〜ニーナ・クレイの場合〜

第2話 頭のおかしい任務




あぁ………ダメだ……

意識が薄れる……


「ヒュー…ヒュー……。」

多分このまま………

……あたしは殺される………


…なんでこうなったんだっけ………



最後にもう一度……もう一度だけ……


「ヒッ…ヒュッ………………ヒッ…………ーー。。」

に……会いたいなぁ…………ーー





◇◆◇

◯回想




あたしは軍人


ストラヨーク陸軍 特殊部隊|NARF《ナーフ

隊長のニーナ・クレイ

歳は24です


自分で見ても大層な肩書きだと思う

今もこうして実戦訓練してるわけなんだけどさ


戦争も終わったのに

どうして今更あたしが軍事演習なんかしなきゃならないのか疑問です


どうせ今日も相手はリーフなんだろうな


「来いニーナ!待ってんだ早くしろ!」


ほら来た

まぁこの隊であたしと組み合えるのはリーフくらいしかいないけど


「おーし、じゃあやろっか!」

「ヘラヘラすんじゃねぇ!真面目にやれっテメ隊長の自覚あんのか!?」


ほほぅ……真面目にやっていいと?


「始め!!」


開始の合図!

あたしとリーフの激闘が始まる!!!



まぁ……激闘ではなかったよね

だって勝負は3秒で終わったし

いや、勝負にすらならなかったかなぁ


開始の合図と同時に突っ込んで来たリーフをそのまま投げ飛ばしてやった

ついでに手首に関節技を極めてやった


「あたしの勝ちぃ」

「クソ!離せニーナ!!いつまでそうしてる!」


っとか悔しがりながら悪態をついてくるけど

リーフは決して弱くない



こう見えてあたしは特殊部隊の序列じゃ一位

つまり最強ってやつだ!

だからリーフにこう言ってやる


「ふっはっは 10年早いよリーフくん!」

満面のドヤ顔を見せつけてね


「…………。(ウゼェ この女一度でいいから殴りてぇ)」


リーフが顔を赤くして無言で見つめてくる

きっと敬愛の念でいっぱいなんだろうなぁ

可愛い後輩だ




演習を終えたら キンッキンに冷えたりんごジュースを飲む。基地の冷蔵庫にはあたし用にりんごジュースが常に常備されてる


腰に手を当ててグイッと一気飲み!

それが作法なのだ


うーん 美味い!


その後は軽くシャワーで汗を流し業務終了!

日々の日課です


ただ日々というのは退屈です

そんな退屈な日常には目が醒めるような刺激、

そう!まるで戦場にいるかの如く高揚する!!


そんな刺激が必要なのです!!!


そ れ は な に か!?


ギャンブルだ!!


ギャンブルとはすなわち戦争!

あたしはカジノが大好きなのだ!

はあぁ …この胸の高鳴り……


今日もカジノへ行こう!そうしよう!



足取り軽く廊下を歩いていると向こう側から陽気に手を振ってくるちょび髭のオッさんがいた


「おーいニーナぁ。お前に会いに来たぞぉ!飯食ってるか~」


そのちょび髭のオッさんを見た瞬間全身が硬直するのを感じる。


「ひぃッッ!!ロ…ローズ長官!?ひ、久しぶり??っすね!」


ローズ・ウィム

簡単に言うとあたしの直属の上司です

会うことは滅多にない



3か月に1、2回会うか会わないかだけど

前回あったのは二週間前

そんなオッさん、、もといローズがこのタイミングであたしを探しているということはつまりなにか……?

あたしには思い当たる点が一つある


「どうしたニーナ?顔色が悪いぞ?さてはまたカジノでスッたなぁ?がはは」


ヤベェ…探りか?探りを入れてるんですか??このオヤジ?!

そりゃあね?スッにはスッたよ……?カジノでね?うん

清々しいくらいに負けたさ!


だけどそのスッたお金が問題なんだ……

あの日のあたしは完全にどうかしてたんです


部隊にシーズン毎に支給されるお金


シーズン予算に手を出すなんて!!!



「そうそう、ところでな ニーナよ」

ヤ、ヤベェェエエ 来たァア

どうしよう間違いないバレてるぅう!!!バレてるよ絶対……ぶっ殺案件だぁああ!!


「あのですね…?ぇと、長官 アレはちょっと借りたというか……いえいえもちろんすぐに返しますよ!!でもですねぇ……」


「んん?なんの話だニーナ」


……ん?なにその反応?


…えまって?てことはバレてないの??

しまったぁあああ!!

つまりは墓穴か??

まってマズイとにかく逃げなきゃ

死ぬ!ここにいるとあたし間違いなく死ぬ!


死ぬ!!!


「あ、いえ、、あたしちょっとこの後用事があった気がしなくもないかもしれない感じなんで……」

「………………。」


「ぇとそのぉ……」

「サヨナラッーー「待てい!」ガッ!


その場から逃げようと言葉を発した瞬間捕らえられた

ローズの無言の視線が痛い…

全身がプルプルと震える

涙目になってるのが自分でもわかる


そしてあたしは観念した……そして吐いた


部隊予算の横領をしたことを

着服してギャンブルでスッたこと

その洗いざらいを全てを………


「「この大バカヤロウォオオオ!!!」」

ゴンッ!ゴスッ!!

「いぃ痛ぁあああ!!」


この日 怒号と共に振るわれるローズの2発のゲンコツの音が基地中に響き渡りました。

振り下ろしが半端かったです。






気づけばあたしは応接室に連行されローズに説教されていました。

テーブルと豪華なソファー

見た目は完全にふつうの応接室なんだけど

そこはさすが軍事基地

ここでの会話は一切外には漏れない。

傍受も一切不可能

なんかわかんないけどそういう技術が使われているんだって

部屋にはあたしとローズの2人だけ


あたしは紙パックにストローぶっ刺したりんごジュースのやつをチューチュー飲む


美味い!


「しっかりしてくれよ英雄。先の大戦の功績がなかったら即銃殺もんだぞ?……おい聞いてるのか!?」


説教が長い…

ん?反省?なにそれ美味しい?


「まぁそれはもういい。」

ローズの顔がより真剣になって身構える


「今回ここに来たのはな、お前に頼みたい任務があるからだ」

「任務…ですか?」

フゥ、とため息を一つ 間をおいてローズは口を開いた


「ニーナよ……お前、母親になる気は無いか?」


「ん?」

一瞬思考が停止した。あたしの耳がバグったのかと思ったけど、どうやらそうではないらしい



「お前にある子供を預けたい。任務内容はその子供をお前が養子とし、10年間育てあげる事だ」


「はぁあああああ!?なにその任務バカなの?無理ですごめんなさい他を探してください!」

即答だった。こんな任務完全に頭がおかしい。


「そもそもなんであたしなんですか!?あたしが母親なんてできると思いますか?」

「思うわけ無いだろバカモン!《CELセル》が選んだ適正母親候補の回答がお前だったんだ!じゃなきゃ誰がお前みたいな人格破綻者……」


自分で話を振っておいてなんだけどイラッと来る

けど断る口実として話の流れとしては悪くない!

それにしても《CEL》か、確か二か月前に出来たばかりの最新人工知能

なにかきな臭いですね


「そうですよ!?あたしが親ですよ!?無理でしょ!!謹んで辞退させてもらうっす。失礼します!!」


この場から離れよう。立ち上がって扉へ向かって踵を返すとローズはため息混じりに口を開く


「前金2000万E エール達成報酬で5000万……なんなら今回お前がカジノで横領した部隊予算の件を不問にしてやってもいい」


あたしの足がピタリと止まり、あたしの脳内電卓が最高速で計算を始める

2000万Eエール……前金だけで人生を半分遊んで暮らせちゃう額です


「やります!!やらせてください!」

ビシっと敬礼をし ハキハキとしたいい返事

まるで軍人のお手本のようだ

あたしはお金も大好きなのだ


「うむ、引き受けてくれるか。結構」


「はっ!具体的にはなにをやればいいでありますか?ローズ長官!」

私は犬です!主人に假づく従順な飼い犬


「なにもせんでいい。まぁあの子のボディガードも兼ねているんだがお前ならその辺の心配はなかろう

ただ義母として母親らしく接して あの子に心と感情を教えてやってほしい」


「……?心?ですか………?」

「……うむ。まぁ……なんというか……

あの子は病を患っていてな、少々特殊な体質を持っておる。お前も一緒に暮らせば分かると思うが…ーー」

「了解っす任せてくださいよ~!」


あたしは話を遮って軽々しい口調でローズに答える。

ローズが 本当に大丈夫か?と不安げな表情であたしを見てくるがあたしは平気だ!


多分なんとかなる!

そんなことよりあたしは貰える報酬に心を弾ませていた。




次の日


あたしはローズに連れられてヘイル迎賓館に来ていた

件の子供とのはじめての面会だ

あたしは今日から その子供の義母になるらしい


「ここで待っておれ、今あの子を連れてくる」

あたしを迎賓館の一室に連れてきたローズはそう言うと部屋から出た


室内は豪華とは言えないけど 一目で高級品だと分かる装飾が施された木製の机と椅子

こう、

質素だけど主張し過ぎないっていうのかな?

わかんないけどそんな高貴な雰囲気のある空間だ


迎賓館 本来であればそこは各国の首脳が集まって会議をしたり、国家規模のプロジェクトを話し合う場所だ


そんな場所に呼び出されるくらいだ、


今から会う あたしの義息となるその子供はきっと国家規模に相当する何かなんだと思う。


ストラヨーク合衆国にとって極めて重要なナニか……


じゃなきゃあんな破格の報酬は出ない


あ、前金の2000万Eエールは昨日あのあとすぐもらったよ!

その足でそのままカジノで朝まで遊びました〜♩すごく眠い……でも楽しかった〜!

負けたけど……


え?全部使うわけないじゃん!使っても使いきれないくらいのお金だもん

今のあたしは無敵さ!




そうして待っているとローズが戻ってきた。

ローズの足元には手を引かれてやってくる幼い少年


白い髪の毛とピンク色のほっぺが印象的な可愛らしい男の子だ


「今日からニーナ、お前の子になる

名前はベルだ。これより10年間この子を育てることをお前に命令する。任務だ」

そう言うローズ。


あたしはベルと言う少年に視線を移す

「…………」

ベルは ぼーっとした表情で無言であたしを見つめてくる

「こ、、こんにちわーベルくん!きょ、今日からきみのお母さんだよぉ?ニーナです

よ、、ヨロシク〜!」


声が上ずってるなぁ、、

慣れないことはするべきじゃない


「…………」

ベルは相変わらず無表情で無言

いかんいかん

落ち着こうあたし


「っ・・ベ、ベルくんはいま何才かなぁ?」

「………」


いやオイぃいいいい!なんか言って!反応してよ!!一人で喋ってるみたいで悲しいじゃんか!!


「あぁ、、いや

昨日も言ったと思うけどこの子は病気で精神的に欠陥がある。

言葉は一応話せるんだが……」


あそっか、、そんなこと言ってたな確か

心と感情がなんとか……

大丈夫なのこれ?


「必要手続きは全てこっちで済ませておいた。これが戸籍書だ」


そう言って渡された紙に目を通す


えーとなになに〜、、?


氏名 ベル・クレイ

本籍、所在地……あ〜、うん。あたしと同じね、

あたしがニーナ・クレイ その子供になるからベル・クレイ まぁこの辺はいいかぁ


そして気になるのがそれ以外の欄

出生を含めた全ての欄が、、


空欄になっていた……


こんなことって有り得るの?

まぁ有り得るのか、孤児や捨て子ならそう言うこともある それなら納得もできる。


でもそんな子供をローズがこんな場所に連れてくるか!?


この男の子は一体、、?


「ローズ長官…これって……」


「形式上の処理だ。必要なら後で付け足す。

すまんのぉ 名前以外詳しいことはワシにもわからん。今回の件も上からの指示だ。

あぁ ただその子の年齢は4才だと聞いておる」


ベルくんは4才か、


「……………………………。………。……………………。………」


ベルはなにかをじーっと観察するかのような視線でローズとあたしを見つめる

無表情だ

可愛らしい顔に相まって

その無機質な瞳がただただ不気味だった


「しかし 長官!この子は、、」

そう言うと言葉の途中でローズに遮られた


「この子の出生に関する質問は受け付けん!知ってても喋らん!だから聞くな!命令だ」


有無を言わさない真剣な剣幕。

その表情が

ベルと言う小さな子の背後にうごめく巨大ななにかの存在を示しているかのようだった


そしてそんなローズと幼い少年を前に

この任務を受けたことを


重大な選択を誤ったのかもしれないと思った。


「まぁ そう気負うなニーナ!お前は何も気にせず普段通りにこの子に接してくれ

なぁに 時期が来たら回収しに来る。それまでの辛抱だ」


「回収」その言葉に引っかかりを感じつつ

その日あたしはローズと別れ

ベルと共に帰路へ着いた

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