研いで磨いて

カゲトモ

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「こんばんは」

「おや、いらっしゃいませ」

 ぺこり、と礼儀正しく頭を下げるのは、人形のように可愛らしい女の子。顔を見たのは久しぶりな気がする。

「実は最近、お仕事の関係でいろんな所に行っていたりして、アトリエで制作なんかもしていたらプライベートで外へ出ることがほとんどなくなってしまって」

「そうだったのですね、それは大変でしたね」

「いえいえ」

 リボンで作られた花の髪飾りが左右に揺れ、変わらず綺麗な黒髪はサラサラと肩口で踊った。

「お仕事を頂けることは本当にありがたいことですし、楽しいので。本当に毎日が充実していますから」

「それなら良いのですが」

 そのわりに星見さんは嬉しそうな顔ではない気がする。あまり感情を大きく出す人ではないけれど、心から日々を楽しんでいるようには見えなかった。

「プリンセス・メアリーをお願いします」

 オーダーしたのはいつもと同じカクテルだった。

「外、雨降って来ましたね」

「ふふ、ここへ来るときは特に雨の日が多いですね。私、雨女なので」

「いえいえ、もうすぐ梅雨だそうですから。お洋服は濡れませんでしたか?」

 彼女の今日の洋服はいつもの様に膨らんだスカートではなく、例えるならチューリップを逆さにしたような、それでいてふんだんにリボンの使われた彼女らしいデザインだった。いつもより少しだけお姉さんに見える。

「お気遣いありがとうございます。今日は傘も持って着ましたし、本当に小雨でしたから大丈夫です」

 そう言って柔らかく微笑んでみせる。初めて彼女が来店した時は酷い雨だった。その時の彼女は本当に無口な、お人形のようだったことを思い出す。随分とお話しできるようになれてちょっと嬉しいかも、なんてね。

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