リビングデッドの呼び声

 五十三冊目です。亜月良雪さま著「リビングデッドの呼び声」、今回はこちらを書評させて頂きます。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886074779


【あらすじ】

 トカゲの骨の師匠リザリアと、その弟子クラン。珍妙な取り合わせの二人(?)は死者を蘇生させることを生業とするネクロマンサーである。必要なのは蘇らせたい者の死体、それから「覚悟」。死者を蘇らせるには、誰か他の者を生贄として捧げなければならない。リザリアとクランは今日も依頼人に問いかける。あなたが蘇らせたいその人のために、他人の魂を捧げる覚悟はあるのかと。


【魅力】

 倫理観ぶっ壊れ。だからこそフィクションならではの良さがあり、面白い。誰かを生き返らせる、そのためには同等の対価が必要である。人の命に貴賤はなく、どんな者を蘇らせるとしても必要なのは同じ人間の命である。他人を蔑ろにすることで己のエゴを満たす、人間性を垣間見ることができます。リザリアのどこか選択を楽しむような視点もよし、クランのように淡々と任務に励むもよし。人間の物語であると思います。


【改善点】

 誤字脱字がやや気になりますが、そこはこちらでは割愛します。全体として確かにブラッシュアップできそうな部分はありますが、それを上回るシナリオの面白さ、と言うべきでしょうか。とは言えそれは細かい点を無視することとイコールにはならないので、僭越ながら気になったことを。

 人間の葛藤、倫理観、心理。そういったものにフォーカスしているため、外側の情報というのはいささか疎か、あるいは意図的に削っているのかもしれませんが、とにかく外側の描写が少なめだなと感じました。極論、人間の外見描写はなくてもこの物語の良さは損なわれませんが、言動に関する描写は増やした方がいい気がします。セリフが長く続くところがあり、テンポ読むことは可能なのですが、その間どんな様子で彼らが話しているのか。人物像を掘り下げるためにも、挙動は踏み込んで描いてもいいかもしれません。

 情景描写も同様に肉付けして問題ないと思います。冒頭の馬車のくだりでいうと「止まれ!」と言ってからすぐに「止まった、止まった」とお師匠が喜んでいますが、その一文で済ませるのはあっさりが過ぎるかな?と思ってしまいました。一言一句細かく描写するというわけではなく、描写に意味を持たせる、と言いましょうか。そういった意味付けが出来ますと、より物語の世界観が見えると思いました。


【その他】

 好物です、こういう話。フィクションでしか許されないお話、好きなんです。それは超能力とかではなくて「倫理的に」フィクションでないと許されない話が好きです。今回読ませていただいたのはまさにそういったお話でした。死者が復活してめでたし、ではなく、そのために何を犠牲にできるのか?人間性が見えるテーマです。

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