旅をしよう。君と、夏の終わりの果てまで

 三十四冊目はかっこさま著「旅をしよう。君と、夏の終わりの果てまで」。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882268922

 この小説を夏に読むことができて良かったなと、勝手ながら思います。では書評、いたします。


【あらすじ】

 うだるような暑さの続く夏の日。家庭でも学校でもいじめや虐待を受ける莉子は自殺を決意した。誰も近寄らない廃ビルの屋上で、そのときを迎えようとする。しかしそこには不治の病に侵された少年・透がいた。「僕と一緒に死にませんか」不思議な誘いを受けた莉子は、美しい死に場所を求めて最初で最後の旅に出る。


【魅力】

 詩的なリフレインが特徴的です。前回リフレインの話をしただけにタイムリーな。今作は意図的に同じ文末を繰り返したり、言葉を対比させることでテンポを作り出しています。それが儚い終わりに向かう旅路にマッチしています。また、莉子と透の対比でもあり、類似でもあるのがまた良いですね。旅路を通した二人の心情の変化も丁寧に描かれており、繊細な心の機微というものが感じられます。


【改善点】

 今作ではオリジナルの病気として白明病というものが出てきます。詳しい病状は本編を参照して頂きたいのですが、端的に言って不治の病です。そのオリジナルの病気を導入するにあたって、「他人がどう捉えているか」わかる描写はもう少しほしいなと思いました。

 感染症であり、身体の斑点を気味悪く思う人もいるようです。どうやって死に至るかの病状は詳しくあるのですが、その病気の認知度、かかった人への偏見など、なんとなく察する必要がありました。本編では莉子をいじめている高校生にも白明病が認知されて、気味悪がっていましたが、医学に疎そうな彼女達も名前を聞くだけで恐ろしく思うものなのか? オリジナルであるぶん、その知名度がわかりません。そしてその病にかかった人達に対し、人々はどう接するのか。件の彼女達は血相を変えて逃げていきましたけれど、一文でしたのであっさりしていました。それに対する透の心境なども合わせ、透の自殺理由でもある病気について掘り下げが欲しいなと感じました。

 今作に限らず、オリジナルの設定は説明文だけではなく周囲の人間の反応もいわばツールとして活用し、読者に認識を定着させる必要がありそうです。


【その他】

 いじめや虐待をモチーフにすることに私は難しさを感じます。実際に体験した方からの意見が厳しいものになるからです。安易な同情、残酷さ、お涙頂戴、悲しい境遇。それを描写する「だけ」の設定であれば、実際に被害に遭われた方が怒るのも当然というものでしょう。今作が、という意味ではなく、いじめを題材にした話を読むたびに考えさせられます。そういった意味では、どのテーマを扱うにしても細心の注意を払わなければなりませんし、その通りなのですが。

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