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「今日は久しぶりに自由な時間を作ることが出来たので沢山お買い物をしてしまいました」

「お買い物ですか、いいですね」

 自分で着る洋服も自作する彼女は、いったい何を買うのだろう?

「もちろん新作の布を」

 あ、そうですよね。

 こんな布で夏らしいワンピースを、とさっき購入したであろう布の画像を見せてくれる。そんな彼女は本当に楽しそうだったのに。

「ふぅ」

 小さくため息が聞こえた。

「お疲れですか?」

 彼女は気づいたように小さく笑うと、薄い唇を少しだけ開いてゆっくりと言葉を紡ぐ。

「はい。ちょっと、疲れてしまいました。あんなに毎日毎日、デザイナーの仕事をしたいと思っていたのに、いざその日々を過ごすとなると、なんでなんでしょう。自分でも驚くほど疲れてしまっているんです」

 出会った頃の彼女は、お世辞にも売れっ子のデザイナーと言えるほどの仕事をしてはいなかった。本当に少し前、芸術業界で有名な人物の目に留まってから彼女の生活は一変したんだそう。俺もテレビで彼女を見た時、凄く驚いたもの。

「今までとは違うお仕事もありますし、身体が疲れるのは仕方ないとは思うんですけれど、なぜか心まで疲れてしまっているようで」

「心が、ですか?」

「はい。充実しているはずなのに、幸せなはずなのに、嬉しいはずなのに。日に日に輝いていた世界がくすんで行くようで」

 ちょっぴり悲しいのです、と正直に答えた彼女はバラの指輪のはまった指でグラスをなぞる。

「とても不思議な感じがします。夢が叶うということは、こういうことなんでしょうか。眺めていた輝きは、手に入れるとくすむのでしょうか。宝石だと思っていた夢が、手に入れた途端石ころに変わってしまうような、そんな感覚なんです」

 初めに思ったことは、なんて詩的な絶望だろう。次に思ったことは、そんな彼女でも俺と同じだってこと。

「星見さん、心配しなくて大丈夫ですよ」

「・・・どうしてですか?」

「宝石も、原石は石ころと同じでしょう? けれど宝石は磨けば輝きます。本当に美しく輝きます。今はまだ原石なんです。磨くという行為はとても苦しいものだと思います。固い石を一生懸命磨くのですから。けれど、その表面が少しずつ光を反射して、いつしか綺麗な宝石になった時、夢を叶えて良かったと思う時が必ずやって来ますよ」

「・・・マスターは宝石を手に入れられましたか?」

「どうでしょう? まだ磨いている途中ですから。けれど、時折光を返してくれるので、とても綺麗に磨けていると思います」

 それは俺だけの力ではなく、そう、目の前のあなたも手伝ってくれていること。

「だから心配しないで。星見さんは星見さんのままで磨いてみてください。そして疲れた時はどうぞうちへ。いつでも星見さんの為にプリンセス・メアリーを作りますよ」

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