第3話 誕生日
もし、ある日突然
「今日からこの子は君の息子だ!かなり無口な子だけど君が育ててくれ(笑)」
なんて言われて見ず知らずの子供を押し付けられたら、あなたはどうしますか?
ローズから託されたベルというちょっと変わった男の子
家に着くまでの道中、あたしは何度も何度も何度も何度も!!!
なんとかファーストコンタクトを取ろうと試みた!!
「ベルくんは何か好きな食べ物ある?」
「ベルくん今度どっか遊びに行こう!」
「ベルくん見て!おっきいビルだね〜」
「……ベルくん……もしかしてあたしの事キライ……?」
「………………………。」
えぇ……。
全 無 視!!
全無視ですよ完全無視!!
ベルくんはたまに無言であたしを観察するような目でジーーーーっと見つめて来るだけ
こんな空気耐えられるかぁあああ!!!
近所の知らない超絶人見知りの子供が突然自分ちに押しかけて来てずっと居座ってるところをちょっと想像してみてください。
それが今のあたしの状況です
そして
あたしはとうとう一言も会話が出来ないまま自宅の前までやってきてしまった……
白い髪の毛の可愛らしい男の子があたしに手を引かれてトコトコついて来る。
あたしの足取りは重い……
これからやっていけるか不安しかない……
◇
「わん!!ヘッヘッヘッヘ……」
玄関を開けるとあたしの愛犬スフレが飛びついてきた
「スフレェ!ただいまぁ ちゃんと良い子にしてた〜?」
「わん!わん!」
頭を撫でてやるとスフレは嬉しそうにコロンとお腹を見せてきました
可愛いヤツです
「ほ〜らスフレェ?この子はベルくんだよ〜?よろしくねぇ……」
「わん!……スンスンスンスン……」
スフレにベルを紹介すると、スフレは尻尾を回して興味深そうにクンクンとベルの匂いを嗅ぐ
「ベルくん!この子はスフレっていうんだ?仲良くしてあげてね!」
スフレはベルが気に入ったのか スリスリ擦り寄って甘え始める……可愛い……。
そしてそんなスフレに
今までずっと無言だったベルは初めて変化を見せた
「………スフレ……。」
おほおぉおおベルくんが喋ったああ!!ベルくんがついに喋ったよぉ〜〜!!!
感動だ!
さっきまで無視され続けたから余計にそう思う、とにかく安心した!
「そう!スフレ!
スフレだよベルくん!!!よかったぁ〜 喋ってくれないのかと思って心配だったよ〜……。」
「……………………。」
………ですよね〜…。
ベルはやっぱりあたしには無視でした……
◇
「はぁ〜……。」
自室のソファーにドサっと座り大きなため息をつく
手に持った紙パックのりんごジュースをチューっと一口
美味い…。
24年間 彼氏もできたこと無いし子供とろくに話したことすらなかったあたしがいきなり養子だよ??
結婚とかあんなことやこんな事、色々な工程をすっ飛ばしていきなり子供ですよ!?
一介の二等兵が一足飛びで一気に大佐になるようなもんですよ!
「10年……かぁ。この調子じゃ一週間も持たなそうだよ」
何気なく部屋を見渡す。
床にはナイフやら雑誌やらゴミやら拳銃やら服やらが脱ぎ散らかってる……汚い……。
え?物騒な単語が聞こえるって?
物騒なんかじゃありません!!
これはあたしのコレクション!
レトロ武器です!
あそこにあるのが ヘッズ社製のサバイバルナイフ、こっちにあるのがK&G社製バレッタM94!
全部200年以上前の武器でもうほとんど手に入らない
どれも名器です!
最近じゃコレクションが増え過ぎて自室に収まらないくらいだ!
え?そうじゃなくて危ねぇから部屋整理しろ?細けぇこたぁいいんです!
あぁ 脱線脱線……失礼
ベルは今リビングに放置してきている
あの子をどう扱っていいか困っている……
とにかくあたしはこれからの事が心配で仕方がないんだ
「くぅ〜ん……ぺろぺろぺろ……」
膝の上にいるスフレが心配そうに困ったような目であたしを見上げる。
そういえばスフレもはじめの頃は全然懐いてくれなかったもんなぁ
保健所にいたこの子を2年前あたしが引き取ったのだ。それまでスフレは人間にいじめられ続けてきた……。
昔はあたしをみると吠えたり怯えたりしてたっけ……
「ゎふ?」
首をかしげるスフレ
その目はなんとなくあたしに何かを伝えたそうに見えた
あたしはスフレを軽く撫でる
「うん……そうだよね……スフレ」
そして意を決して立ち上がったのです!!
「よしっ!!」
「わん!!」
今日は11月4日!
これより作戦を開始します!!
ベルくんの歓迎パーティーだ!!
作戦内容.1
まずはサプライズが必要だ!
なんといってもプレゼント!!
近所の服屋で白のニット帽を入手!
「これ着けたら可愛いだろうなぁ……♡」
完璧だ!
あたしはニット帽を被ったベルくんを想像して一人でニヤニヤする。
作戦内容.2
パーティーと言ったらやっぱり料理!
ふっふ……ついに本気を出す時が来たようだな……。
失敗フラグ?バカを言っちゃいかんよキミ!
こう見えて料理は得意なのさ
普段はめんどいからしないけど
こういう特別な日は外食やら出前やら甘えた考えは排除だよ!
あたしがやらなきゃ意味がない!
向かうはキッチン!
食材よし!エプロンよし!これより作業に取り掛かるぞ!
夕飯を作っているとリビングからベルがやってきた
「お!来たなぁベルくん!待っててね!ごちそう作ったげるから♩」
「……………………。」
ベルはその間ずっと 無表情にジーーーっとあたしを観察するだけだった。
「……。………………………。。」
◇
テーブルに並べた豪華な料理たち!
フライドチキン!サラダ!ローストビーフ
そして極め付けはこれだ!
ニーナ特製手作りケーキ!!!
あたしの持ちうる料理知識の全て叩き込んでやった!美味そー!
「ジャジャーン!張り切っちった。一緒にたべよ?ベルくん!」
ベルの前にケーキを出す
「はい!誕生日おめでとう!!ベルくん!」
「……。……………」
ベルには誕生日が無い。
だから今日、11月4日
この日をこの子の誕生日にしよう
初めて家族になった日
ベルとあたしが初めて出会い、ベルとあたしが初めて親子になった日……
この子は今日からあたしの息子だ!
だから今日が誕生日
ベルにケーキ取り分けてやる
するとベルは手づかみでケーキを食べようとした
「あ〜あ〜…違う違う!これはね?こうして、こう!」
ベルにフォークの使い方を教えてやる。
ベルはフォークを使い無表情でケーキをパクパク食べ、完食しました。
「美味しい?」
「………ぺろ………ぺろ……。」
ベルは無くなったケーキの皿を無言でペロペロ舐め始めので、新しく取り分けてやる。
ベルはそれを受け取るとまた無表情にパクパクとケーキを食べる
ふふ……一切笑わないけどこうして見るとこの子結構可愛いかも
整った顔立ちだし大きくなったら絶対イケメンになるでしょこれ……
あぁ……ちょっと眠くなって来ちゃったなぁ……。そういえば昨日オールでカジノで遊んだんだっけ……ヤベェ……寝る……
あたしは目を閉じるとそのままリビングで泥のように眠ってしまった
◆
ニーナが眠った後
ベルはゆっくり立ち上がりキッチンへ向かった。
「…………。」
キッチンにはニーナが作りっぱなしで片付けられてない残った食材が散乱している
ベルはその食材を手に取ると何かを作り始めた。
無言で、無表情に。
「………。…。…………」
ベルはその日ずっと観察してた。
ニーナを ローズを ニーナの飼い犬スフレを 彼らの言葉の一言一句全てを……ベルは観察していた。
そして観察したニーナの姿に自分を重ねる。
そこからベルは
ニーナの行動を
ベルは先程ニーナが作った料理と寸分違わぬ物を作ろうとしていた……。
◆
……朝。
起きるとそこはリビングでした。
眠気まなこであたりを見回すとベルが居ない
「あれぇ……。ベルく〜ん?」
まだ眠い。声が若干アホの声してます
キッチンから何やら音がするので向かってみる。スフレがなんかいたずらしてるのかなぁ?
そういえば昨日片付けないでそのままだったからなぁ
作るのはいいけど片付けるのはめんどくさい!
キッチンの扉を開けるとそこにはベルがいた……。そして驚いた
「これ……あなたが作ったの……?」
そこには昨日あたしが作った料理とおんなじ料理があった!
そしてベルはケーキの乗った皿を持つとあたしに差し出して来た
「………誕生日……おめでとう……」
ベルが初めてあたしに向けて喋りかけてくれた………なんか知らないけど涙が出る
「バカね……あたしの誕生日……今日じゃ無いよ………」
なんとかやっていけそう!
今ならそう思えます!!
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