瑠璃の王石

 鈴草 結花さま著「瑠璃の王石」が三十二冊目となります、書評完走企画。https://kakuyomu.jp/works/1177354054885316704

 どうにかこうにか走れております。夏の終わりには完走したいと叫びつつ、たまにちょっとお休みしながら。適度なペースで参ります。


【あらすじ】

 敵国との戦争により、ナイル帝国の王女・幼きハーシェルは母親に連れられ命からがら隣国アッシリアへと逃れる。故国ナイルとアッシリアは敵対しあう国であり、いつ追っ手が来るかわからない。しかし己の出生を知らぬハーシェルはアイリスの咲く原野で穏やかな日々を過ごしていた。戦争が終わり、帝国へと帰ることになったハーシェル達。母の持つ瑠璃の石にハーシェルが触れることで、新たな争いが生まれようとしていた。


【魅力】

 ハーシェルが子供らしい。いい意味で。小説を書くとどうしても作者の知識や年齢が出てくる瞬間があります。子供だけど似つかわしくない言動をしていたり、考えが達観していたり。ハーシェルはその点明るく元気なだけじゃなくて、わがままな部分も含めてイメージを裏切らない。「子供ってこういうところがあるよね」というものを体現している子です。いい子すぎず、でも悪い子でもなく。子供の表現がウィルも含めて上手いなと感じました。


【改善点】

 地の文のなかにも、視点があります。完全なる神の視点で俯瞰する小説は、なかなかお目にかかれないかもしれません。三人称でもどこから物事を見るかで感情移入や展開の理解が捗ることもありますからね。

 さて本題。以前視点による動作の話はしたかもしれませんが、今作はハーシェル視点における語彙が少し引っ掛かりました。大人である母親や将軍が難しい言葉を使うのは納得できますが、ハーシェルが見聞きしたものを難しい語彙で表すのは違和感を覚えます。たとえば、市街地で国王に遭遇するシーン。ハーシェルが見た鎧の男たちに対し「鎧着」という言葉を使うかな?と。そういった細かい部分ですが、幼い知識で築かれたハーシェルにあった語彙を使ってあげるといいかなと思います。それが学のあるウィルとの対比にも繋がり、二人の違いもより鮮明になるのではないでしょうか。


【その他】

 一人の人間にはそれぞれの物語があります。けれど幼い頃からそれを辿っていくのは膨大な作業だし下手をすると伝記になりかねない。幼少期から始める物語はややハードルの高いスタートだと思うのです。大きな変化がなければなおのこと。でも、幼少期を掘り下げることで見えてくる魅力があるし、情勢も見えてくる。この物語はハーシェルが成長してからが本番ということですので、政治色も加わっていくのかしら、なんて邪推したり。

 最後になりましたが、このたびは書評させて頂きありがとうございました。

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