呪われた龍にくちづけを 第一幕 ~特別手当の内容がこんなコトなんて聞いてません!~

 三十。三十冊目です。やっと折り返しまで来れました。ここまでお付き合い頂いたみなさま、こんなに遅くなっても書評を受け止めてくださるみなさま、感謝しかありません。

 ということで記念すべき三十冊目。綾束 乙さま著「呪われた龍にくちづけを 第一幕 ~特別手当の内容がこんなコトなんて聞いてません!~」でございます。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884543861


【あらすじ】

 楊明珠の家は貧乏である。母が亡くなってからというもの、義父は金を使い込み借金まみれ。このままでは弟の順雪をまっとうに育て上げることも叶わない……そんななか義父が持ち込んだ割りのいい「奉公先」。それは明珠にも浅からぬ因縁を持つ、恐ろしい術の使い手として名高い蚕家だった。


【魅力】

 胸キュンラブロマンス。それがこの小説の魅力であるのは、英翔とのスキンシップとかでわかります。わかるんですけど私はあえてその後ろにある不穏な気配を推していいでしょうか。英翔の二面性。切れ者の顔を覗かせ、明珠に悟らせずに水面下で蠢く陰謀と謀略。 読みやすい文体はラブコメテイストの日常に映えますが、逆に「何かがある」という裏を際立たせます。ただの恋愛ファンタジーではない構成がページをめくる楽しみに繋がっています。


【改善点】

 読みやすさを殺すような描写を増やすことはまた違うのかな、と思うのですが。現状テンポ良く読めるのは魅力的だと思いますので、気になったことだけ。

 明珠と義父の仲は(実父ほどではないにしろ)あまり良好とは言えないように思えます。が、肉まんをさらりと受け取ったり、ずいずいと別の肉まんを弟に押し付ける義父にそこまで疑問を持たなかったり、二人の距離感が近いのか遠いのか見えにくいです。知人の受け売りで恐縮ですが食事とは人間関係が見えるシーンですので、そこで二人がどれほど親しいのか険悪なのか、描かれると理解が深まるかなと思います。

 季白さんですが、突然喋りだすのでこちらの心の準備ができないときがあります。厳密に言うと突然喋りだす人がいて、台詞のあとの動作や主語で「ああ、あなた季白だったのね」と気付くと言いましょうか。季白の台詞というより台詞前の動作が他のキャラクターと比べると見えてこないのかもしれません。お小言を垂れる、というイメージだけが先行するせいで、セリフしか頭に残らないせいかもしれません。季白の動作で性格が見えるとまた違ってくるのかなと思います。


【その他】

 既出かと思いますが、中華風ファンタジーで女性向け、というと雪乃紗衣先生の「彩雲国物語」を思い出します。二十巻くらいある小説を全巻揃えたのは、これと「薔薇のマリア」くらいかもしれません。最近は長いシリーズを買うこともなくなってしまって。「彩雲国物語」は前半よりも後半の政治色強い展開が好きです。私が恋愛模様よりも陰謀劇が好みなせいかもしれませんが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る