第2話
第4話
周囲360度、砂漠なためどこをどう行けばわからないで
みんなで困っていると、
傍の親友がその双眸をらんらんと輝かせて、
こちらを見ている。
「なぁ、ここは21世紀の日本みたいな
世界じゃないだろぅ?
ドラキチを出しても大丈夫じゃないかな?」
たしかに、上空から見渡せば、どこに何があるかなど、
一発でわかるだろう。
露原イツキはよほど、ドラゴンに乗った
竜騎士になりたいのだろう。
こちらとしても、否定する理由も特にないので
認めることにした。
「しっかし、正直この世界(リージョン)に
体長100メートル超のドラゴンが存在しているなど
ありえんだろう。」
「我を呼び出したのか。何か大きな災いでも迫って居るのか?」
いや、どらきち 単に偵察するために上空に行くだけだ。
「そのようなささいなことで、我を呼び出すでない。」
はい、はい、おまえは 長い時を生きたウルティメットドラゴンでは
なくなったんだ。お前の名前はドラキチだ。
クレインなんぞ五匹居るから、クレインAやクレインCだぞ。
お前にはいちおうの敬意を払って、ABCDEはつけていないだろ
少しは感謝しろよ。
「わ~い、ドラキチだ!」
「お前は主ではないのだぞ、露原どの。」
いやおまえ露原の乗り物としての機能しかない気がするぞ。
たしかにドラゴンは強いけど、。
「どらきち~、さみしかったよ
私達は恋人みたいな感じだよね。」
「露原どの、照れるでござるな。」
「あなたの同族には感謝してるわ。金貨260億枚も
儲かったんだから。」
それはひどいでござる。英島どの。
「わかった、上空から偵察してくれ。」
ドラキチを出してやると、竜騎士・露原は
大喜びで上空へ飛び立っていった。
「南西に20キロメートルくらいのところに
人工物の道がある。」
竜騎士・露原は魔法を使って、状況を知らせてきた。
ペットとの感覚共有でその景色を見ていた
俺の感想としては、道路が石畳であることや、
馬車のわだちがあるところからして、中世の雰囲気が漂うが、
周囲が砂ばかりと言うのは異様な光景だ。
ついでに枠をひとつ消費し、スラリンも出してやった。
もっとも、俺はスラリンと日常的に交流できるが、
奴は愛するドラキチと会うことすら困難だからな。
俺たちはとりあえず、情報を頼りに
砂漠のオアシスの都市ラグスブルグを目指すことにした。
このあたりはセレスティア王国の領土で
覇権国家エスカ帝国と紛争中らしい。
砂漠の街ラグスブルグは草原の真ん中にある町で
白亜の石の壁と石畳の綺麗な街並みだった。
例えるならば、イタリアのヴェネチアだ。
水路をうまく使い、水を有効利用している。
どうやら、遠方の山から地下の水路で直接引き込んでいるようだ。
「ねぇねぇ、お金はどうするの?」
黒魔導士の『英島とよ』が鬱陶しく聞いてくる。
「極竜の落とすお金は金貨だ。金の含有量は30グラムといったところか。
おそらくは純金だから12万円相当だろう。」
「金貨260億枚って、どのくらいの価値?」
英島はなおも聞いてくる。
「この世界は中世ヨーロッパのような雰囲気だし、金貨は12万円
銀貨自体の価値は3千円、領主の信用を含めると5千円、
銅貨は170円程度だ。」
「金貨260億枚って・・!」
英島は計算して驚いた。
「げっ、3000兆円以上だよ。」
ちなみに実物財産で21世紀初頭の地球の価値は4京円程度だ。
持っている金銭が金貨だけというのは不自然すぎる。
ストレージから金貨を5枚ほど取り出してから両替商に足を向けた。
「とりあえずは金貨の両替が必要だな。」
街の入り口の橋の上で秤を出している両替商に声をかけた。
「金貨5枚だが、銀貨と銅貨に変えたい。」
両替商にそういうと銀貨90枚と銅貨600枚が返ってきた。
領主が銀の含有量を調整する銀貨に比べ、
教会の発行する金貨は含有量が一定で、
値下がりも値上がりもしにくい。
両替商としてはごまかす余地が少ないのだ。
ちなみに現代のように 通貨は多く出回っておらず、
旅人などが使う、希少性の高いものだ。
「ゲームの中みたいに、薬草1個金貨1枚とかだったら困るよね。」
「それはまずない、あの価格は異常だ。」
「薬草1個12万円だぞ。高級栄養ドリンク60本以上買える価格だ。
この町なら、おそらく 銅貨1枚で10個は買えるぞ。」
「お客さん、宿は決まってますか?」
ウサギ耳の客引きが声をかけてきた。
「一泊1部屋、金貨3枚だよ。ペットは、ああスライムか。
スライムなら連れ込んでも問題ないよ。」
「すらりん!」
かわいい~、かわいい~
宿の女どもが黄色い声でスラリンにまとわりつく。
すると『スラリン』が泣き出しそうな顔で?、こちらを見てくる。
メスと言っても人間の女性ではないので、『スラリン』にも
『クレイン』にも興味ないです。どちらかといえば人間の場合、
女性のほうが、スラリンやクレインを可愛がってくれると思うよ。
かわいい~ かわいいわね~
(こいつが普段何を考えているか知らないんだろうな。
召喚物とは5感共有してるし、頭の中身丸見えだからな)
(しかし、スラリンは なぜおれに恋をしているんだ
ペット的な感情か、父親とでも思っているのか)
(卵か、卵が孵ったときにはじめて見たのがおれだったからか!)
(人間のメスによい感情を抱いてないことは黙っていよう)
(それがスラリンのためだ)
みんなお腹が空いているようなので
宿に付設されているものを無視して
食事のため、外に出た。
市井の様子も知りたい。
昼近くでどの店も混雑しているのに
やたらと閑散とした店舗があった。
ランチメニュー銀貨3枚、15000円だ。
豊かな日本なら客も入るだろうが、
ここは貧富の差が激しく、1日500円で生活する人々も
多いだろう。
そもそも、農村の住民など貨幣など使わないし、
持っていても銅貨だ。
舌の肥えた俺達にはちょうどいいだろうし、
3000兆円の財布にとって、銀貨3枚は安い。
露原は肉が食べたいらしく、ウルティメットドラゴンの肉を
持ち込みで料理してくれるように交渉している。
英島は米が食べたいらしいが、置いていなくて
オートミールを注文していた。
俺はおそらくミネストローネであろう
豆とトマトのスープと
子羊の香草焼きを塩と香辛料たっぷりで注文した。
「ドラゴンステーキってうまいのか?」
肉食獣の肉は不味いというのが定説だが、
案外うまそうに食べている。
「まずいよ。すごく不味い。でも1kg食べると
攻撃力、防御力が恒久的に上昇するからね。
マーケットを見てみたら普通のドラゴンでも
金貨10枚とかだったよ。」
「俺ら3人はほぼ初期装備だぞ。」
「いくら、ペットが戦うとはいえこの装備は不味いだろう。」
「このあたりに鍛冶屋はありませんか?」
レストランの店員に聞いてみると、
旅行ガイドに近い情報屋を紹介してくれた。
「はじめまして、何をお求めですか?」
「材料持ち込みでローブや杖を作ってくれる
ところを探している。金銭に関しては問題ない。」
「なんだ、初級冒険者か、素材は銅と鉄だ。」
鍛冶屋は俺たちの身なりを見てそう言った。
「ミスリルやオリハルコンはありませんか?」
少し期待して聞いてみたが、馬鹿にしたような目で見られ
無視された。
「鉄製のグローブとグリーブに、(龍燐)を合成してほしいのですが
大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。しかし立派な龍燐だな、
どこで手に入れたんだ?」
「アルティメットドラゴンっているじゃないですか
あいつがまれにドロップするんですよ。
鍛冶屋は口をあんぐりと開けて、固まっていた。
「あの100メートル近い化け物を複数倒したと!」
それはすごい。この龍燐売ってはもらえまいか?」
「すみません、マーケットに流すかもしれませんが
直接取引はお断りします。」
鍛冶屋は肩を落としたが、きちんと契約を交わし
グローブとグリーブを依頼した。
「龍燐をドラゴンローブに張り付けたいのですが
どこに行けば作ってもらえますか?」
すると鍛冶屋は不機嫌そうに、
「裁縫屋に行け。」その世界で装備する
フェイク装備も欲しかったので
俺たちは鍛冶屋で安い武具を色々買い込み
銀貨10枚を渡し、その店を後にした。
英島は魔導士なので布、俺はテイマーなので布、
ドラゴンハイドに龍燐を張り付けて
強化するできたのがドラゴンローブだ。
龍燐は物理防御・魔法防御、属性防御、
共に優れており、状態異常も半減する。
宿屋の通路を歩いていると突然声をかけられた。
その人はセレスティア王国の使者でこの町に来たらしい。
俺は貴賓室に通され、話を聞くことになった。
見事な装備を着ており、1泊金貨3枚の宿に泊まる我々を
一流の傭兵か何かだと思ったのだろう。
「私は、王女付きの侍女エレナと申します。
この町の領主は王族を見限っており、
騎士団どころか、護衛の兵士すら出す気はありません。」
まあ、宿屋で冒険者に声をかけるくらいだ、
切羽詰まっているのだろう。
「王都はエスカ帝国の侵攻を受け陥落したとか。」
侍女は顔面蒼白になり、狼狽したが、
王女は覚悟を決めているようだった。
「たとえ、今回の帝国軍を壊滅させたとしても
新たな兵が次々と送られてくるだけでしょう。
消耗戦は無意味です。」
「あなた方が、使役していらっしゃる、
巨大なドラゴンでも不可能でしょうか?」
「無理ですね。」
「我々は、滅ぶしかないということですか・・・」
王女は大粒の涙を流し小さくつぶやいた。
「まあ,策が無い訳では無いのですがね。」
「私はあまりにも無力です。すべてお任せいたします。」
そういうと王女は崩れ落ちた。
エスカ帝国の最精鋭3千はラグスブルグを目指していた。
王都はすでに落ち、王族は皆殺しにした。
完全に征服するには、逃げた王女を殺す必要がある。
国民の心を完全に折るのだ。
「敵兵は見えるか?」ルクス将軍は副官ピレスに聞いた。
王女は数人で逃げ出した。
領主が味方しなければおわりだ。
領主とて、王国が滅びたあと、次々に来る軍勢を
すべて滅ぼすなど不可能だ。
「閣下、おそらく戦闘にはなりません。」
「まぁ、そうだな」
進軍はのんびりしており、歩兵は談笑しながら歩いている。
仕方ないとはいえ 緩みきっている。
軍の先頭を行く歩兵はあるものを見つけた。
「%♯!%$!」
そこからは一方的な虐殺だった。
第5話
「おぉ、かわいいな。ピンク色のスライムだぜ。」
「娘の土産にちょうどいいな。」
「ぴぎー!」
なんだ、人懐っこいな。
そう言って隣の兵士を見ると、顔が半分に割れていた。
「あれ?」、腹部を見ると大穴が開いている。
その兵士は、そのまま絶命した。
総合値30億のスライムは 通常存在しない領域、
常識の外だ。少なくとも千軍万馬に匹敵する。
エスタ帝国の精鋭は統率を失い、逃げ惑った。
初級の火炎魔法は信じられない広範囲を焼き尽くし、
スライムの体当たりは、山の木々を数十本単位で
根こそぎなぎ倒す。
2998人がミンチやグリルにされた。
逃げたのは将軍と副官だけだ。
逃げたと言うより、スラリンが逃がすように
命令されていただけだ。
必死に馬を走らせながら、ピレスは考えていた。
スライム1匹に全滅。
そのまま報告すれば、確実に敵前逃亡で極刑だ。
道中ピレスは将軍を殺害した。
生存者が2人いれば、証言に齟齬が生じる。仕方がなかった。
王都に戻るとピレスは、司令官の元に報告に行った。
司令官は驚きのあまり声を失っていた。
「全滅だと・・・地方領主の軍勢がそれほど強かったのか。」
副官ピレスは真実を告げれば、最低でも死刑、
そもそも、スライム1匹に敗北など、帝国の恥以前に
信用してもらえない。
「かの都市には、強力な魔物がおり、その数約100万
奮戦するも将軍が戦死、この情報を持ち帰らねば、
帝国の存亡にかかわると考え、生き恥をしのんで
帰ってまいりました。
この命をもって償わせていただきたい。」
心ではそんなことまったく思っていないが、
そういう理由でないと納得しないだろうし、
ピレスが生き残る方法は無い。
エスタ帝国の軍が撤退したのち宿屋の部屋で
竜騎士、露原イツキは 俺を殴打していた。
「ふざっけるなぁ!いつからお前は、死刑執行人になったんだ?」
「軍隊といえ人だぞ、人が人を殺していいものか。」
この馬鹿は、小学生らしい発言をしやがる。
俺はこいつを説得するのは無理だと理解した。
なので殴られるままだ。
ほかの面々も、スラリンの作った生き地獄の痕を
見せられたときは言葉を失っていた。
竜騎士が 殴りつかれたのか 出て行くと、
俺はほかのメンバーに相談された。
「騙せたとしても一時的じゃないか?
エスタ帝国だって馬鹿じゃないんだ、調査するだろ。」
それは問題ない、おれは言い切った。
「数十万の魔物の群れを作り出す。」
確かに一度に引き連れていけるペットの数は5体だ。
「それはコントロールできると言う意味であって、
テイムしたペットをリリースして野性に帰せば、
テイム枠は5にもどる。
郊外で試したが、10体以上にできた。」
「野性に戻すのが前提なので、
1万体呼び出しても、野生のモンスターが
1万体いるのと同じだ。
当然、無抵抗な一般人を襲うし、
退治しなければいけないだろう。」
「1回にテイムできる数は 5体
1万体のテイムには2000回かかる。
どうやら、ゲージに収納したペットは数に含まれない。
当然、2000回テイムする必要がある。」
この世界はデータで構成されているため
データであるペットが、時間の経過で消えることはない。
逃がした将軍と副官も、「スライム一匹に敗北しました。」
などと報告するほどあほではないはずだ。
そんなことをしたらスライム相手に兵士を皆殺し、
見殺しにして全滅し、指揮官だけ逃げてかえったと言うことだ。
笑いものにされた挙句、拷問されて死刑だろう。
もちろん、我々で敵軍を全滅させれば早いのだが、
おれはともかく、露原は「正義の味方だ。」と言う意識だ。
野蛮な軍隊であっても、人間を一方的に皆殺しにするなどできない。
少なくとも竜騎士は、そんなことを言えば、怒り狂うだろう。
実際、この間のスラリンの行動に竜騎士は、おかんむりだ。
エスカ帝国は、明らかに「悪」なのだが。
かの帝国が、魔王軍やアンデット、モンスターならどんなに
良かっただろうか。
テイムするといっても、善なる存在ではまったく意味がないだろう。
生かしたまま撤退させるのだ。思いっきり、ビビッてもらわないといけない。
軍隊を殺して、竜騎士と殺し合いなどしたくない。
ある程度見た目のおぞましい、悪っぽいやつではならない。
そもそもペットは迷惑にならないように、
後で殺すのだ。スライムのようにかわいくて弱いなど論外だ。
エスタ帝国は俺たちが考えていたより早く行動にでた。
密偵が街を見たが、平和そのものだった。
ピレスは、ラグスブルグに魔王軍がいなければ、
尋問され、拷問された後、殺される予定だった。
おれは、竜騎士のやつがなにかの偵察だと言わんばかりに
エスタの軍80万の前にあらわれて、
巨大な極竜の咆哮で、脅している間に
せっせと、ゲームの中にいたレベルアップよろしく
30秒で4体テイムし、5日間テイムを続け、5万近い
悪魔やアンデットのある程度上位の種族をテイムした。
とうぜん、コントロールできないので、
森の奥、木をみんなで切り倒し、
できたスペースに押し込んでいた。だが、しかし
竜騎士のやつの予想ははずれ、エスタ軍は進撃してきた
おれは、森で火事を起こし、モンスターの大群を
エスタ軍に差し向け、ぶつけることに成功した。
俺のテイムしたモンスターはレベル20~30、
それが5万、レベル1から最大でも7程度の人間
80万など一瞬で溶けるだろう。
するとなんと、竜騎士がエスカ軍を守るべく、
テイムしたモンスターを倒しまくっているではないか。
「グッギギ ガガ」
ドラキチは苦しそうにうめくと、口を大きく開けた。
その瞬間、極竜は竜騎士を食らった。
首から上がない竜騎士の体は地面に落下し
無残に晒された。
単独で上空にいたため、油断したのだろう
不意打ちだったため、あっさりとしたものだった。
極竜が竜騎士の乗り物ではなく
おれのペットだと言うことが完全に意識から抜け落ちていたようだ。
総合値99億の極竜は俺の命令に素直に従った。一撃だ。
第0話
薄っすらとした意識の中、俺の眼前には
空高く大きな雲がいくつも漂っているのが見えた。
それは、バナナに変化したり、リンゴに変化したりしていた。
「ここは、どこだ・・・」
だんだんと意識がはっきりしてくると、俺の背中に当たる
雑草の感覚が強くなる。俺はどこで何をしているんだ。
目が覚めるまでどこにいたかなどは全く覚えていない。
おそらく疲れ果てて意識を失ってしまったのだろう。
記憶をたどる限り、近くに街がないかなどと、
ただっぴろい草原をさまよい歩いていた姿が
幻影のように浮かんでは消えていく。
地図もなく、見つかる可能性は低かった。
だが、生き延びるためにさまよい歩いていた。
しかし、見つけることはかなわなかった。
俺の目の前にあるのはただただ真っ暗な絶望だ。
俺の所持品はおそらく麻布でできた上下の服、
決して見栄えは良くなく、明らかにおんぼろな布切れだ。
乞食が好んで着そうなものだ。
幸いなことに高原は気候が穏やかで寒さで凍え死ぬ
などということはなさそうだ。
他には3日分あるかないかの水と食料だ。
相当節約して飲み食いしていたようだがそれでももう
これだけだ。早く街を探さないと飢えて死ぬのは確実だ。
俺にもわからないのはフライパンを所持していることだ。
記憶にはないが俺はコックでもやっていたのだろうか。
おあつらえ向きに卵も1個だけ持っている。
しかし、ニワトリのような鳥の卵ではないのは明らかで
おどろおどろしい色艶の蜘蛛系のモンスターのような外見の卵だ。
間違っても調理して食べようとは思えなかった。
俺の住んでいた大阪の上下水道は薬品が入っているとはいえ
けっこう、品質の良い水らしいし、空気は排気ガスのそばなので
良いわけないだろうが、個々の環境は非常に良い。
祖父母の住む田舎並に水も空気も澄んでいる。
気温も程よく非常に過ごしやすいためにのんびりしすぎた。
なのでおれはとりあえず水を汲むことにした。
水は何とかなると思っていたのだ。
すぐそばに清流が流れ、小魚が元気に泳いでいる様子だった。
しかし、いざ飲もうとして手ですくおうとすると
『採集スキルがありません』的な感覚が伝わってきて飲めない。
当然、皮袋で汲むこともできなかった。
食べ物も、そこいらの木になっている果物を採ろうとするのだが、
『採集スキルがありません』という理由で、食べることはできそうにない。
やはりここは普通の生活空間とは明らかに違う場所だと
肌身にしみてわかってしまう。
きゅーきゅー と鳴るお腹の音さえなければずっと寝ていられるのだが、
生きていくためにはそうはいかない。
そういった、進退窮まった状態でおれはそいつに出会った。
出会ってしまった。幸いなことに戦闘スキルはある様子で、
攻撃して倒すことは可能だと、脳内のガイタンス的なものが
教えてくれる。そいつは俺のもといた世界ではゲームでも漫画でも、
『超』がつくほど有名な『雑魚』だ。
さすがに今のおれでもこんな物体に負けることはないだろう。
そう過信していた。正直食べられるかは不明だが、
水分は非常に多そうに感じられる。
想像の中で、メロンのような味だろうか、スイカのような味が
するのではないだろうかと、喉の渇きと空腹を満たすためそいつを狩って、
むしゃぶりつこうという妄執に囚われていた。
そして、おれはほんの軽い気持ちでそいつに襲いかかった。
それは人生で初めて経験する、本当の絶望の始まりだった。
『米原 和樹』の攻撃 そういう脳内のアナウンスに従い、
俺はフライパンにかなり力を込めて殴りつけた。
その一撃はそいつ、青い色をした間抜け顔の『スライム』にヒットし
倒すはずだった。しかし現実には『フライパン』はスライムの表面を
滑るように滑らかになぞり地面に「ゴンッ」と鈍い音を立ててぶつかった。
それでもダメージは与えたらしくスライムの左上に表示されている
『青色の体力ゲージ』らしきものは、1割ほど削られ、
そのスライムは痛みからか本能からか、怒り狂いながら、
こちらに全力で突撃してきた。
それは俺がいかに無力で無為なのか、自分自身の経験として味わうこととなった。
スライムはまっすぐこちらに向かってきた。
どうやら体当たりをする気のようだが動きは鈍い。
その気になれば余裕で避けられた攻撃だっただろうが、
スライムに殺されるなど想定の埒外であり、スライムなど早くかたずけようと
無視して殴り続けるという愚かな決断を下してしまった。
その遅くて鈍い攻撃の威力は、俺の腹部に正面からぶつかって
かなりのダメージを与えたようだ。俺の目の前に表示される
『黄色い体力ゲージ』らしきものは半分近くまで減っていた。
それだけではない、まるで至近距離からロベカルのフリーキックを
喰らったような強烈な痛みが走り、立ってはいられなかった。
悶絶し、苦しそうに転がる俺を見てスライムはとどめを刺そうとしてきた。
ふと何かが口から吐き出されて、それを見たらそれは『赤い血』だった。
生死の分かれ目だと感じた俺は全身全霊でスライムの攻撃を避けると、
スライムに背中を見せて一目散に逃げ出そうとした。
『死ぬ』と文字通り『死ぬほど痛い』だろうし、この世界の構造が
どうなっているかは分からないが、もしかすると俺はあの世に
行くことになるのだろう。場合によっては世界から消滅し『無』に帰する。
元いた世界と同じで今のおれにとって『死ぬ』ということは完全な未知であり、
いかなる書物も賢者の知恵もその真実を教えてはくれない。
まだ宗教に熱心で『信仰』でもあれば違っただろうが、俺はそれこそ
小便をもらしながらそれこそ命がけで逃げ回った。ものすごく怖い、あと一撃で死ぬ。
すでに痛みと恐怖で硬直し、疲弊しきった身体で逃げることは難しく、
真に絶望して諦めた俺の前で、『俺を殺すべく行動した』そのスライムは
その目的を遂げることなく、上空から降ってきた一本の『銅の槍』に貫かれ、
水の入った袋が弾ける様に、『絶命』した。
天国に行けますようにとでも祈っていたのか、恐怖のあまり大便をもらした俺は
ギュッと目を閉じていた。しかし、しばらくしてもなにも起こらないので、
その目をそっと開けてみると、『憐みと侮蔑』に満ち溢れた表情を隠そうともせず
その御尊顔を拝見することとなった。
そこには、一人の少女がいた。まるで天使のようだった。
「なっさけないわね。初心者エリアでスライム一匹相手に瀕死とかありえない
でしょ。」と彼女はおっしゃった。その表情と寸分たがわない、ゆえに心の底からの本音だろう。
金色の長い髪にエメラルドブルーの目を持つ美しい少女だ。
身長はかなり低く130cmくらいだ。普通ならとても強そうには見えない、
しかしその時の俺には『命の恩人』補正がかかっていたので凄腕の戦士に見えていた。
銅の槍と銅の鎧を装備した彼女は腰の袋に手をやり、しばらくごそごそしていたが、
目的のものを見つけたらしく『薬草』らしきものを取り出すと俺に手渡してきた。
「ほら、のみなさいよ。体力は少し回復するわよ。」
彼女にとってそれは何か対価を要求するでもなく、恩を売るでもなく、
ごく自然な行為であった。
俺は緊張の糸が切れ、助かったという安心感と、
まったく無関係な他人を何の見返りもなく助けてくれた彼女への感謝で
ただ、ただ、感動して号泣しながらひたすらお礼の言葉を言い続けていた。
「うわっ、なんなんのよ。あなたは。・・・キモイ」
俺のあまりの態度に驚いたのか、彼女は赤面していた。
「そこいらを採集スキルで探索すれば簡単に拾えるものだ。」
そう言うともごもごと恥ずかしそうに口ごもりながら黙ってしまった。
そして、遠慮する必要はないとばかりに大仰に手を振った。
彼女から渡された薬草をもぐもぐとほおばり飲み下した。
ニガヨモギやドクダミのような薬っぽい味を想像していたが、
以外にオレンジ味だった。
「意外においしいですね。」
それが彼女の外見と相まって小児科医で出される甘いシロップを
思い出し、つい笑ってしまった。
笑われた理由が分からなかったようで、
「なんだよ、何がおかしいんだ?死にかけておかしくなったのか?
まあ、装備が整うまでは、戦闘系のスキルはお勧めできないよ。」
「体の痛みと倦怠感が消えました。」
そう言うついでに改めて、
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。」
と俺なりの最大限の感謝を捧げた。
ボロ布をまとった俺だが、いつかこの恩は返そう、そう思った。
「なぜ。」
少し喉に詰まった。そして間を置いて俺は彼女に問いかけた。
「なぜおれを助けてくれたんですか?」
俺も同じ状況なら助けはするだろう、だが彼女の様子はそれだけとは
思えなかった。彼女が、かわいそうとか、困っている人がいるという
単純な善意から助けたのなら、『憐みや侮蔑的』な表情を俺に
向けるはずはないだろう。もっと優しく接したはずだ。
彼女は俺がなぜそんなことを聞いたのか考え込んでいるようだった。
「なぜそんなことを聞く?」
彼女は心の底から理解できないとばかりにいぶかしんだ表情を向けてきた。
「困っている人がいるから、困っている人を助ける。当然のことじゃないか。」
おそらく本音だろう。純粋無垢な正義。それゆえなぜ彼女が
俺にあんなことを言ったのか、率直に聞いてみた。
「この世界に友人がいた。だがそいつは草原でスライム相手に死んだ。」
そう言葉を詰まらせると彼女は続けた。
「私もレベルやステータスを上げて先に進むことも考えた。
だがそれが何になる。」
「自分自身で工夫し努力し先に進むものに、強くなり高みに登れるものに
真の意味で助けなど必要ない。」
「私の力など必要とされないだろう。だから、初期エリアに残り
殻のついたひよこを助けて回っている。」
草原に出かけた初心冒険者が簡単に死に、2度と戻らないことが多く
そういう人を助けるために彼女はここを動かず、初心者を導いているのだ。
俺が落ち着いてきたのを見て、彼女は怒り心頭といった様子で
俺を批判してきた。
「それにしてもお前弱すぎるぞ。何を考えているんだ。」
俺があまりにも弱いので初期の職業を考えなしで選んだ子供だと思っているようだ。
回復役のヒーラーや召喚士の単独戦闘など無謀だ。常識だろう。
彼女は吐き捨てた。
彼女は基礎的なことを教えるためにうんざりしながらこう言葉を紡いだ。
「こういう場合、攻撃力が重要だ。火力だ火力、そして魔法より物理だ。
ここいらの雑魚は魔法なんて使ってこない戦士系ならまず余裕だ。」
「それにスライムは見るからに打撃耐性がある。斬るか刺すだろう
フライパンで殴るあほを見たのは初めてだ。」
彼女は軽く絶句しているようだった。
「テイマーなら多勢に無勢でモンスターをぼこれると考えてました。」
「テイマーはペットをゲージにしまって物理系や魔法系とソロでも
状況に合わせて戦えると思ってました。」
浅はかな考えですみませんと付け加える。
「まぁ、確かに言っていることは間違いではない。
ゲーム終盤のエンドコンテンツで最強職はテイマーだろう。」
そうですよね、と俺に同意してくれた彼女に笑顔を向けると、
冷淡にこう放った。
「だがそれは、ペットのスキルやレベル上げに廃人じみた努力が
あってこそだ。将来を考えるならそれなりの覚悟をしておくんだな。」
何かを言い忘れている気がすると言い出した彼女は考え込んでしばらくすると
こう言った。
「自己紹介がまだだったな。『竜騎士』の『露原 樹(つゆはら いつき)』
よろしくな。」
そういうと、俺の手を握り助け起こそうとしてくれた。
だけど俺は薬草の効果で肉体的なダメージは回復していたが
精神的に無気力状態で、腰が抜けて立てなかった。
顔から火が出るほど恥ずかしかったが、それをストレートに言うのは
憚られた。俺が立たずに漏らしたものを始末していると、
まったく気がつかない様子で俺の横に腰を下ろすとポツリとつぶやいた。
「スタミナを回復しないとな。」
俺が立ち上がるまで、そばに座り続けていた。
そいつ、『露原いつき』は俺が人生で初めて『親友』と呼べる存在だった。
第6話
副官ピレスは重要な情報を持ち帰った
功績をたたえられ、将軍となった。
叙勲さえされた。
モンスターなど存在しないと、
真実を報告した偵察部隊は
全員処刑された。
ピレスは精神的に追い詰められていた。
そもそも、モンスターなどいなかったのだ。
いったいどこから沸いて出てきたのだろうか。
自分の空想が生み出した幻影にも思える。
それに、スライムが怖くて怖くて仕方がない。
木陰に見えるスライムや、ペットのスライムが
ピンクの悪魔の仲間に見える。
あの時のことを考えるだけで、意識が戻る
吐き気が止まらない。
家族もそんな様子を心配しているようだ。
このまま、軍隊など辞めてしまいたい。
殺すのも、殺されるのも嫌だ。
今までは意識していなかったが、
凄惨で、残酷な3000人以上の死を
見せられて、平然としているものはいないだろう。
そんなピレスに ピンク色の悪魔がささやく。
「うぁぁああ。」
そういうと、近隣の住民のペット
青色のスライムから一目散に逃げ出していた。
「ぴぎー、ぴぐー、ぴぎー。」
将軍ピレスは非常に有名人なようだ。
家はすぐに見つかった。
おれは、ピレスの娘にスラリンを紹介した。
「かゎいぃ~。」
ピレスの娘はスラリンとじゃれ付いている。
「スラ・りん♪」
そんな様子を邸宅の窓から見たピレス将軍は
真っ青な顔で、固まって見ていた。
やがて娘の危機だと思ったのか、大急ぎで駆けつけてきた。
「あなたは、エスタ軍のピレス将軍ですね。」
「ひぃぃいぃ、なんでもします、なんでもしますから
どうか家族には!お助けください、スライム様。」
そう言うと、娘の前でひれ伏して泣き出した。
そして、落ち着いたところで彼の家に入った。
彼の子供がスラリンをなでなですると、
また、顔面蒼白になり、子供を引き剥がした。
「わたくしは この王都の司令官をさせていただいている
あわれな ピレスというものです。」
笑顔のスラリンが動くたびにびくびくしている。
こいつは本当に自分を哀れと思っているのだろう。
ものすごくそれが感じ取れた。
「かの英雄の竜騎士様とはどういうご関係ですか。」
おれはどういう嘘をつこうかと考えていた。
「このあたりには、特殊なスライムが生まれるんだ。
それが害をなさないように捕まえているんだ。
強いからテイムすればボディーガードになるからな。」
おれは適当な嘘を並べた。
「ぉお、竜騎士様はあなた様方の御仲間なのですね。」
ピレスは得心いったようにうなずく。
「竜騎士に蘇生魔法をかけたいんだ。」
そういうとおれは、極竜に吐き出させたやや消化された
竜騎士の頭部を見せた。
「おぉおぇええぇ、」ピレスは竜騎士の頭部と
スラリンの間に視線を往復させると、
いきなり、ゲーゲー ゲロを吐き出した。
「すみません、すみません。」
そこいらの小間使いにしか見えない、
将軍閣下はおとなしくお願いを聞いてくれた。
それは、国葬だった。
帝国兵の大半はモンスターに襲われたとき
混乱の極みにあり、誰が竜騎士を殺したかなど
遥か上空であったこともあり、知らなかった。
ただ、エスカ帝国のために命をかけて
奮戦したことを称えているのだ。
ピレス将軍は高らかに群集に叫び、呼びかけた。
「ここに勇者がいた。いや今もいる。彼は
われらがエスタの民80万の軍勢が全滅の危機に
瀕した時、強大な竜に乗り、やってきた救い手だ。」
「聖なる山から降りてこられた、大賢者様が
勇者様を復活させる。」
その言葉と同時に白魔道士(スラリン)は蘇生魔法をかけた。
ゆっくりとそよ風にそよぐように、魔法のカーテンが
竜騎士の体を包み、そして復活した。
「ぉおー、奇跡だ。奇跡が起きた。」
「勇者様と大賢者様に神の祝福を!」
群集は興奮の極致であった。
「ぶち殺してやる。」
TPOをわきまえない馬鹿は、生きていることを理解すると
憤懣やるせない様子で、俺に飛び掛ってきた。
ピレス将軍が、竜騎士が復活した直後で、
混乱していると群集に伝え、俺らは城に入った。
「お前は 俺に殺されて、復讐するために殺そうとしているのか。」
そうおれは問うた。
竜騎士は言っていることの意味と意義がわかったらしく
おとなしく黙り込んだ。俺はやめなかった、
「セレスティアの人々は犯されて、殺されて、蹂躙されている。
今のお前が取ろうとした行為をしているだけだ。少なくともな、」
竜騎士は言い返すことができずにいた。
「しかもだ、お前は殺された意趣返しに俺を殺そうとした。」
「セレスティアの人々は殺された復讐ではなく、
これ以上、殺されないために戦っている。さて言うことはあるか。」
そういうと竜騎士はぽつりと言った。
「ない。」
これでこいつも、俺が人を殺しても絡んでは来ないだろう。
もちろん俺も、「正義の味方」を自称し、「正義の味方」を自認している。
だが悪をなす人間に、ガンジーのように非暴力では生きる気はない。
もちろんこの世界の人間は俺を殺すなど不可能だ。
「殺すやつは殺される覚悟が必要、殺すから殺されるのだ。」
当然、俺のやっていることは理不尽だ。
そんなことはわかっている。
そう言ってやると、竜騎士のやつは槍を俺につきたてた。
おれは死んだ。
直後に「スラリン」に復活させてもらうと。やつはこういった。
「どうだ殺されるのは痛いだろう。」
「ドラキチにやられた私はもっと痛いんだ。」
露原はポツリとそういうと酒場に消えた。
第7話
英島がふと気が付いたのだが、俺たちは生産者として登録はしているが、
冒険者として登録していないのだった。ラグスブルグの街で
冒険者登録をしようとしたのだが、ビギニングビレッジでのみ
新規登録をしているらしく、ここではできないらしい。
ひたすら薬草を採集し続けているところに、突然、英島がもうけ話を
持ってきたのだから当然だ。
「私も同行してよろしいのでしょうか?」
亡国の姫エステルは戸惑いながら俺に質問してきた。
「あんたが生きている限り、エスタ帝国本国から援軍が送られてくる。
ピレス将軍が王女を連行中にモンスターの群れの餌食になったと
偽装しているんだ。あんたが居たらまずいだろう。」
「俺はともかく、露原はあんたを置き去りにできるタイプじゃないからな。」
ドラキチにリュックのような籠を装備させて、空路で移動できるようにした。
もともとこの街に来る際もドラキチに乗ってきたが、超人3人と
かよわい『お姫様』では同じ扱いはできない。
「まるでランドセルを背負う小学生だな。」
そう、英島が発言すると、それは私のことかと露原は恥ずかしがっている。
準備が整ったので出発すると間もなく、上空から何かが舞い降りてきた。
「!!!!!」お姫様が叫んだ。
「我が名はバフォメット。至高にして最強の竜王。」
自称でなく本物の竜王は露原に呼びかけた。
「拙者はドラキチ。エンシェント種のウルティメットドラゴンでござる。
何の用件でござるか。」
「このあたりで竜騎士がエスタ軍を救ったと聞いているが貴公か?」
露原はドラキチに言っていると思っていたのか無視していた。
「そこの雑魚の竜族に聞いているのではない。貴様だ。御者。」
露原でも聞いたことがあるくらい有名な竜バフォメットだが、
正直、年老いた弱い竜にしか見えない。
「うん、結果的には助けたよ。」
「事情を聴きたいのだが同行してくれまいか?」
「無理、用事があるから。また今度ね。」
「小娘、舐めているのか。」
竜王は怒りをあらわにした。
「じゃあ、リュック背負った状態のドラキチを叩き落したら
同行してあげる。」
竜王バフォメットは種族的には確かに強い。ドラキチは極竜種。
確かに強いが雑魚で最強の竜族だ。まともに戦って勝てないはずだ。
だが竜王は見落としていた。ここにいるドラキチは数十万の同胞を
喰らってきた化け物じみた経験をした個体であることを。
気が付いてた時には竜王バフォメットは海に滑落していた。
ドラキチはすでに水平線の彼方だ。
「化け物か!」バフォメットの意識は途絶えた。
ラグスブルグからビギニングビレッジは惑星の正反対の位置にある。
竜王というちょっとした邪魔は入ったが、13時間ほどで到着した。
「さて、冒険者ギルドに登録に行くか。」
お姫様は疲れ切っているようで、それを察した、英島が「とりあえず休憩」
と宿屋に向かうことにした。
「俺はテイマー、露原が竜騎士、お姫様はどうする?無職?」
「そんなわけないだろ。」と英島が真剣に言う。
「お姫様、得意な技とか魔法あるの?」
「回復魔法ならある程度はできます。」
「このパーティー、ヒーラーいなかったしちょうどいいや。入る?」
スラリンの存在は伏せて置いた。
「私たちに付いてきたらすぐに熟練になるよ。」
露原がやさしく言った。
当然、ウルティメットドラゴンを狩り殺す作業だ。
翌日、朝飯をみんなで食っていると、英島が背乗りのごとく
お姫様の身分証明書を持ってきた。今日からお姫様は
『大仏 実乃梨』だ。
「よろしく、おさらぎさん。」
冒険者ギルドは、村の役場の窓口に過ぎなかった。
本来ここは冒険者見習いや商人見習い、戦士、盗賊
など基本職を選ぶ場所なので、お姫様以外はオーバースペックすぎた。
露原は窓口に行き、堂々とした態度で 「竜騎士」を宣言した。
しかし、2次職である竜騎士は次の街ビギニングブルグに行かないと
なれないので、公式に槍戦士となった。周囲にあざ笑われ、頭に来た露原は
俺にドラキチを出してくれと言われたがさすがにそれは断った。
大仏は白魔法使いを選択した。ちなみに白魔法使いは
どんなにレベルアップしても蘇生できたりはしない。
おれはそのまま、テイマーになるつもりだったが、
テイマーは職業ではなく、テイムスキルを持っている人のことだと判明した。
つまりおれは今まで、『無職』だったというわけだ。
単純作業の好きなおれは、どうも魔法は向いてない気がするので
戦士を選択した。2次職でタンクに転職するつもりだ。
正直タンクは一番苦しい職業だ。削られるため装備の修理費が半端ない。
金銭的に豊かなのでそこのところは問題ないのだが。
受け付けのお姉さんは笑顔でこう言った。
米原さんはレベル1ですね。
「レベル5じゃないんですか?」
「生産者レベルは5ですが冒険者レベルは1です。
露原さんはレベル15、英島さんはレベル25です。」
おさらぎは当然、冒険者レベル1だ。
冒険者レベルとは職業レベルのことであり、これが上がらないと
上位職に就けない。これはモンスターを倒して経験値を得ることでは上がらず
冒険者ギルドの仕事をコツコツこなすことで上がるらしい。
おれは冒険者ギルドの掲示板を見ながら仕事を探していた。
①魔法が封印されたため生活ができません。
②山賊を討伐してください。
③呪いの剣を封印してください。
④マグロを冷凍して運搬してください。
④のマグロの冷凍運搬の報酬にある。「小さい種」というのが気になって
受付嬢に聞いてみると、食肉用のモンスターを育てて大きくするときに
「大きい種」というものを使うらしい。ずいぶん前に開発されたらしい。
ついでにできたのが「小さい種」でネコなどの
ペットを小さくするために使うらしい。
ドラキチは移動用で大きくてもいいのだが、最大戦力である
古代種の極竜を普段呼び出せないのは困る。
俺はまずこれを受けることにした。
新しい極竜あたりに大量に使ってスライムサイズにしてみよう。
俺は受付嬢にこの依頼を受けたいと伝えた。
「単なる運搬作業で、Fランクの人でも大丈夫ですよ。
1回で1匹運ぶことになります、マグロは大きいので大変ですよ。
マルセポートからビギニングブルグまで直線距離で300キロメートルです。
良い馬と馬車がないと大変ですよ。
報酬は金貨2枚と小さい種1つになります。」
1回でギルドポイント50 繰り返し受けることができるらしく
次のレベルまで5000ポイント。2000匹くらいしてやろうと思う。
俺たち4人は南にあるマルセポートに到着すると、
漁業組合に掛け合いに行った。
「1回で2000匹運ぶから小さい種2000個をくれ。金貨は不要だ。」
「本気で言っているのか?マグロはスタックできないアイテムだから
ストレージには入らないぞ。」
「こいつらがいる。」そういってドラキチたち4匹を紹介した。
「うわぁぁぁ!なんだ、とんでもないドラゴンじゃないか。」
漁業組合の長は腰を抜かしていた。
「今日中に運んで見せる。500匹づつ積み込んでくれ。」
「わかった。今日中に届けるなら、小さい種3000個払おう。」
「契約成立だな。」
4匹のドラゴンは2000匹のマグロを背中の籠に積むと、
ビギニングブルグに向かった。
道中は順調で20分ほどで到着した。
マグロ2000匹を荷下ろしするのに時間がかかったが
1時間ほどで済んだ。
「受取証だ。ごくろうさん。それにしてもすごいドラゴンだな。」
無事受取証をもらった俺たちはマルセポートに帰ってきた。
「ぉお、早いな。1時間ほどじゃないか。」
時速1000キロで空を飛んできたというと唖然としていた。
俺たちは無事に小さい種3000個を手に入れた。
8話
冒険者ギルドに1回50ポイントのマグロ2000匹のポイントを
もらいに行った。合計10万ポイント、5000でE 15000でD
35000でC 75000でB 155000でA らしい。
俺たちのパーティーは無事 Bランクになった。冒険レベルは100だ。
亡国の姫を鍛えるため、そしてウルティメットドラゴンを新たにテイムするため
俺たちは例の場所に向かった。
おさらぎも怖がっていたが、ドラキチに乗りなれているせいか、
案外普通だった。俺のように初対面で腰砕けということはなかった。
30日狩りを行うと、おさらぎの総戦闘値が3億ほどになったので最後の修行に
ソロで狩ってもらうことにした。ウルティメットドラゴンの総戦闘値は
1億以下、ドラキチの初期値が1億だったのだ。当然勝つはずだ。
「聖なる光!光のカーテン!光の柱。」思った通り戦闘の技術が
ゼロだった。1時間ほどで死亡してしまったので、そのドラゴンをテイムして
おさらぎをスラリンが完全蘇生させた。
「うゎっ!びっくりしました。」驚いた様子で目を覚ます。俺も死んだことがあるが
生き返るのはけっこう爽快だ。ヒットポイントやバッドステータスが
全回復するからだろう。
テイムしたドラゴンのステータスを50億程度まで引き上げるため
さらにウルティメットドラゴンを狩り続け更に60日が過ぎた。
育てたドラゴンに小さい種を2000個食べさせると人間より
少し大きいくらいになった。俺はこれでもいいかと思ったが
女性陣の要望により小さい種ぜんぶ食べさせると、
全長7センチくらいになってしまった。外見は悪くないので
それなりにかわいい。名前はそのまま「ミニドラ」と名前を付けた。
修行に疲れた俺たちは、冒険者ギルドを訪ねていた。
『呪いの剣を封印してください』を受けることにした。
もらえる冒険者ポイントは6万、失敗したパーティーが多く
難易度はBだが、用心したほうがいいだろう。
「なぜこんな依頼を受けたんだ?」
英島が聞いてくる。
「呪いの剣はおそらくモンスターだ、テイムすれば剣の修行をせずに
強くなれる。一応おれは 戦士だからな。」
場所は闘技場、それなりに強い戦士がいたらしいのだが
その『呪いの剣』を入手してからは天下無双、だが痛みも感じず
狂ったように戦う姿は操り人形のようだという。
闘技場の管理人に挨拶をし、地下の牢獄へ向かった。
太い鎖につながれた屈強な大男が、薄く輝く片手剣を持って
眠っていた。
「こちらでございます。この男の寿命がもうわずか、
死ねば『呪いの剣』は新たな宿主を探して解き放たれるでしょう。」
「私はテイマーです。魔物を使役するのが仕事です。
無事この『呪いの剣』を無害化して見せます。」
そういうとおれは大男から『呪いの剣』を奪い取った。
すると、頭の中に声が聞こえる。
何を言っているのかわからないが、こちらを操ろうとしているようだ。
全状態異常耐性カンストの俺に効果があるはずはないが。
「フム、1割程度か。」
俺は自分の着ているドラゴンローブの龍燐に呪いの剣を叩きつけた。
手加減しているとはいえヒットポイントが2割程度しか減っていないようだ。
「ぎゃあ~、何をする。」
呪いの剣は叫ぶとおれから逃げ出そうとした。
「俺は戦いたいだけだ。千年前、大陸一の剣士だったおれは、死ぬときに
剣に身を宿した。この剣はオリハルコンだぞ。
どうやってこんなダメージを与えたんだ。」
俺はそいつを無視すると、龍燐でこすりまくりヒットポイントを1割以下にして
テイムした。
「じゃあ、闘技場の人に心からの謝罪をしろ。」
俺はペットになった呪いの剣に命令した。
「我が主よ、御心のままに。」
そういうと呪いの剣は、
「多くの人を自分の願望で殺して申し訳ない。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
と謝っていた。
おれ以外に渡ると害をなすので、契約通り、呪いの剣を
譲り受けた。
闘技場側は、剣を封印する生け贄を探していただけだったので
恐怖に震えていたが、無事問題は解決した。
冒険者ギルドに行き、報告するとおれたちはレベル160の
Aランク冒険者となった。
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