巡り廻る異世界!~冒険者稼業で日銭を稼ぎながら帰る方法を探しています~

 五十六冊目です。@yojeenaさま著「巡り廻る異世界!~冒険者稼業で日銭を稼ぎながら帰る方法を探しています~」を書評させて頂きます。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886076785


【あらすじ】

 大槻宗は死んだと思った。気がついたら見たこともない世界。目の前には空想上のモンスター。左腕を喰われ、出血多量で為す術もなく死ぬのでは?本気でそう思っていた。しかし、突如として現れた謎めいた少女によって一命をとりとめる。彼女から「借りた」左腕とともに、元の世界に帰るべく大槻宗は異世界を練り歩く。


【魅力】

 サクサクという爽快感。話自体はゆっくり、ウサギ狩りから順を追ってレベルアップしていくのが親切です。チートではなくクエストをこなしながら異世界で生活基盤を築いていくのが納得できるリアリティーでいいですね。アクの強いキャラクターにも囲まれていますし、主人公のツッコミもノリが良くてクセになります。今風の王道ライトノベルです。


【改善点】

 若年層に受けるライトノベル。活字を普段読まない方にもとっつきやすい、ライトな文体。「今風」な今作ですが、読みやすいぶん、掘り下げがもっとほしくなる部分も散見されます。

 たとえば、オオツキがウサギを捕獲するために殺すシーン。犯人もモノローグで吐露しているように、現代日本で生きる若者が素手で、生き物の首を絞めて、殺す。狩猟を経験している若者、はほぼいないでしょうから(いても少数派かと)、ショッキングな経験です。しかし、モノローグの重さに反してその描写は非常にあっさりとしています。このように心理描写と実際の描写に重さの乖離が見受けられるのです。「この重みを忘れない」と言うのであれば、それに相応しい、残酷なほど緻密な描写がほしくなるなあと読んでいて感じました。モノローグと目の前の現実のウエイトが等分くらいになると、読みやすく、でもしっかりと根を張った小説になるのではないでしょうか。


【その他】

 異世界転移すると、主人公の適応能力は気になるところですよね。私はどちらかというと、元の世界の常識を引きずりながら、異世界の世界に徐々に順応していくのが人間らしくて好きです。今回で言えばウサギを絞め殺すとか、生きるために目を背けてきたことをどれだけやれるのか。異世界で生きるというのはいわば壮大なジェネレーションギャップですから、そういった文化とか生活水準とか常識とか、個人的には気になります。

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