神様、ちょっとチートがすぎませんか?
十五冊目です。なんだかルールを決めたわけではないのですが、五の倍数のたびに持論をうだうだ展開しています。ルールとは破るもの、しかし縛られるもの。
それはまたのちほどとして、七草裕也さま著「神様、ちょっとチートがすぎませんか?」です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884528644
大長編ですが、腹に力込めて書評、いざ。
【あらすじ】
桜勇太は病弱な身体で、若くしてその人生に幕をおろした。本来であればそのまま消えるはずだった勇太はしかし、人間味あふれる「神様」の気まぐれで別世界への転生を果たす。普通の人間らしい、自由な人生を送りたい。そう、村人Aとかでいいから。平凡と平穏を求めて転生した先で、しかし、勇太は「常人の二百倍」の力を持って生まれることとなる。
【魅力】
チートは呪いである。このパワーワードこそが作品を体現しています。一言で表現できる創作って、人によっては枠に収まっているとか否定的に捉えるかもしれません。でも私はその魅力を一言で表せるなら、キャッチコピーとしての効果があるし読者も引き込みやすいと思うんです。
異世界転生、チートにありがちなぶっ飛んだ展開というものがなく、読者の理解が及ぶ丁寧な展開力。チートという、下手すれば論理さえ破壊してしまう能力を、階段を上るように描いていく。その丁寧な仕事ぶりが他にはない魅力だと思います。
【改善点】
異世界転生モノって一人称小説が多いのでしょうか。主人公の常人ならざる力から読者が乖離しないように、主人公自身に語らせる必要があるということなんでしょうか。確かに主人公の心の声がいわば駄々漏れなので、彼の言動は理解できる節があります。
展開が丁寧でゆっくり描かれ、心理描写にも力が入っている今作。やや情報不足に陥るのは情景に関する描写でしょうか。村で生活するにあたり、主人公というフィルターを通してはじめて見る世界のはずなのに、まだ真っ白なキャンバスの中にいるように感じる。私たちの中にある「よくある農村」を描いてくれというのは話が早いですが、それは心理描写の丁寧さとは矛盾するような想像力に思えるのです。病院しか知らない主人公が、はじめて触れる外の世界。その感動や新鮮さを、言葉で表して頂けるとより鮮やかな世界観になるのではないでしょうか。
また、登場人物が名前と合わせて一気に出てくるシーンなどは、情景処理が追い付かない恐れもあります。固有名詞がある以上、そのキャラクターに何かしらの意味を求めてしまうのが読者というもの。名前を出すからには読者がイメージするに足る外側の情報がもう少し欲しいところです。
【その他】
チート、って、悪いイメージがあるのです。個人的に。元々がズルとか、そういった違法な意味を持たせているからでしょうか。もちろん、チートモノの小説を否定する意図はないです。私が考える「チート」という言葉へのイメージ、ですので!でもそんな、ある種特殊なルートで手に入れた力を、常人はどう使うのか?それが異世界転生チートのスタートかもしれないです。
最後に、このたびは企画に参加頂きまして、まことにありがとうございました。
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