青春のパラグライダー

 冬水涙さま著「青春のパラグライダー」が、五十七冊目の書評と相成りました。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882707376

 ではでは、今回も書評、参りましょう。


【あらすじ】

 梔子剛司は自分に自信が持てない。仲良しの幼馴染に頼りきりで、自分一人では何も決められない。変わりたい、でも変われない――そんな日々を、パラグライダーから見た景色が変えてくれた。ほんの少し芽生えた、変わる決意。しかしフライト中に大切な靴を落としてしまったことに気付く。友人からの贈り物で、自信を持つためのお守り。それを拾ってくれた少女は、にわかには信じがたい一言を放つのだった。「私が魔法使いだって言ったら、信じてくれますか?」


【魅力】

 いい話。読後感は達成感と少しの切なさとを織り混ぜた、まさに青春小説です。友情・努力・勝利・そして恋愛。これらの要素が絶妙に絡んで、王道の青春を描き出しています。展開に捻ったところはありませんが、一本道であるがゆえの読みやすさ、そして心理の掘り下げができたのだと思います。一筋縄ではいかない、ご都合主義ではないのもいいです。努力しても報われないこともある。それを知ってもなお努力を選ぶことが、主人公の成長をより魅力的にしているのだと感じました。


【改善点】

 心理と情景をリンクさせた描写を始め、小説としての形がしっかりとしたものだと思います。起承転結、納得できる展開、深く掘り下げられたキャラクターの心情。完成度に関して私が口を出すものではないと考えます。

 ここからは好みの問題になるので、ご意見が様々あるかと思いますが。強いて言えば、あとは場面の取捨選択になってしまうのかな、と。パラグライダーで飛ぶために座学を受けるシーンがありますが、座学の大変さを描くだけであれば、主人公の疲弊した様子を中心に描くだけでも足りそうに思えます。もちろん、キャノビーなどパラグライダー用語の勉強は後半にも出てくるので座学のすべてが不要というわけではないです。用語は物語に絡んでくるけれど、パラグライダーの歴史については文量に対して物語には関わらない。一例と捉えて頂ければと思いますが、物語に関わるのか、関わらないのか。それによって取捨選択できる知識、場面、シーンがあるのではないかと思いました。


【その他】

 この小説に出てくる、主人公の幼馴染に朋くんという子がいます。彼の心理がとても人間らしくて、私は共感しました。彼はこの物語において、決して美しい描き方をされていません。むしろ親しい人間との間に隠し持っている、見せたくない感情で固められたものとして描かれています。でもだからこそ人間らしく、私にも心当たりのある感情で、歯がゆいココロというものを痛感させられる子でした。人間を掘り下げた小説だからこそ見られた一面かな、と思います。

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