夢のゆりかご~ミステリー編~

 五十五冊目です。余談ですが雑談コーナーも次で最後となります。やっとここまで。しかし気を抜かずに誠心誠意で参りましょう。

 今回は月影 夏樹さま著「夢のゆりかご~ミステリー編~」を書評いたします。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885900974


【あらすじ】

 大学の心理学サークルの顧問を務めている高村香澄は、とある事件の資料を手にすることとなる。二十年前に世間の話題をかっさらった、ルティア夫妻による不妊治療に関する研究発表。子供に恵まれない者にとってそれは希望となる研究のはずだったが、現在は「事件」として記録に残されている。そこに横たわる「謎」を解明すべく、香澄は友人ジェニファーとともに調査に乗り出すこととなった。


【魅力】

 こちらは本来シリーズ物で、前作にあたる小説が存在します。が、あくまでも書評はこちらということでこちらのみでさせて頂きます。

 緻密な構成。鍵となる過去の研究やレポート、実験など、非常に設定が細かく作られています。ミステリーは推理を探偵役が朗々と述べることが花形ですが、そのためにも堅牢な謎は欲しいところ。今作は心理学にSFも取り入れており、一般常識に囚われない謎というのも魅力的です。想像の幅が広がりますね。


【改善点】

 ノベルゲームを読んでいるような感覚でした。以前も書評でそういったものを取り上げましたが、そちらと異なりこちらはビジュアルノベル寄りな印象を受けます。シナリオがあって、分岐点があって、キャラクターが得体の知れない不安のなか進んでいく。つくりが小説、よりもノベルゲーム、と感じたのはおそらく、完全なる部外者としてシナリオを追いかけていく読み方をしたせい、でしょうか。

 物語において、共感しやすいキャラクターとおくとより小説に入りやすい、と言います。ミステリーであるがゆえにできるだけ多くの情報を提供し、真相に迫ろう。そういった物語の意図を感じます。ですが本文の選択肢(一……や二……)や各キャラの動作を淡々とした筆致で描くことで、読み手としても情報処理をして、淡々とシナリオを受け止めることに陥る恐れがあります。客観的であることは悪いことではありませんが、一瞬小説ではなくてレポートを読んでいるような心地になるのです。その塩梅は非常に難しいですからなんとも言いがたいのですが、個人の所感を述べるのならば、もう少し主人公の香澄に感情移入できるようなシーンがあると物語の見方も変わってくるかと思われます。


【その他】

 大学で心理学を学ぼうとすると、文系学問に分類されています。しかしその中身は非常に論理的で、どちらかというと理系の学問に近い、と聞いたことがあります。私の心理学の知識は倫理によるところが多いのであてにならないのですが、軽い気持ちで「心理学学んでカウンセラーになる~」と心理学を取る大学生はロクなことにならないのは知っています。心理学は理系学問、有澤覚えた。

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