生きる悲哀と臨床家

 十八冊目。神木 清隆さま著「生きる悲哀と臨床家」です。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882784960

 比較的ライトなノベルが多いカクヨムで、まさかこんな出会いができるとは。そう唸ってしまった小説です。では書評、いたしましょう。


【あらすじ】

 「臨床家」として臨床心理士の国家資格を取得した「僕」は、実は超能力が使える。この春、一年間という契約でとある学園に赴任することになった。既にいる心理士の補佐という役回りの「僕」はしかし、非情なる臨床心理の現実と戦うことになる。様々な事情を抱えた子供達と、動かない保守的な学園。「僕」は子供達を救うべく、彼にしかできない方法で奔走する。


【魅力】

 存在が唯一無二。そんな力強さを感じる小説です。この小説に触れて、考えることは多々あるでしょう。考えさせる、という点で、非常にメッセージ性の強い小説だと思います。

 しかし個人的に推したい魅力は、眼前に突き付けられた「現実」を「超能力」という、いわば非現実的な方法でぶつかっていくところです。正直、この超能力が本当に特殊な力なのかどうかは、あまり重要ではないと思います。現状を打破するために彼が使う「魔法」みたいなものだと捉えました。超能力と彼の行動力によって子供達に変化をもたらす。そのプロセスに熱を感じます。


【改善点】

 何度かご意見を拝見しております、文体の固さと文章の長さ。そのあたりについて思うことは確かにあるのですが、どうせなら別の観点から。

 ドキュメンタリーではなく小説、という部分に重きを置くのであれば、山場の演出はもう一声明確な線引きが必要かもしれません。作者さま自身が「四章が盛り上がるところである」とおっしゃるとおり、確かに四章のストーリーは他の子供達と比べて会話のキャッチボールが多いように感じます。ですが、原因の究明からの改善、そして結果の提示という基本的な流れは他の章とあまりアプローチが変わりません。特に結果が「彼女はこれができるようになった」というように、淡々と事実を並べている文が多いため、登場人物の感情の起伏、変化が読み取りにくくなっています。

 「先生、○○できるようになったよ!」など、登場人物のセリフから喜怒哀楽を示す、あるいは外見や表情の変化を用いて前向きになっていく子供達の成長を魅せるなど、変化の過程に熱量を持たせることで、より成長を実感できるのではと感じます。


【その他】

 小説への評価って、人それぞれだと思うんですね。こんなこと書くと「そりゃそうだ」「ではこの書評の意味」とかなっちゃうんですけど。要するに小説のターゲットが違うなら、ターゲット外の人間がとやかく言うのは違うかなと言う話です。この小説は作風もあって、とても文体が固いです。でも、所謂ライトノベルのような気軽さを求める人間が「もっと砕けた言い回しで書け」とか言うのは、その小説の魅力を殺すことになるんじゃないかなと思うのです。

 上手く言えず申し訳ないのですが。私はこの文体のまま、作者さまの強いメッセージを伝えられるのが素敵だと思いましたってことです。このたびは参加頂きましてありがとうございました。

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