RPG009(1人の勇者と8人のペット)ペットはボコってHP1割以下にしてテイム
初書 ミタ
第1話
RPG009
第1話
まず街に着いたおれは生産者ギルドに行って、『採集スキル』と『調理スキル」
を取得した。狩りに行くのかと思いきや、主要な仕事は『薬草採集』だ。
「たっかいなー、とても買えないよ。」
マーケットの掲示板を見た露原はそう言うと俺と一緒に
薬草採集に出かける。
俺は早くレベルを上げて強くなりたいのだが、
露原は収入重視のようだ。
「薬草採取してもレベル上がらないし、飽きてくるんだけど・・・」
俺は連日の薬草採取にうんざりしていた。
「お前はまた痛い思いをしたいのか?宿屋1泊10金貨だぞ。
スライムはドロップアイテムないし、1匹=1銅貨だ。
どうやって暮らしていくんだ!」
俺と露原は、マーケットの掲示を見て
ウィンドウショッピングをしている。
高レベルのプレイヤーがいらなくなった装備を
投げ売りしていたら安く購入するため、毎日通っている。
この世界にはNPCという存在はなく、
職人が生産した物品がマーケットに並ぶ。
「お前のその服装はどう見ても、乞食だ。
一緒にいると私まで恥ずかしい。」
露原はそう言って俺から少し離れて前方を歩いていく。
俺は露原とパーティーを組むことになった。
助けた人間が翌日スライムに殺されていたら目覚めが悪いらしい。
しかし、ゲームだというのにリアルであり、残酷だ。
いわゆる、『スタグフレーション』というやつだ。
スライム1匹が落とすのが銅貨1枚、宿屋に1泊が金貨10枚だ。
この世界は中世のヨーロッパをモデルにしたものにした世界観らしく
金貨1枚が銀貨12枚、銅貨144枚に相当する。
1人が宿屋1泊するのにスライム1440匹、
これはあまりに無茶苦茶だ。
高レベルプレイヤーが高レベルのモンスターを乱獲し、
貨幣が暴落しまくったせいだ。
中央銀行がお金を刷りまくってハイパーインフレになるよりもひどい状況だ。
初心者ゾーンに留まる俺らのパーティーはスライムなど狩っていては徒労だ。
今は様々な薬草を採集し、マーケットで売っている。
薬草1枚が金貨1枚だ。
薬草自体は固定値の回復なので役には立たないが、
薬草から作られるポーションはパーセンテージ回復なので
上級プレイヤーが頻繁に購入する。
彼女も物価高騰で初心者の救済行為が難しくなってきているのは
理解しているらしく、街の外で野宿をしながら悩んでいた。
しかし、日々の努力は実り、俺はレベル5になっていた。
スライムを狩って死にかけるという体験もしなくなった。
もちろん、俺が生きていられるのは露原のおかげだ。
俺一人ならとっくに草原で野垂れ死にしているだろう。
ある日、いつものように薬草を採集していると、
俺の持っていた卵からピンク色のスライムが出てきた。
卵が孵ったようだ。
レベルはまだ1だがパーティーが2人と1匹になるのは助かる。
俺はピンク色のスライムに『スラリン』という名前を付けた。
スキルに回復魔法を所有していた。
どうやら、薬草採集の経験値で卵を孵したためだろう。
露原は名前に不満だったようだが、俺のペットなので
強引に押し通した。ちなみに露原の銅の槍の名前は『ゲイブルグ』だ。
スラリンの感覚は調教師である俺と共有されるようだ。
スラリンはムスメスライムのようで、縦横10センチくらいの
肉まんのような形だ。非常にかわいい。
露原はぬいぐるみのように毎日抱いて寝ている。
始まりの村、正式には『ビギニングビレッジ』のメイン通りを歩いていると
真っ黒な姿をした、一見して黒魔導士と分かる人物に声をかけられた。
ドスの利いた声で話しかけてきているが、おそらく女性だろう。
「そこのキミ、珍しいものを連れているね。」
突然話しかけられて、動揺するおれを横目に、
露原は「こいつはテイマーなんだ。」と返答していた。
「ほう。良ければ一緒に食事でもしないか。」
露原は怪しげな人物を見るように訝しんでいた。
「まあ、ただ飯が食えるなら良いんじゃないか?」
どうやら酒場に来てほしいようだ。ただ飯が食えるなら
たとえ火の中水の中だ。喜んでついていくことにした。
「おいひい~、久しぶりの肉だ。」
そういうと俺と露原は羊の肉にかぶりついていた。
未成年 俺、米原 和仁(13歳)、露原いつき(10歳)
当然ビールは飲めない。
飲むと毒耐性がついて、最大HPが上がるらしいのだが
どうやら薬草で回復しつつやるらしい。
俺たちが空腹を満たし、一服すると食事をおごってくれている『ぬし』
『英島 豊』がおもむろに尋ねてきた。
「君、調教師?モンスターを仲間にできるの?」
そう聞いてきたのは女性である。『ゆたか』ではなく
『とよ』と読むのだ。年齢は20歳前後だろう。
「はい、まあ。」
俺は自分の所有しているペットが
モンスターと呼べるかは自信がゼロだったが、一応同意しておいた。
そのほうが話がスムーズにいくだろう。
「へえ、どんなモンスターをテイムしたの?」
豊さんは俺の従えているモンスターを知りたいようだった。
「話をする前にここで出してくれない?」
「こちらは回復魔法を使用できるスライム 『スラリン』です。」
唯一のペット『スラリン』を見て、英島さんは興味深そうだった。
「回復魔法?それはレアだな。本当にレアだ。」
回復魔法を持っているペットというのは見たことが無いらしく
マーケットで売り飛ばせば大金になるといわれたが、スラリンは
俺の嫁なので丁重にお断りした。
「レベル15とレベル5か、かなり不安だな。あんたみたいなの
雇うの嫌だけど、調教師って稀少だからね。」
稀少と言われおれは問い返していた。
「うん、この世界では簡単に転職できるシステムはないし、たいていは火力が出せて、
ソロでも戦える戦士系や魔術師系がほとんど、パーティーって、
モンスターの敵意を引き受けて盾になって見方を守る『タンク』、
モンスターにダメージを与えて倒す『アタッカー』
敵にデバフ、味方にバフをかけて補助する『バッファー』
傷ついた見方を癒す『ヒーラー』で構成されているけど、
『テイマー』ってどれにも当てはまらない。」
役に立たないといわれてしょんぼりするおれに英島は言った。
「まあ、生産職の鍛冶屋や縫製屋とおなじでペット屋だと思えばいいでしょ。
調教師ってコストパフォーマンスがいいだけで、お金にならないからね。」
「あなたたち、ウルティメットドラゴンって聞いたことある?」
「いえ、ないです。」2人そろって首を振った。
「最強の雑魚でね、レベルは250台、ヒットポイントは80万以上
体長は最小でも50メートル以上、ジャンボジェットみたいな大きさの
巨大な竜。」
「それが僕らとどう関係あるのですか?もしかして倒すとか?」
英島豊は軽く首を横に振るとこう言った。
「倒すんじゃあなく、乱獲する。何万匹と狩り殺す。」
「いやいや、無理でしょう。」
こいつ頭おかしいのかマジで、と思いつつ話を聞いた。
「まあ、そいつを倒した奴はまだ誰もいなくて、普通に動き回って
リポップするらしいから、種類的には雑魚だと思う。
と言っても普通に戦ったらラスボスより少し弱いくらいでしょうね。」
英島はビールをあおると興奮気味に魅力について説明しだした。
「まず膨大な経験値が入る。超レアアイテムを落とす可能性が高い。
金貨も相当入るはず。そしてもしテイムできるなら君は最強のテイマーになれる。」
「最強のテイマーには興味ありますが、どうやって倒すんですか?」
英島は最近ウルティメットドラゴンの生息域に行ったらしく、
「私はかなり修行して。中級魔法を取得したから
一度威力を試そうと思って、ウルティメットドラゴンは氷結魔法使うから
弱点は火炎属性かなと思って攻撃したら、真逆で氷結属性が弱点だった。」
「えっ、戦ったんですか?」おれはこいつ頭おかしい、
勇敢な馬鹿か、賢い自殺志願者だと思った。
「それはすごいですが、どうやって倒すのですか?乱獲以前に
1匹も倒すことできないと思いますよ。」
俺は英島さんの言っている意味が分からなかったし、
俺とどう関係あるかわからなかった。
「そこで君の出番よ。」英島はビールを飲み切ると言った。
「どういうことですか?」俺は意味が分からなくて質問しかできなかった。
「この町の近くの森に、魔法常時反射の精霊『カーバンクル』が
住みついているわ。あんたがスライム10匹出した状態で魔法反射すれば
ウルティメットドラゴン自身の最上級氷魔法が10倍になって反射する。
大ダメージを与えられるはずよ。」
英島は興奮気味に語った。
あまりの荒唐無稽さに俺があきれていると露原が立ち上がりこう叫んだ。
「よし、やろう。」
金欠で元気のない露原が珍しくやる気満々だ。
「おい、どうした。お前も頭がおかしくなったのか?」
俺はそう声をかけた。
「私は竜騎士だ。そうだろう!乗るべき竜を探すのは当然だ。
和樹、ウルティメットドラゴンをテイムしてくれ!」
露原は目をらんらんと輝かせ、謎の雄たけびを上げた。
初心者で浅学のみであるおれでも、明らかに不可能だと思えるし、
実在の確認されていない報酬のために命を懸ける気はない。
しかし露原はものすごく乗り気だ。
命の恩人で、今まで生活の面倒を見てもらっていたのだ、
断ることは難しいだろう。
露原イツキが『槍戦士ではなく竜騎士』だからだ。
「なぜ、そこまでドラゴンにこだわるんだ!」
「私は生まれおちた時、竜騎士という職業だった。
だが相棒であるはずの竜はどこにもいなかった!」
ああ、騎乗用のドラゴンが付いてくると思ったのですね。
「しかし、ドラキチは親に売り払われてしまった!」
ああ、騎乗用のドラゴンはいたのですね。売られたのですか。
それは悲しいですね。
「すみません、質問をいいですか?英島さん。」
「あぃ、いいよ。なんだい?」
「カーバンクルってすごく便利そうに見えるのですが、今まで誰も
テイムしなかったのはなぜですか?」
「聞いた話では、この世界にテイマーが現れて生き残ったのは
君を含めて100人もいない。何もないところからスタートするんだ
街まで来るのが難しい。この街も経験を積んだものはすぐに
次の街に行くから初心者以外は過疎気味だしな。
わたしもウルティメットドラゴンの生息域がここでなければ、
とっくにおさらばしていたよ。」
「おっと話がそれたな。知っている通りテイムするには、対象を
最大ヒットポイントの1割以下にしなければならない。
だが、カーバンクルの最大ヒットポイントは1だ。」
ビールのお代わりをもらうと英島は続けた。
「先駆者は、一時的に最大HPを増加させるポーションや
毒や回復、混乱、睡眠、誘惑、いろいろやったが、成功しなかった。
そもそも、我々のように明確な目標『ウルティメットドラゴンを倒す。」
などと思っていないため、全力傾注する理由もない。
すぐにあきらめてしまったらしい。」
英島さんの考えた方法は、カーバンクルの最大HPを毒を飲ませて
回復させて最大HPを十一以上にして死なないようにしてから、
テイムするというものだ。
その日俺たちは、『カーバンクル』の住むという近くの森に向かった。
第2話
「綺麗な森ね。」
そう言った露原の顔は険しかった。
森というものは雑草が生い茂り、無秩序に木々が乱立する場所なのだ。
つまり、『綺麗な』ということは何者かが管理しているということだ。
それなりに用心して先に進むと湿っぽい洞窟のような穴が
ぽっかりと開いていた。
大きな石がその穴をふさいでいたので、動かそうとしたが
おれたちの力では動きそうもない。
その石の隙間から姿を見せた生物がいた。
生物といってよいかわからないが、それがおれたちの求めていた
精霊、『カーバンクル』だった。
「豊さん、こいつらって何匹くらいいるのですか?」
数が少ないのなら簡単に殺すわけにはいかない。
「うーん、ゴキブリ並みの繁殖力だよ。小石が当たっただけで
死ぬからね。増えるのはすごく早い。」
俺はダメージを与えずにどう捕獲しようか悩んでいた。
なにしろ HP1 だ。
睡眠魔法は魔法なので反射するだろうし、麻酔針とかを
打ち込むと即死しそうだ。
だが、カーバンクルは生ける化石というくらいで、
だれも興味を示さなかったので、人間に対する警戒心は
ゼロだ。まだ、子供のようで少しかわいそうだが
ペットになれば長生きできる。
そう思い、俺たちが近づいた時だった、でかい岩が動き出した。
『ストーンゴーレム』だ。こいつは体力と物理防御が高く、
英島さんの魔法でないと倒せないだろう。
「肩に乗っている、カーバンクルが邪魔で魔法が撃てない。」
英島さんはそう叫ぶと、
「何とかなるか?露原くん。」
英島はそう俺の相方に声をかけた。
即答で
「無理です。」という答えだ。
「カーバンクルがゴキブリ並みにいるのなら、
全部倒すのは無理。」
「米原くんは?どうにかなる。」
「スラリンは打撃耐性ありますが、ゴーレムはきついでしょうね。」
「あーーー、もっと単純に倒せると思いますよ。」
俺はそう言うと近くにある石を拾い上げて、無防備なカーバンクルに
投げつけた。カーバンクルは即死だった。
「スズメやハトだって石を投げつければ逃げますよ。」
俺が石を投げまくって、カーバンクルが逃げ惑っている。
「あんたえぐいわね」2人が声をそろえて言った。
カーバンクルの群れに石を投げつけまくってると怖がって
精霊カーバンクルはすべて逃げ出した。
中級範囲水魔法でゴーレム5体は瞬殺された。
これで森を手入れする存在がいなくなって、
野生の動物やモンスターがすみついたらカーバンクルたちは
かわいそうだなと思いつつ、俺は洞窟に閃光弾を投げ込んだ。
ウサギは恐怖を感じると精神ダメージで心臓が止まって
死ぬことがあるそうだが、カーバンクルにその心配はなかった。
眩しさで目がくらみ、その場ですくみあがっていたカーバンクルを
数匹、個別のかごに入れて俺たちは実験、いや検証を始めた。
この世界には、継続ダメージをもつ魔法がある。
そしてそれらは、たいてい割合ダメージだ。
最大ヒットポイントの10%を5回とかだ。
『徐々に回復』や『毒』がそういう類だ。
カーバンクルが全魔法反射を発動させるのは、
身を守るためであり、ダメージがある場合だ。
と仮定した。ヒットポイント『1』のカーバンクルの
毒ダメージは『0』か『1』か、これは賭けだ。
おれたちは、カーバンクルを優しく抱きかかえると、
軽い毒薬、『ポイズンビール』を飲ませてみた。
ダメージは『ゼロ』だった。それどころか、酔っ払ったように
カーバンクルはおかわりを要求してきた。
今度は薬草を食べさせてみる。すぐに結果は出ないが、
交代制の不眠不休で、毒と回復を繰り返した。
「きゅ、きゅ~。」
カーバンクルは苦しそうな声をあげている。
「すんません、だんな。」
「すんません、だんな。」
誰かいるのか?何かの聞き間違いか?そう思い
ふと視線を下げるとカーバンクルの声だった。
大阪のおっさんのような口調でカーバンクルが話しかけてきたのだ。
「お前ら人間の言葉を話せるのか?」
「旦那は言葉がわかるんですかい!こんな非道な拷問はやめてせい。」
今にも死にそうな顔で懇願してくる。
「旦那は、わいら カーバンクルをテイムしたいんですよね。
それならいい方法があります。」
俺は続く言葉を催促した。
「卵から育てれば簡単にテイムできます。」
「苦し紛れの嘘じゃないだろうな。」
俺は疑り深くカーバンクルを見た。
すると露原が言った。
「スラリンも卵から孵ったらペットになってたでしょ。
別にテイムしてなかったし。」
「それもそうだな。よしわかった。卵5つで手を打とう。」
「今から作ります。」
「しかし、いくら苦しいからって、我が子を売り渡すとわな。」
さすがの俺もあきれるくらいドライな精霊だった。
「買う側の我々が言っても説得力ゼロだな。」
英島は冷静にそう言った。
ちなみに、「カーバンクルの死体」は魔法を反射しない。
死体が反射するなら、盾や鎧の材料として乱獲され、
今頃、絶滅危惧種に指定されているだろう。
薬漬けにされたカーバンクルは、目には見えないが
精神的な部分で病んでいるようで、
ポーションを飲ませると「キュ、キューッ」などと鳴きながら、
膝の上に乗ってきた。
卵をもらった俺たちは草原に出てモンスターを狩ることにした。
今回は範囲魔法を持つ英島が居るので俺たちはついていくだけの楽な戦いだ。
200匹ほどゴブリンやオーガを狩っていると
カーバンクルの卵が孵った。全魔法反射の特性を持ったペットの
『カーバンクル』は見た目がリスっぽいので、『クレインズ』と命名し仲間にした。
飼い主の魔法は反射しないので、これから色々と
役に立ってくれそうだ。
ああ、『クレインズ』というのはこの群体の呼称で、
『クレインA』から『クレインE」までいる。
俺と露原はビギニングビレッジに一軒しかない安酒場にいた。
ビギニングビレッジに一軒しか酒場がないわけではなく、
安酒場は一軒しかない。ここだけだ。
当然飲み食いの代金など、野宿生活者の俺たちに払えるはずもなく
代金は最近仲間になった、あいつ持ちだ。
クレイン共はポイズンビールの魅力に取りつかれたのか、
浴びるほど飲んでいる。もちろん薬草も食べれば元気いっぱい。
最大ヒットポイントが増えるので虚弱体質のクレイン達には
推奨したいくらいだ。まあ、本物のビールもアルコールから発生する
アセトアルデヒドは毒物そのものだし、クレインが中毒になるのも仕方ないか。
しばらく時間を潰していると、依頼主であり新しい仲間である『英島 とよ』がやってきた。
かの英島女史はさっそく『極龍』こと、ウルティメットドラゴンを乱獲する気満々だ。
ちなみに俺のレベルは レベル五だ。レベルといってもスキルの平均値なので
よくあるレトロゲームのレベルとは違う。某オンラインゲームみたいなものだ。
英島が俺たちに約束した金額は半端なものではない。
失敗すれば破産状態、俺たちの仲間入りだ。
お金大好きな、英島にとってそれは死に等しいだろう。
この世界では、装備品に何か制限がかかっているということはなく
自由に装備可能だ、例えば『力20以上』とか『レベル50以上』
とか、『戦士職』などという条件はない。
ただ、戦士が杖を持ってもカッコ悪いし、杖は木製で攻撃力が低く
脆い。金属製のものは重いが丈夫だ。
そのため、高レベルの装備を揃えれば、それだけで即効で強くなる。
ドラゴンからは『龍燐』やドラゴンの皮『ドラゴンハイド』が獲れる。
うわさに聞く、龍燐の鎧やドラゴンローブの材料だ。
レベル30台の馬くらいの大きさのドラゴンの龍燐や竜皮でも非常に強く
稀少価値が高い。レベル255台のドラゴンの龍燐や竜皮が性能面で
どのくらいなのかは想像を絶する。
ウルティメットドラゴンの攻撃のうち、『ドラゴンブレス』や『咆哮』
『地鳴らし』は魔法扱いらしくすべて反射する。
頻度は多くないが直接攻撃は黒魔法士の英島が『暗闇魔法』で何とかするらしい。
どうしてもだめなら大量にいるスライムが犠牲になる計画だ。
だから逃げ回って、直接、殴られなければいいだけだ。
クレインの住んでいた森の奥に洞窟があったが、その先に縦穴があり、
上ったところにちょっとした平野があり、そこに目当ての
ウルティメットドラゴンがいる。素手で露原が縦穴を登っていき
上からロープを垂らしてきた。それを上って山の頂上を見上げる位置に来ると
それは見えた。想定はしていたが想像を超えていた。
具体的なイメージを持たずにやってきた俺たちはただ茫然とそれを見上げていた。
でかい、ものすごくでかい。ジャンボジェットは生物ではないので平気だが
腹を空かせてよだれを垂らす巨大な猛獣には、ただ、ただ、恐怖を感じた。
ウルティメットドラゴンはそのアギトを大きく開くとおれたちの頭上を越えて
ここから直線で100キロメートルは離れているであろう連なる山脈を
『かじったリンゴ』のように吹き飛ばした。
「どこが雑魚なんだ!ボスだろ」
俺は震える膝で座り込みそうになるのを抑え、じっと耐えていた。
英島はこんな光景を目にしてもなお、アイテムと金貨を大量に得るため
戦おうというのだ。ある意味、勇者の素質を持っている。
ものすごい度胸で感覚のずれたやつだ。
「おぃおい、こいつと遣り合うのか?」
露原はそういうと頭をポリポリと掻いていた。
こいつは、そういう部分は竜騎士らしく、ドラゴンには驚かない。
何せこいつはこれを乗り物として見ているようで、
自転車程度にしか思っていないのだろう。こいつも勇者の素養がある。
お前はレベル15の槍戦士スライム相手に無双できても、
スケルトンとは互角だろ、そう呟きながら、ペットのカーバンクルの
『クレインズちゃん』にすべての運命を託した。
戦闘に入ってすぐに黒魔導士の英島は『暗闇魔法』で
ウルティメットドラゴンの視界を奪った。
目の見えなくなったウルティメットドラゴンはその場で大きな尻尾を振り回し、
すさまじい音を立てて地面を踏み鳴らしていた。
足を踏ん張っていないとその場で倒れてしまうレベルだ。
こちら側は攻撃しても大したダメージを与えられないのは明白なので、
全員でウルティメットドラゴンが暴れまわるのを見物している状態だ。
攻撃してこないのを不思議に思ったのか、ウルティメットドラゴンが
話しかけてきた。
「我は竜王 名は無いがウルティメットドラゴンである。
弱き者よ。なにゆえ我に勝負を挑む。」
意外なことに会話をする知能はあるようで俺たちに話しかけてきた。
「ぷっ!竜王、竜王って何?あんた雑魚じゃん!」
英島は思わず噴きだしながらこう続けた、
「ねえあんた、ポップするってわかる?ボスモンスターは
ポップしないけど、あんたの変わりはいくらでも
沸いて出て来るんだよ。」
ウルティメットドラゴンは
自尊心を傷つけられたのだろう、猛り怒り狂っていた。
相手の力量もはかれるらしく、とても極龍に挑むような
パーティではない。どう見ても「ちんけな低レベルパーティー」
である。
おれは英島の発言に同意することはできなかった。
(そりゃそうだろ、どんな勇者や賢者でもこんなのに
けんか売らないよ。)
おれらのヒットポイント『30』とか
だぜ、このドラゴン、最大レベルならヒットポイント
100万超えるって聞くし、やばすぎるだろ。
「なあ、米原、テイムした場合、経験値とか入るのか?」
何気なく露原が聞いてきた。「入るよ、ドロップも金貨も
倒したときと同じ。」
「それならさ、こいつをテイムしない?モンスターって
会話するやつっていないでしょ。次、ポップするやつが
会話できるかわからないし。」
「なるほど、レアっぽいね。」
俺は深呼吸をしてウルティメットドラゴンに大声で話しかけた。
「私のしもべの暴言許していただきたい。」
内心は怖くて逃げたかったが今後の付き合いもあるだろうこう言った。
「この黒魔導士 英島豊は氷魔法には自信を持っており
勝負したいと申しています。もし私たちが勝利した暁には
仲間になっていただきたい。」
「よかろう、だが我が弱者に従うことはない!」
ウルティメットドラゴンはそう吼えるとゆっくりと動きを止め、
魔性の詠唱を始めた。聞いていた通りの最大級全体氷魔法だ。
周囲10キロメートルに巨大な球形の魔法陣が浮かび上がり、
具現化していった。
ウルティメットドラゴンは圧倒的戦力差からこちらの挑発にわざと乗った。
万が一にもこちらに勝機があるとは思っていないのだろう。
愚かな氷魔法勝負だ。10キロメートル以内にいれば確実に死ぬ。
おれはクレインを呼び出し、スライムの数を調整してその時を待った。
ドラゴンが即死せず、ヒットポイントが1割以下になるダメージを
与えるために。
「召喚・クレインA クレインB スライムA~Z」
ウルティメットドラゴンの最大級全体氷結魔法が放たれたのは
その直後だった。ウルティメットドラゴンの魔法は周囲10キロメートルを
氷漬けにしたが、俺らのパーティーに反射され
9割以上のヒットポイントを持っていかれ自身が氷の彫像と
成り果てていた。
第3話
「怖いくらいにうまくいったな。」
英島は自身の計画は完ぺきだったと自慢気に言った。
「それじゃ、次のが沸く前にこいつをテイムします。」
俺は話しかけた。
「おい竜王、負けを認めるな?」
そうおれが言うとウルティメットドラゴンは瞼を閉じた。
「テイムスキル発動」
そういうと同時にウルティメットドラゴンの氷の呪縛は解け
ペットとなった。その瞬間おれは体に力がみなぎるのを感じた。
俺が得た経験値は『30万EXP』、総戦闘値が『130』から
『15万』に上がった。戦闘系のスキルレベルもほとんどが上がり、
スラリンは中級回復魔法と中級状態回復魔法等を習得。戦闘値『22万』
スライムズは各々『20万』、『クレインズ』も各『12万』
に上がった。
テイムしたウルティメットドラゴンの戦闘値は『1億』程度のようだ。
エンシェント種でレアの部類だ。
露原は『30万EXP』を得て、総戦闘値『560』が『25万』に上がった。
英島は『30万EXP』を得て、総戦闘値『2300』が『22万』に上がった。
どうやらモンスターはレベル制で設定されているが、
テイムした後は、プレイヤーと同じく総戦闘値で計測されるようだ。
ウルティメットドラゴンはテイムと同時にヒットポイントなどは全快したようで
皆元気にしていた。
ウルティメットドラゴンは先ほどの威厳ある態度ではなく平身低頭といった感じだ。
極龍は頭部を深々と下げ、畏まっていた。
「これ乗っていい?」露原が聞いてきた。
「おい、ドラゴン。こいつをお前に乗せてくれ。」
極龍はおとなしいので、露原を首の付け根あたりに
乗せてみた。かねての約束通り『騎乗用ドラゴン』として
貸し出すことにした。その姿はジャンボジェットにまたがる子供で
少し滑稽だった。
「お前の名前は『ドラキチ』な。」露原はネーミングセンスゼロの
名前を極龍に付け、俺が正式に承認した。
「ありがとうな、マジありがとう!」
マジ泣きした露原は感じ入ったようだ。
よほど槍騎士と言われていたのが嫌だったらしい。
「ちょっとドラキチで他にウルティメットドラゴンが居ないか
探してくるよ。」そう言うと、露原は大空へ飛び立っていった。
テイムでもアイテムドロップはするようで
金貨10万枚が入手できた。龍燐とドラゴンハイドは殺さないと無理だ。
「みつけたよー。」ドラキチに乗った露原は戻ってきて報告してきた。
南20キロ1匹、東10キロに1匹、西15キロに1匹だよ。
「ドラキチに乗れば、すぐすぐ。」
俺はエンシェント種という表示に気が付き、
現在の3匹はテイムしたいと考えていた。
「なあ、モンスターも倒されずに長生きすると成長するんじゃないか?
その3匹はテイムして、リポップしたものから龍燐やドラゴンハイドを
採りたい。」
「オッケー。そのほうがいいと思う。」英島も同意した。
「いいよ、ドラキチみたいなのが増えるんだよね。」
「ああ、会話できるのは便利だしな。」
俺たちはドラキチに乗ると上空5000メートルまで舞い上がった。
「苦しい、苦しい、もっと低く。」
俺と英島は悶絶しながら恐怖を味わった。
極竜は4輪駆動並みの機動だった。
南のウルティメットドラゴンはドラキチより小柄の雌の龍だった。
ドラキチを盾にしつつ戦っていたが、クレインを召還していたのは正解だった。
南の極竜は火炎が弱点の最強火炎魔法持ちだった。
燃え尽きる直前に回復魔法をかけテイムした。
『レッド』と命名した。
東の極竜は『ブルー』、西の極竜『トラジロウ』と名前を付けた。
その後、100匹ほどウルティメットドラゴンを倒し、
おれもウルティメットドラゴンに対する恐怖や警戒心がほとんどなくなっていた。
ウルティメットドラゴンの狩りはライバルもおらず、完全に独占できた。
毎日10時間180日、休みなく狩り殺し続けた。
スラリンは総戦闘値30億の回復スライム、ノーペナルティーの
蘇生スキル持ちになっていた。どうやらテイムしたスライムは
回復スライムにはならず、初期の卵に薬草で得た経験値で孵化させたため
回復スライムになった、そしてラスボス級のモンスターを万単位で屠ったため
蘇生魔法を覚えようだ。
他のスライムも総戦闘値20億くらいで、100匹からなる軍隊のようだ。
ヒットポイント1の虚弱体質のクレインも総戦闘値12億で
最大ヒットポイントも50万を超えた。
テイムしたウルティメットドラゴンの4匹は
総戦闘値99億9999万9999、カンストだった。
最大ヒットポイントは1億で攻撃防御も最大、
まさしく空飛ぶ鋼鉄の戦艦だ。
おれはスキルがカンストしてしまったので、ウサギやネズミ
スズメ、アリやゴキブリなどを鍛え上げていた。
龍燐と竜皮は大量に入手でき、各9999個3人のストレージに入っている。
ゴールドは実に 金貨260億枚以上。
黒魔導士の英島は大喜びだ。
自然習得するスキル、いわゆるひらめくタイプのスキルは
全員がコンプリートしていた。
マーケットで色々購入して、アイテムも装備も非常に充実した
ものになっていた。
半年以上強敵と戦ったことで、連携は阿吽の呼吸、盟友と
呼べる仲間となった。まずラスボスにも負けない。最強だ。
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