパンって・・・


軽く絶句しているようだった。


「召喚士はペットを5匹もてるので

1プレイヤーでもペット5匹と

集団で戦えばフルボコッコできると思って

なりました。」

浅はかな考えですみません、と付け加える。


「あぁ、名乗ってなかったな。

俺は竜騎士の露原一樹(つゆはらいつき)。」

よろしくな、そういうとそいつは俺の手をとって

助け起こしてくれた。


だけどおれは、腰が抜けていて立てなかった。

すると、そいつは俺の横に腰を下ろすと

スタミナを回復するといって座り続けていた。


そいつ、露原一樹は俺が人生ではじめて

親友と呼べる存在だと思った。


RPG009-0002


ある日の酒場

俺たちはビールのようなものを飲んでいた。

俺たちはまだ中学生なので

酒はゲーム的には飲めない。


飲んでいるのは、軽い毒物だ。

ポーションや薬草は

使えば使うだけスキルが増えて

効果が上がるらしい。


ちなみに、この酒場での飲み食いは

ある人物のおごりだ。

「英島豊」という黒魔道士で、最近レベル25になって

中級氷魔法「フリーズ」を覚えたらしい。


俺と露原もあれからスライムを倒しまくり

レベル5程度にはなっているが、

こいつの狩りの対象としようとしているものは

「極龍」と呼ばれる、最強の雑魚だ。


レベル90台、ヒットポイントは30万以上、

体長50メートル ジャンボジェット並みの

大きさらしい。

いまだ倒したものはおらず、

経験値は 数万 レアアイテムを落とすとの噂だ。


不可能な上、実在の確認されていないものの

取引に応じているのにはわけがある。


露原が、槍戦士ではなく、「竜騎士」だからだ。

竜なんてオスタードでいいじゃん!と意見する俺に

極龍をテイムしてくれと、マジで頼んできた。


この町でテイムできるペットで、

小型でかわいい「カーバンクル」と言うのがいるらしい。

このゲームで「召喚士」などと言う職業について

生存しているのは俺だけらしい。


この「カーバンクル」、ある意味最強だ。

全体反射魔法、むろん回復魔法も反射するため

魔法使いは使わない。

故に忘れ去られ、「カーバンクル」が

化石のような存在らしい。


この「カーバンクル」攻撃手段を一切持っていない上

ヒットポイントが異常に低く、1しかないらしい。

テイムするにはヒットポイントを1割以下にするしかなく

事実上テイムは不可能だ。


そうそう、持っていた卵がレベル上げの途中で孵った。

メスのスライムで、現在レベル5。

俺はそいつにスラリンという名前をつけ

従者にしていた。縦横10cmの肉まんのような形をしている。


ヒットポイントが オンリーワンな「カーバンクル」

をテイムする方法は2つ考えていた。

魔法で最大ヒットポイントを100程度増やす魔法がある。

それをかければ、ヒットポイントは1割以下になる。


もうひとつは「カーバンクル」のレベルを上げて

召喚士の一撃で死なないようにすることだ。


ひとつ言っておこう。

反射魔法を使えるのは、「カーバンクル」のみであり

自分自身に「ファイア」をかけて反射するとかは出来ない。

当然、最大ヒットポイントをあげる「ドーピンラ」も

カーバンクルは反射してしまう。


だがこの世界の法則がある。

酒場で、毒を飲み、回復薬を飲むと効果が上昇する。

ヒットポイントもダメージを受けて、回復すると

増加する。


「カーバンクル」が1匹しかいなければ不可能な

外道技を考え付いたのだ。


その日、俺たちは「カーバンクル」の住むという

近くの洞窟に向かった。


RPG009-0003


この世の中には「リジェネ」、や、「ポイズン」

という魔法がある。


魔法の反射をすると、5ポイント12回、

計60回復する魔法の場合

効果すべてが反射されるのだろうか?


検証した結果、初めの1回は反射できるが

2回目以降は1回目の的中判定がない場合は

効果が存在しなくなる。ということだ。


「カーバンクル」が全魔法反射を

発生させているときだけであり

「カーバンクルの死体」は魔法を反射しない。

死体が反射するなら、盾等のアイテムの素材に

なっていることだろう。


酒場でも言ったが、最大ヒットポイントを

上昇させる方法は、ダメージを受け回復することだ。

「ポイズン」パーセンテージダメージなので

ヒットポイント1の場合、ダメージはゼロだ。


「リジェネ」もパーセンテージ回復なので

回復量は0だ。


しかし、0ダメージを受け、0回復するという条件は

満たしているため、最大ヒットポイントは上昇する。


「カーバンクル」の全体魔法反射は、自衛のためであり

魔法攻撃を受けない限り発動しない。


ポイズンのダメージは0のため、発動しない。

リジェネはダメージ判定がない

回復量が0なため、発動しない。


「カーバンクル」を監禁し、ゼロダメージに対し、

ゼロ回復するを数週間続け、ヒットポイントを

11にすることに成功した。


おれは、素手でヒットポイントを1にして

スキル「フェイタライズ」でテイムに成功した。


全体魔法反射をするペットの「カーバンクル」

を「クレイル」と命名し、仲間にした。

飼い主の魔法は反射しないので、

色々便利に使えそうだ。


RPG009-0004


酒場に「英島豊(ひでしまゆたか)」がやってきた。

さっそく、「極龍(グランドドラゴン)」を

狩りまくる気だ。


こいつは中級魔法が使えるので、氷魔法を使用する

極龍は、氷属性か確かめるため、馬鹿なのか

極龍が氷属性だと思い、火炎魔法をぶち込んだらしい。

すると、なんと、極龍は

「氷属性が弱点なのに、氷魔法を使う。」

という発見をしたようだ。


「クレイル」が全体魔法反射を常時発動させているため

極龍の氷魔法が人数分、増強されて10人なら10倍

ダメージを与えられる。


英島は、レベル上げをする女2人を紹介

してきた。

ヒーラー(回復魔法使い)の咲耶蘭(さくやらん)と

盗賊の印旛サヤカだ。


咲耶は回復と蘇生、盗賊は「極龍」の所持品を

盗むためらしい。


竜燐の鎧や龍の槍がゲットできれば

露原は相当強くなりそうだ。

金銭的にも非常においしそうだ。


直接攻撃は黒魔道士の英島が、ブライン(暗闇)で

何とかするようだ。


物理攻撃以外は、「魔法」と判定されるらしく

ペットカーバンクル「クレイン」はすべて反射する。


「あの、私が死んだ時用にこのホイミスライムと

ザオラルスライムをお持ちください。」

そう言うと咲耶さんは俺に野生のスライムをくれた。

それなりに仲はいいらしいが。

準備を整えると、


俺らは9人の大所帯で、極龍を狩りに行くこととなった。

でかかった、ものすごくでかかった。

そこいらの巨木よりでかい。

「グォォオオーーッ」その咆哮だけで、

周囲の岩や大木がビリビリ揺れる。


極龍は大きくそのアギトを開くと

100kmは離れているだろう山を

齧ったりんごのように吹き飛ばした。


「どこが雑魚だ。ボスだろ。」

おれは、英島は頭がおかしいと認定した。


「おいおい、こいつとやりあうのか?」

露原はそういうと頭をぽりぽり、掻いた。


(あんたレベル5の槍戦士、スライム無双できても、

スケルトンに負けるレベルだろ)

おれは内心そう、つぶやきながら

ペットカーバンクル「クレインちゃん」に

すべての運命を託した。


RPG009-0005


黒魔道士(英島)の放ったブラインで

目が見えなくなった、

グランドドラゴンは、大きな尻尾を振り回し

ちんけで、低レベルなパーティーに

怒り狂っていた。


(そりゃそうだろ。どんな勇者や賢者でも

こんなのに喧嘩売らないよ。)

俺らのヒットポイント上限999だぜ。

この極龍さん、最大レベルなら100万突破。

やばすぎるだろ。


タンク(壁役)の金剛君くんは一撃でミンチにされた。

蘇生するには、この極龍さんを倒してからだ。


召喚「カーバンクル・クレイン」そう叫ぶと

ペットが召喚された。

極龍の最大級全体氷魔法(ブリザジャ)が放たれたのは、

その直後だった。

さすがに最大級全体魔法だけあって、詠唱に

30秒ほどかけて魔法陣を構築していたが。


ブリザジャは周囲10kmくらいを氷ずけにしていた。

しかし、反射を受けたグランドドラゴンは

100万以上のヒットポイントを持っていかれ

氷の像となって砕け散った。


その瞬間、おれは30万経験値を得て、

スキルレベルがすべて40以上上がった。

スラリンとクレイン、ホイミン、ザオミンも同様だった。


しかし・・・・

入手経験値は均等分配ではなく、

与えたダメージに比例するらしく、

レベルが上がるのは俺と俺のペットだけだった。


しかし、通常のレベル上げよりは遥かに効率がよく

毎日10時間 半年180日休み無く

狩り殺した。


スラリン(総合値80億)

ホイミン(総合値79億)

ザオミン(総合値66億)

クレイン(総合値31億)HP6700万

という基地外スライム達となった。


100匹目くらいで、極龍をテイムし

そいつらは、


ドラキチ(総合値99億)HP1億

ドラモン(総合値99億)HP1億


くらいの強さだった。


ドラキチは、露原に貸し出す約束で

念願の竜騎士になれた。


「ありがとな、まじありがとう!」

マジ泣きした露原は心から感じ入っていたようだ。

よほど、槍騎士と言われていたのが

嫌だったらしい。


ツンツンキャラの露原が心からデレたのは

あれが最初で最後だろう。


RPG-0006


ほかの連中も、レベル253程度になっていた。

総合値で言うと1万程度だ。


おれは、戦闘系スキルはカンストした。

ペットはケイジに入れれば数に制限はないようなので

メタルキングや毒矢頭巾、キラーマシンなど

100匹程度は総合値50億以上に強化して

ケイジに入れた。


残念なことにトレードは出来なくなっている。


盗賊は、時々死にながらも、

龍神の杖、ドラゴンローブ、龍燐の鎧、龍の槍

などを9999個盗むことに成功し、

倉庫はいっぱいだ。


ゴールドは 26億超。


自然習得、いわゆるひらめくスキルは

全員がコンプリートした。

おれは途中から、「無敵」状態になっていたが、

ちなみに俺のステータスは秘密だ。


だが、ほかのパーティーは必死だったらしく、

阿吽の呼吸、盟友と呼べる仲間に

なっていた。


まず、ラスボスにも負けない。最強だ、特に俺。


だが、俺たちはゲームの世界では

エンディングを迎えられなかった。

ふと目を覚ますと、何かの研究所のようだった。


「諸君、おはよう、目が覚めたかね?」


俺たちは、現実の世界でレベル上げをしていたらしい。

人類は、生物として、物体としての形を維持できず、

量子コンピューター「アイオーン」に記憶データを

移され、肉体は、いや地球は消滅したらしい。


ここには、デジタルな100年分の全人類の

データが保管されており、可能性を探っている。

魔法や能力も人間の想像の中では可能だということだ。


ただし、想像でケーキを食べて、美味しく感じる必要がある。


いま、俺たちは人間ではなく人間のデータだ。

アメリカの軍産複合体の創り出した、

デザイナーズチャイルドであり、将来の可能性を

模索していたらしい。


「スパコン相手に勝てるわけないだろ!」


おれはそう叫んでいた。


フェデリコ博士という科学者は、俺達が人類最後の希望

そう言った。10ギガのパソコンに

リアルな大容量ゲームを入れてもまともに動かないが

ファミコムの様なデータなら、たいてい動く。

コンピューターの進化と共に人間は低スペックになり、

データのやり取りでは勝てない。


9人なら「アイオーン」を超える。

そうその機工士は言いやがった。

ゲームは得意だ、「人類を救ってやる。」

9人で誓いを立てた。

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

真の目的、時間遡行による宇宙の救済こそが

「アイオーン」の願い。

その真実も知らず、フェデリコ博士の

意図に乗ってしまった我々。

しばし盲目な羊となろう。


プロローグ はじまりの大陸 終わり。

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