咲見とサカシ

 二十です。ようやっと三分の一です。亀の歩みで、参加頂いた方には申し訳ありません。お気づきのかたがいるかわかりませんが、書評はイベントの参加者順に行っておりますゆえ、つまりそういうことです。まだまだお待たせしてしまうかと思いますが、夏の間には完走したいと尻を叩いています。

 さて二十冊目、イワトオさま著「咲見とサカシ」でございます。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884023552


【あらすじ】

 元プロボクサーの咲見は、甥の賢と同居生活を送っている。家庭の複雑な事情により、血の繋がらない二人が寝食を共にする。下手をすれば赤の他人とも言える二人はしかし、日々の生活を通して何不自由なく生活を送っている。賢と共に生活するなかで、咲見はある決断を下そうとしていた。


【魅力】

 地力といいましょうか、引き込まれる文章。物語としてはエンターテイメント性に富んだわけではない、どちらかといえば純文学寄りの小説ですが、文章の力で読者を読ませる。そんな印象です。よく、読者を引き込むにはどうすればいいか、という話があります。展開やキャラクターなどを磨くことももちろんですが、どっしりとした厚みのある文章というのも人を魅了するのだなと感じました。ジャンルとの相性もありましょうが、素敵な発見だったと思います。


【改善点】

 良くも悪くも、という話になってしまうのですが、まるで教科書に出てくるような小説を読んでいるような心地でした。傍線部があって、このときの心情を答えよ、というような。

 心情に関する表現が非常に上手いお話に感じました。咲見の悩みや決意をすんなりと理解できましたし、難しい展開でもなかったので。その水準を求めると、という話になりますが、外見描写の説明的な書き方が目立つように思えます。しかし好みの問題になるので難しいところです。私は冒頭の咲見の容姿の描写は「~している」「~着ている」というようにどこか単調で、読者を引き込む強さは他の文に比べると弱くなってしまうかな、と感じました。意図的でしたら恐縮ですが、静かな始まりであるぶん、外見描写が機械的にならないように言い回しを変えることで、掴みの文章としての印象が変わると思います。


【その他】

 今回書評企画を立てて驚いた、というか意外だったのは、短編作品での参加数が想定よりも多かったことです。こういう企画に参加されるのって、なんとなく、長編で連載中で何十万字というものが多いのかなって思ったので。私が思っていたよりもカクヨムでの作風は様々で、いろんなジャンルの方が参加してもらえたのは私の読書の幅も広がるし、嬉しい誤算でした。

 最後になりましたが、このたびは企画に参加くださりありがとうございました。文章力の高さを感じる、重量感のあるお話でした。

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