稲荷百貨店外商部 ~お客様は神様、狐様、魔物様!?~

 今回ご紹介しますのはこちら。ハティさま著「稲荷百貨店外商部 ~お客様は神様、狐様、魔物様!?~」です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885855743

 私の書評もなんとか六作目になりました。

 あやかし、というだけで興味そそられるのですが、書評、はりきって参ります。


【あらすじ】

 就活に苦心し、将来と人生に絶望を抱いていた女子大生・上原顕子。軽率に死を考えるようになり、虚ろになっていたところを「化け猫」に命を救われる。着物姿の化け猫、サラリーマン風の狐、そういった妖怪たちが勤める商社「稲荷百貨店」。顕子はその「総務部長兼陰陽師」賀茂鶴丸に社員としてスカウトされる。


【魅力】

 丁寧な地の文が特徴であり、この柔らかくも不可思議な世界観を表現する魅力でしょう。顕子のお祈りメールにうんざりする心理描写はもちろん、彼女を通して見る妖怪の世界を事細かに記しています。ただ何かがある、と書くのではなく叙情的で、景色ひとつをとっても神秘を感じてしまうというか。作り込まれてそう簡単には侵せない、静謐な情景が文章から伝わってきます。


【改善点】

 なんでもそうですが、よりよいものをつくるときのアプローチって主にふたつでしょうか。弱点を克服するタイプと、ストロングポイントを伸ばすタイプと。学校のテストだと上限があるので前者なんですけど、小説では是非とも後者を尖らせたいところです。

 魅力である文章のきめ細やかさ。それを活かすために、文章における山場の設定があるといいかなと感じました。全体的に丁寧すぎるあまり、平坦に見えてしまうんです。ただの建物の説明も、重要な序盤の落下シーンも、同じ力量で細かく描いている。すると、どこが盛り上がってどこがクールダウンなのかがわからなくなってしまうのです。

 ビジュアルがないぶん、言葉でいかに補って魅せていくかが小説の醍醐味と言えます。しかし同時にエンターテイメントとして、見映えも考えなければならないのです。手抜き、というと言い方が悪いですが、たとえば物語上重要でないものを全力で説明する必要はありません。そのぶんの熱量は見せ場であるシーンに割くと、読者も「ここが山場でアツイ場面なんだな」と気合いをいれて読むことができると思うのです。


【その他】

 一時期、大人向けラノベ(と呼んでしまうのですが)レーベルが乱立し、その流行りで多かったですよね、少し不思議系。お店をやってて、変わり者のマスターがいて、ちょっと異世界を楽しむというか。よく見るジャンルになったのかなあと感じます。

 そういったお店は個人経営で知る人ぞ知るってのがテンプレートですが、こちらの小説では「商社」ですし、総務部長とか組織図しっかりしてそうなので新鮮です。個人的には営業部長とかはどんな曲者なのだろうと、ちょっと楽しみになってしまいますね。

 最後に、このたびは書評させて頂きましてありがとうございました。お役にたつことがあれば何よりでございます。

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