没
研究所の転移装置で跳ばされ、
ふと気がつくと、そこは砂漠だった。
道路が石畳であることや
馬車のわだちがあるところから
中世の雰囲気が漂うが、
周囲が砂ばかりというのは
異様な光景だ。
傍の親友を見てみると、
その双眸を輝かせて、
こちらを見ている。
「なぁ、ここは21世紀の日本みたいな
世界じゃあないだろう?、
ドラキチを出しても大丈夫じゃないか?」
「正直この世界(リージョン)に
50メートルのドラゴンが存在しているとか
ありえんだろう。」
マテリアルな世界が消滅し、すべてがデータとなった
宇宙で何がどうなるかなどわからんが、
しょせん、仮想世界だからな。
こいつは、21世紀の日本でさえ、
「竜に乗っていない竜騎士は差別される。」と発言し、
「始まりの大陸」では常識人に見えたこいつが
どんだけ性格破綻しているか理解してしまった。
「仮想世界だし、まあいいだろう。」
こいつと議論すると、論理性がないため
議論が成り立たない。
とっとと、ドラゴンに乗せて上空に行ってもらおう。
そのほうが面倒が少ないだろう。
「わかった、上空から偵察してくれ。」
ドラキチを出してやると、竜騎士・露原は
大喜びで上空へ飛び立っていった。
ついでに枠をひとつ消費し、スラリンも出してやった。
もっとも、俺はスラリンと日常的に交流できるが、
奴は愛するドラキチと会うことすら困難だからな。
俺たちはとりあえず、機工士のフェデリコの情報を頼りに
砂漠のオアシスの都市ラグーサを目指すことにした。
このあたりはセレスティア王国の領土で
覇権国家エスカ帝国と紛争中らしい。
遠くに目をやれば、山賊らしき集団も見える。
当然だが我々には近づいてこない。
ドラキチは体長50メートルを超える極龍、
ウルティメットドラゴンだ。
複数の強力な魔法が使用可能、
防御は生物の域にない、
HP100万オーバー
こんなものの飼い主に喧嘩を売るやつがいるとしたら
間違いなく自殺志願者だ。
俺を除けば、残りの8人にサシで極龍に勝てる奴は
いない。
竜騎士も上空を乗り回して、満足したのだろう
街に入るためにドラキチを回収しペットゲージに入れた。
後ろ髪を引かれるのか、寂しそうだが、
そこは無視する。
砂漠の真ん中の街なので、
アラブ風かと思えば、
白亜の石の壁と石畳の綺麗な街並みだった。
例えるなら「イタリアのヴェネチア。」だ。
水路をうまく使い、水を有効利用している。
どうやら、遠方の山から地下の水路で、
引き込んでいるようだ。
「なぁ、お金はどうするんだ。」
黒魔道士(英島豊)が聞いてくる。
印旛が取り出したゲームの金は最低単位が金貨1枚だ。
金の含有量は30gと言った所か。
おそらくは純金だから、12万円相当だろう。
中世の基準なら、金貨は12万円、銀貨は
銀自体の価値は3千円、領主の信用を含めると
5千円相当だ。銅貨は170円程度だ。
「金貨26億枚って・・・。」
英島が計算して驚いた。
「げっ!300兆円以上じゃないか。」
ちなみに実物財産の21世紀初頭の
地球の価値は「400兆ドル」程度だ。
「とりあえず、金貨は両替が必要だな。」
俺は両替商に足を向けた。
データのみの世界であるため、
「アイオーンシステム」の恩恵で
コミュに問題はない。
自動で意思を伝える、言葉の壁はゼロだ。
「金貨5枚だが、銀貨と銅貨に替えたい。」
両替商にそういうと、銀貨90枚と銅貨600枚が
返って来た。
領主が銀の含有量を調整する銀貨に比べ、
教会の発行する金貨は含有量が一定で、
値下がりも値上がりもしにくい。
両替商としてはごまかす余地が少ないのだ。
ちなみに現代のように 通貨は多く出回っておらず、
旅人などが使う、希少性の高いものだ。
お金はあるので、客引きは無視して
最高級の宿にとまることにした。
スライムはペットとして飼う者も多く、
問題はなかった。
腹が減っていたので食事のために外に出た。
宿に付設されたものもあるのだが、
市井の様子も知りたい。
「米はないのかよ~、ご飯食べたい。」
英島はぐちぐちと文句をたれていた。
「このパン、小麦じゃないよ。」
豆とトマトのスープはうまいが、
肉は香辛料も塩も香草も少なく、
ややにおいがきつい。
「まあ、けっこういける味だぞ。」
竜騎士はそう言ってがつがつ食っている。
9人分で銀貨2枚は、俺たち的には非常に安い。
装備のない奴に装備を作るため、旅行ガイドに近い
情報屋に金を払い、鍛冶屋の場所を教えてもらった。
店に入るとどういったものがほしいか聞いてきた。
「素材は鉄か銅だ。」鍛冶屋はそういった。
少し期待したが、ミスリルやオリハルコンは無い。
そこで、竜燐の鎧から取った素材と、
ドラゴンローブの革を使って作ってもらうことにした。
文明の進んだ別のリージョンで、チタン合金の盾
に細かい穴のついたものを依頼してそれをもってきていた。
そのリージョンで、作らなかったのは、竜燐の出所を聞かれたり、
盾の加工など目立つからだ。
すると鍛冶屋は不機嫌そうに文句を言ってきた。
「裁縫屋に行け。」
この世界で装備するフェイクの装備もほしかったので
俺たちは鍛冶屋で安い武具を色々と買い込み銀貨10枚をわたし
その店を後にした。
裁縫屋は区画が違うので、急ぎ足で20分ほどだった。
無事にチタン合金の盾に竜鱗を特殊カーボンの糸で縫いつけ
ドラゴンの革でチュニックとグローブを作ってもらった。
材料持込のため、手間賃は金貨1枚だった。
竜の革を譲ってくれと懇願されたが、それは断った。
店から出ると、アイテムで外見変更を行い、
竜燐の盾はキーホルダーに、チュニックはイヤリングになった。
いわゆる変身アイテムだ。
この世界は仮想世界であり、現実の地球の記録をベースにしているので
通常の人間は 魔法が使えるということはない。
魔法を使用するのには条件があり、空想でケーキを食べ、
それを実際の感覚で、甘くておいしいと感じなければいけない。
到底常人には無理だ。
宿屋の通路を歩いていると声をかけられた。
その人はセレスティア王国の女王の使者で、この町ラグーサの領主に
騎士団を貸してほしいといったのだが、ナシのつぶてだったらしい。
見事な装備を着ており、9人で1泊金貨3枚の宿に泊まる我々を
一流の傭兵だと思ったのだろう、声をかけてきた。
王都はエスカ帝国の侵攻を受け陥落寸前だという。
俺は使者の耳に口を寄せ、こう言った。
「あなたと同行している人物、王女殿下にお会いしたいのです。」
使者は、顔面蒼白になりながら、狼狽したが、
会えることになった。
俺たちは協力を申し出、あっさり承認された。
「たとえエスカ帝国軍を全滅させても、
新たな兵が、次々と送られてくるだけでしょう。
戦闘は無意味です。」
俺は現状を正確に明言した。
「我々は、滅ぶしかないと言うことですか。」
王女は大粒の涙を流し小さく呟いた。
「考えがあります。お任せを。」
「お願いいたします。」
そういうと王女は崩れ落ちた。
エスカ帝国の最精鋭3千は砂漠の都市ラグーサを目指していた。
王都はすでに落ち、王族は皆殺しにした。
完全に征服するには、逃げた王女を殺す必要がある。
国民の心を完全に折るのだ。
「敵兵は見えるか?」ルクス将軍は副官ピレスに聞いた。
王女は数人で逃げ出した。
領主が味方しなければおわりだ。
領主とて、王国が滅びたあと、次々に来る軍勢を
すべて滅ぼすなど不可能だ。
「閣下、おそらく戦闘にはなりません。」
「まぁ、そうだな」
進軍はのんびりしており、歩兵は談笑しながら歩いている。
仕方ないとはいえ 緩みきっている。
軍の先頭を行く歩兵はあるものを見つけた。
「%♯!%$!」
そこからは一方的な虐殺だった。
002
「おぉ、かわいいな。ピンク色のスライムだぜ。」
「娘の土産にちょうどいいな。」
「ぴぎー!」
なんだ、人懐っこいな。
そう言って隣の兵士を見ると、顔が半分に割れていた。
「あれ?」、腹部を見ると大穴が開いている。
その兵士は、そのまま絶命した。
総合値80億のスライムは 通常存在しない領域、
常識の外だ。少なくとも千軍万馬に匹敵する。
エスタ帝国の精鋭は統率を失い、逃げ惑った。
初級の火炎魔法は信じられない広範囲を焼き尽くし、
スライムの体当たりは、山の木々を数十本単位で
根こそぎなぎ倒す。
2998人がミンチやグリルにされた。
逃げたのは将軍と副官だけだ。
逃げたと言うより、スラリンが逃がすように
命令されていただけだ。
必死に馬を走らせながら、ピレスは考えていた。
スライム1匹に全滅。
そのまま報告すれば、確実に敵前逃亡で極刑だ。
道中ピレスは将軍を殺害した。
王都に戻るとピレスは、司令官の元に報告に行った。
司令官は驚きのあまり声を失っていた。
「全滅だと。。。地方領主の軍勢がそれほど強かったのか。」
副官ピレスは真実を告げれば、最低でも死刑、
そもそも、スライム1匹に敗北など、帝国の恥以前に
信用してもらえない。
「かの都市には、強力な魔物がおり、その数約100万
奮戦するも将軍が戦死、この情報を持ち帰らねば、
帝国の存亡にかかわると考え、生き恥をしのんで
帰ってまいりました。
この命をもって償わせていただきたい。」
心ではそんなことまったく思っていないが、
そういう理由でないと納得しないだろうし、
ピレスが生き残る方法は無い。
「ふざっけるなぁ!」
竜騎士、露原イツキは 御門を殴打していた。
「いつからお前は、死刑執行人になったんだ?」
「軍隊といえ人だぞ、人が人を殺していいものか。」
この馬鹿は、消防士らしい発言をしやがる。
俺はこいつを説得するのは無理だと理解した。
なので殴られるままだ。
ほかの面々も、スラリンの作った生き地獄の痕を
見せられたときは言葉を失っていた。
竜騎士が 殴りつかれたのか 出て行くと、
俺はほかのメンバーに相談された。
「騙せたとしても一時的じゃないか?
エスタ帝国だって馬鹿じゃないんだ、調査するだろ。」
それは問題ない、おれは言い切った。
確かに一度に引き連れていける召喚対象の数は5体だ。
「それはコントロールできると言う意味であって、
テイムしたペットをリリースして野性に帰せば、
召喚枠は5にもどる。
郊外で試したが、10体以上召喚できた。」
「野性に戻すのが前提なので、
1万体呼び出しても、野生のモンスターが
1万体いるのと同じだ。
当然、無抵抗な一般人を襲うし、
退治しなければいけないだろう。」
「1回に召喚できる数は 5体
1万体のサモンには2000回かかる。
どうやら、ゲージに収納したペットは数に含まれない。
しかし、召喚物はペットではないので
ゲージ収納できない。
当然、2000回召喚する必要がある。」
この世界はデータで構成されているため
データである召喚物が、時間の経過で消えることはない。
逃がした将軍と副官も、「スライム一匹に敗北しました。」
などと報告するほどあほではないはずだ。
そんなことをしたらスライム相手に兵士を皆殺し、
見殺しにして全滅し、指揮官だけ逃げてかえったと言うことだ。
笑いものにされた挙句、拷問されて死刑だろう。
もちろん、9人で敵軍を全滅させれば早いのだが、
おれはともかく、全員、「正義の味方だ。」と言う意識だ。
野蛮な軍隊であっても、人間を一方的に皆殺しにするなどできない。
少なくとも竜騎士は、そんなことを言えば、怒り狂うだろう。
実際、この間のスラリンの行動に竜騎士は、おかんむりだ。
エスカ帝国は、明らかに「悪」なのだが。
かの帝国が、魔王軍やアンデット、モンスターならどんなに
良かっただろうか。
召喚するといっても、善なる存在ではまったく意味がないだろう。
生かしたまま撤退させるのだ。思いっきり、ビビッてもらわないといけない。
軍隊を殺して、竜騎士と殺し合いなどしたくない。
ある程度見た目のおぞましい、悪っぽいやつではならない。
そもそも召喚物は迷惑にならないように、
後で殺すのだ。スライムのようにかわいくて弱いなど論外だ。
エスタ帝国は俺たちが考えていたより早く行動にでた。
密偵が街を見たが、平和そのものだった。
ピレスは、ラグーサに魔王軍がいなければ、
尋問され、拷問された後、殺される予定だった。
おれは、竜騎士のやつがなにかの偵察だと言わんばかりに
エスタの軍80万の前にあらわれて、
巨大な極竜の咆哮で、脅している間に
せっせと、ゲームの中にいたレベルアップよろしく
30秒で4体召喚し、5日間召喚を続け、5万近い
悪魔やアンデットのある程度上位の種族を召喚した。
とうぜん、コントロールできないので、
森の奥、木をみんなで切り倒し、
できたスペースに押し込んでいた。だが、しかし
竜騎士のやつの予想ははずれ、エスタ軍は進撃してきた
おれは、森で火事を起こし、モンスターの大群を
エスタ軍に差し向け、ぶつけることに成功した。
俺の召喚したモンスターはレベル50~60、
それが5万、レベル1から最大でも7程度の人間
80万など一瞬で溶けるだろう。
するとなんと、竜騎士がエスカ軍を守るべく、
召喚したモンスターを倒しまくっているではないか。
その瞬間、極竜は竜騎士を食らった。
首から上がない竜騎士の体は地面に落下し
無残に晒された。
単独で上空にいたため、油断したのだろう
不意打ちだったため、あっさりとしたものだった。
極竜が竜騎士の乗り物ではなく
おれのペットだと言うことが完全に意識から抜け落ちていたようだ。
総合値99億の極竜は俺の命令に素直に従った。一撃だ。
副官ピレスは重要な情報を持ち帰った
功績をたたえられ、将軍となった。
叙勲さえされた。
モンスターなど存在しないと、
真実を報告した偵察部隊は
全員処刑された。
ピレスは精神的に追い詰められていた。
そもそも、モンスターなどいなかったのだ。
いったいどこから沸いて出てきたのだろうか。
自分の空想が生み出した幻影にも思える。
それに、スライムが怖くて怖くて仕方がない。
木陰に見えるスライムや、ペットのスライムが
ピンクの悪魔の仲間に見える。
あの時のことを考えるだけで、意識が戻る
吐き気が止まらない。
家族もそんな様子を心配しているようだ。
このまま、軍隊など辞めてしまいたい。
殺すのも、殺されるのも嫌だ。
今までは意識していなかったが、
凄惨で、残酷な3000人以上の死を
見せられて、平然としているものはいないだろう。
そんなピレスに ピンク色の悪魔がささやく。
「うぁぁああ。」
そういうと、近隣の住民のペット
青色のスライムから一目散に逃げ出していた。」
「ぴぎー、ぴぐー、ぴぎー。」
将軍ピレスは非常に有名人なようだ。
家はすぐに見つかった。
おれは、ピレスの娘にスラリンを紹介した。
「かゎいぃ~。」
ピレスの娘はスラリンとじゃれ付いている。
「スラ・りん♪」
そんな様子を邸宅の窓から見たピレス将軍は
真っ青な顔で、固まって見ていた。
娘の危機だと思ったのか、大急ぎで駆けつけてきた。
「あなたは、エスタ軍のピレス将軍ですね。」
「ひぃぃいぃ、なんでもします、なんでもしますから
どうか家族には!お助けください、スライム様。」
そう言うと、娘の前でひれ伏して泣き出した。
そして、落ち着いたところで彼の家に入った。
彼の子供がスラリンをなでなですると、
また、顔面蒼白になり、子供を引き剥がした。
「わたくしは この王都の司令官をさせていただいている
あわれな ピレスというものです。」
笑顔のスラリンが動くたびにびくびくしている。
こいつは本当に自分を哀れと思っているのだろう。
ものすごくそれが感じ取れた。
「かの英雄の竜騎士様とはどういうご関係ですか。」
おれはどういう嘘をつこうかと考えていた。
「このあたりには、特殊なスライムが生まれるんだ。
それが害をなさないように捕まえているんだ。
強いからテイムすればボディーガードになるからな。」
おれは適当な嘘を並べた。
「ぉお、竜騎士様はあなた様方の御仲間なのですね。」
ピレスは得心いったようにうなずく。
「竜騎士に蘇生魔法をかけたいんだ。」
そういうとおれは、極竜に吐き出させたやや消化された
竜騎士の頭部を見せた。
「おぉおぇええぇ、」ピレスは竜騎士の頭部と
スラリンの間に視線を往復させると、
いきなり、ゲーゲー ゲロを吐き出した。
「すみません、すみません。」
そこいらの小間使いにしか見えない、
将軍閣下はおとなしくお願いを聞いてくれた。
それは、国葬だった。
帝国兵の大半はモンスターに襲われたとき
混乱の極みにあり、誰が竜騎士を殺したかなど
遥か上空であったこともあり、知らなかった。
ただ、エスカ帝国のために命をかけて
奮戦したことを称えているのだ。
ピレス将軍は高らかに群集に叫び、呼びかけた。
「ここに勇者がいた。いや今もいる。彼は
われらがエスタの民80万の軍勢が全滅の危機に
瀕した時、強大な竜に乗り、やってきた救い手だ。」
「聖なる山から降りてこられた、大賢者様が
勇者様を復活させる。」
その言葉と同時に白魔道士は蘇生魔法をかけた。
ゆっくりとそよ風にそよぐように、魔法のカーテンが
竜騎士の体を包み、そして復活した。
「ぉおー、奇跡だ。奇跡が起きた。」
「勇者様と大賢者様に神の祝福を!」
群集は興奮の極致であった。
「ぶち殺してやる。」
TPOをわきまえない馬鹿は、生きていることを理解すると
憤懣やるせない様子で、俺に飛び掛ってきた。
だが、重戦士と格闘家が無理やり押さえ込んだ。
ピレス将軍が、竜騎士が復活した直後で、
混乱していると群集に伝え、俺らは城に入った。
「お前は 俺に殺されて、復讐するために殺そうとしているのか。」
そうおれは問うた。
竜騎士は言っていることの意味と意義がわかったらしく
おとなしく黙り込んだ。俺はやめなかった、
「セレスティアの人々は犯されて、殺されて、蹂躙されている。
今のお前が取ろうとした行為をしているだけだ。少なくともな、」
竜騎士は言い返すことができずにいた。
「しかもだ、お前は殺された意趣返しに俺を殺そうとした。」
「セレスティアの人々は殺された復讐ではなく、
これ以上、殺されないために戦っている。さて言うことはあるか。」
そういうと竜騎士はぽつりと言った。
「ない。」
これでこいつも、俺が人を殺しても絡んでは来ないだろう。
もちろん俺も、「正義の味方」を自称し、「正義の味方」を自認している。
だが悪をなす人間に、ガンジーのように非暴力では生きる気はない。
もちろんこの世界の人間は俺を殺すなど不可能だ。
「殺すやつは殺される覚悟が必要、殺すから殺されるのだ。」
当然、俺のやっていることは理不尽だ。
そんなことはわかっている。
そう言ってやると、竜騎士のやつは槍を俺につきたてた。
重戦士と格闘家の油断もあり、おれは死んだ。
直後に俺が白魔道士に復活させてもらうと。やつはこういった。
「どうだ殺されるのは痛いだろう。」
「ドラキチにやられた俺はもっと痛いんだ。」
そういうとやつは
「おれは、エスタ帝国と共に行く。」
、去っていった。
「陛下 良い知らせと悪い知らせがございます。」
宰相のハラルは言った。
皇帝も悪い知らせなど聞きたくないだろうが、
言わざるを得ない。
「エスカ帝国軍の精鋭80万が壊滅しました。
臣下の報告によれば、魔王軍らしき数万のモンスター
が森の奥部から出現し、それらには
槍も剣も通じず、弓なども無意味。
何も出来ずに壊滅しました。」
「その強さからして、そこいらを徘徊している
野生のモンスターなのは明白。
やはり魔王軍の仕業では?」
皇帝もそう思いたいがありえない。
エスカ帝国は魔王ザルエラに忠誠を誓っており
その尖兵である。この世界を統一し
魔王様に捧げるために戦っているのだ。
このことは魔王様に報告が必要だろう。
「それでは良い知らせのほうを。」
「こちらへお越しください。」
宰相は敬意を持って呼びかけた。
「私は 竜騎士ロマノフと申します。」
そう、004の露原樹である。
「竜騎士殿はエスカ帝国正規軍がモンスターの群れに襲われて
いるところに単騎突撃し、打ち破ったのです。」
宰相は興奮気味に話す。
竜騎士の戦力の是非が、宰相の命運を決めるだろうからだ。
皇帝は彼の強さがどの程度かはわからないが、
連れているドラゴンは人生の中で見た最強の存在だろう。
魔王様以上とも思える。
今後の戦いに竜騎士ロマノフが居れば
頼もしいこと、この上ない。
宰相はあることを思いついた。
「皇帝陛下、久方ぶりに 御前試合など開いては
いかがでしょうか?将兵や民衆も戦意が高まりますし、
敗北から目をそらせます。」
なぜなら、
皇帝は言葉をさえぎる様に言った。
「この竜騎士殿が、モンスターを滅ぼさなければ
将兵は生きては居ない。
エスカ精鋭80万を上回る戦力、という訳だな。」
「その通りでございます。さすがは陛下。」
宰相は振り向くと竜騎士ロマノフを覗った。
「いいぜ、ちなみに死んでも、その女、
大賢者ネーデルが居れば蘇生できるからな。
遠慮なくやらせてもらう。」
白魔道士ネーデル、咲耶蘭はご随意にとのことだ。
帝都は久しぶりに沸いていた。
伝説の竜王 バフォメット と 極龍 ウルティメットドラゴン
の対決だ。
種族的にはバフォメットが圧倒的に強いだろうが、
竜騎士に帝国兵が勝てる見込みはまずない。
1勝1敗で盛り上げるつもりだろう。
民衆の多くはそう考えていた。
竜騎士に 「挑戦」するのは 4騎士の一人
土のニグルムだ。
土のと付いているだけあって 武器は槌
ハンマーだ。槍との相性は悪い。
まず、勝つ見込みはないだろう。
酒場や賭場での掛け率は
バフォメット1に対しウルティメットドラゴンは3
竜騎士1に対し、ニグルム1000だ。
これは、国を救ってもらった恩も理由かもしれないが。
おれは、ペットである極竜の感覚を通して、監視していた。
遠隔監視などではなく、ペットや召喚物の見たもの聞いたものは
リアルタイムで情報が入ってくる。
寝ているときも入ってくるので、うっとおしい。
竜騎士は裏切ったわけではなく、瓢箪からこま、棚から牡丹餅か、
彼自身の意志でエスタ軍のために孤軍奮闘したため
王都に赴いたとき、エスタ軍の将校に感謝され、
本国の皇帝に謁見が可能になったのだ。
御前試合は壮絶だった。
バフォメットがブレス フレア 物理攻撃などあらゆる攻撃を
正面から仕掛けるも、無傷。
爪で眼球に命中しても、瞬きすらしなかった。
戦闘力10億の雑魚ウルティメットドラゴンと
戦闘力5000の竜王バフォメットの差だ。
御門ヤマトの性格からして、わざと負ける気はないようだ。
バフォメットも戦闘力5000、常識外の強さだが、
初期ステータスのウルティメットドラゴンと同程度だ。
竜王ゆえに同格が居らず、戦うことが無かったのだろう。
体力の衰えた、年老いた竜に過ぎない。
極龍が神速で羽ばたくと、衝撃波で
バフォメットは粒子と成って消えた。
これは、大賢者ネーデルでも蘇生できない。
御門に責任があるとはいえ、俺からも
皇帝に謝罪しておこう。
ドラキチをよこせとか言われたら嫌だからな。
竜騎士は緊張感ゼロでニグルムとの戦いを待っていた。
人間対人間、本物の武器は使わない、練習試合だ。
そもそも、ニグルムに勝機などないのだ。
真剣勝負は死ねと命ずるのと同義、
さすがに皇帝もそこまではいえなかった。
ニグルムが死ねば、戦意はがた落ちだろう。
メリットがない以上しない。
それが結論だ。
竜騎士は、殺すつもりはないが、少しお遊びをすることにした。
竜騎士は槍で戦わず、ニグルムの持つ
イミテーションの槌で戦うというのだ。
当然槌の戦い方など知らない。
周囲の民衆が見ても、一目瞭然だ。
踏み込むニグルム、槌を振り下ろした瞬間
ニグルムは槌と槌をぶつけ、竜騎士が無手になったのを見た。
元々一撃目を棄てる目的の振り下ろしと、
武器として使い続ける目的で、二撃目を考慮した
戦闘では、ニグルムに勝ち目は無かった。
竜騎士ロマノフは腰に刺した、木製の棒2本を
左右から、そっと首に当てるのだった。
その瞬間、ニグルムは負けを認めた。
わーっっつ!!
観衆は最高に盛り上がった。
竜騎士ロマノフは大賢者ネーデルに近づくと聞いた。
「あの竜王とか言うの蘇生できる?」
「白魔法では無理ね。時間魔法なら可能かも。」
竜騎士は極龍、ドラキチに近づくと、
(遠隔で時魔法よろ)と言ってきた。
俺は召喚士のスキルとして、召喚物を通じて
魔法を行使できる。
ドラキチに麒麟とフェニックスの能力を上書きし
魔法を放った。(リバーシ)(レイズ)
同時に2つの魔法の行使だ。
少し疲れるが、自分の責任でバフォメットを
滅殺したのだ、しかたない。
ネーデルは一芝居打つと、バフォメットは蘇生した。
ぉおおおー!!
観衆は沸き立ち、皇帝の戦意を高める目的は
達成され、無事御前試合は終わった。
2日後、帝国軍は30万の兵力をセレスティアへ
向けた。
5
俺たちは、見込みのありそうな若い将校を鍛えていた。
将来のセレスティア王国を統治するためだ。
王女は、なんと言っていいか箱入り娘で期待できない。
俺たちが王国を救ったとしても、彼女が女王で支えるものがいなければ
国家は崩壊し、俺らの努力は水泡と帰す、それは避けたかった。
しかし、その王女の幼馴染の若者、クルセスは名門の出自と言うわけでもなく、
王女と結婚できるとは思えない。
方法は彼を、「救国の英雄」にするしかないだろう。
別のリージョンで、経験値を取り出し、移し変えるアイテムが売っていた。
取り出した経験値の半分が宝玉となり結晶化する。
俺たちは余剰経験値を結晶化して、ある程度所持していた。
とりあえず、2万経験値ほど彼に与え、レベルを20程度にした。
もともと、彼は武術の才能には優れており、おそらく帝国軍相手なら
無双できるだろ
「よお、ドラキチ。明日、王都へ攻め込むぞ。
よろしく頼むぞ、相棒。」竜騎士殿はそう言って、
巨大なドラゴンに話しかけていた。
「グルルル」ドラゴンが反応してうなっていた。
帝国の兵士はこんなにも強大な力を持つドラゴンの
友人になっている竜騎士殿を敬愛していた。
帝国軍は王都オーベルニンヘンへ向け進軍していた。
しかし、道中で罠や待ち伏せに会い、
兵士の犠牲はあまりにも大きく、士気は低下していた。
脱走も相次ぎ、どう考えても情報が漏れているとしか思えなかった。
スパイ狩りを徹底したが、それらしき様子もない。
すでに軍は疲弊しきった10万だけになっていた。
皇帝ヘカトン3世は、それでも帝国軍の進軍を辞めなかった。
皇帝自らの指揮を執り、帝国の存亡をかけて侵攻しているのだ。
ここで撤退しては、帝国が滅びる。
帝国軍8万と王国軍5万がぶつかることとなった。
世界史上最強とも言っていい竜騎士ロマノフが居るのだ
負けるはずがない。そう思っていたのだが、
戦略や戦術は素人らしく、あっさりと敵軍に敗北した。
いくらなんでも、1人で5万人を殺すのは無理だろう。
そう思っていると、敵将のクルセスに捕縛されてしまった。
王国軍は戦意旺盛、帝国軍はあっさりと敗北した。
竜騎士のことを除けば、予想はしていた。
もはやこんな帝国などに未練はない。
魔王ザルエラ様から大いなる力を頂いたのだ。
リージョンコアの力を!
そう言うと皇帝は巨大な化け物へと変化した。
「リージョンコア確認、通常攻撃は無意味。」
盗賊の印旛が言った。
「怪物ヘカトンケイル、完全物理魔法無効属性。」
盗賊は、「看破」スキルを使うとそういった。
おそらく、戦闘力10億の攻撃も効かないだろう。
これは困ったと、竜騎士を除いた8人で相談した。
とりあえず、全力で物理攻撃と魔法攻撃をぶっ放つも
ダメージはないようだ。
(リージョンコア、恐るべし。)
全員がそう思った。
問題ない、そういったのは黒魔道士「英島豊」だ。
「超伝導って知ってるか?」
俺は代表していった。
「一応は。」
「やつがすべてを無効にするとしても、時間と空間が停止した
時空間では無効化できない。もしそれが出来たら、
見捨てて逃げるしかないがな。」
黒魔道士「英島豊」はヘカントンケイルの前に立ちはだかると、
極龍退治で鍛えた 「十八番」やつのカンストスキルレベルの
氷魔法を放った「フリーズ!」、「アブソリュートゼロ!」
すると、時空間が局所的に止まった。
「ヘカトンケイルが無効化できるのは、
形がないから、でも時空がとまれば、固着化される。」
その盗賊の言葉を合図に、
魔道士はMPの尽きるまで、
戦士や召喚士は体力の尽きるまで
全力で殴った。
「いや、それ意味ないから。」
英島はそう言うとMPを分けてくれという。
「サンダー」そう言うと
黒魔道士 英島は 電撃を食らわせた。
全員のMPが尽きるまで。
「時は動き出す。」
某漫画の主人公のような台詞を吐いた、
英島は超伝導で抵抗ゼロのエネルギーが
時空間の固定化が溶けた瞬間に
怪物ヘカトンケイルの内部で
爆発的なエネルギーを生み、
巨大な閃光と共に、怪物は爆散消滅した。
皇帝ヘカトン3世の消滅後、彼が魔物だったという
噂が広がり、跡継ぎも居なかったため
エスカ帝国は皇帝を廃し、共和制と成った。
エスカ帝国でカリスマでもあった、竜騎士ロマノフの
協力もあり、王国は旧帝国と講和条約を結び、
王女と結婚した、クルセスは王太夫となり、
平和な世界が訪れた。
リージョンコアを無事回収した俺達は、
研究所に戻り、次の世界に旅立った。
続く
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