第25話 作戦会議

「ごめんなさい、私のせいで……」


「ん? なにがだい?」


「成川さんの保証、なくなっちゃいました……」


 俺の隣を半歩下がって歩きながら、水谷さんが視線をうつむかせる。


 彼女の大きな瞳には、うっすらとした涙が浮かんでいた。



 そんな彼女の髪に手を伸ばす。


 ポンポンと軽く撫でて微笑んで見せる。


「気にしなくていいよ。俺の問題に巻き込んだ形だからね」


「でも……」


「ちっぽけな保証よりも、水谷さんに背中を守ってもらう方が良い。俺はそう判断をしたんだよ」


 静かに足を止めて、彼女の瞳を見詰める。


 納得は、していないらしい。


「あの人たちに話した言葉が俺の本心だってこと。俺の判断を信じてくれないかな?」


 下から見上げるように微笑んで見る。


 彼女の視線が、ぷいっ、と横にそれた。


「その言い方はずるいです……。成川さんが間違うはずないじゃないですか」


「こう見えても、学年トップの成績だからね」


 彼女の姿があまりにも可愛らしくて、思わず笑いがもれそうになった。


 もう1度彼女の髪に手を伸ばして、ぐしゃぐしゃにする。


 驚いたように視線をあげる彼女の瞳を見詰めながら、鼻の頭を指先でつつく。


「それよりも、今後の打ち合わせをしようか。予約はどうなったかな?」


 ぼんやりとした表情を見せた水谷さんが、はっ、と首を横に振った。


「あっ、はい。図書館の個室を予約してあります。もう時間を過ぎてるので、すぐに入れますよ」


 手ぐしで髪を整えながら、彼女が手元の時計に視線を向ける。


 ふわりと微笑んで、スイッチに触れた。


「その前に、これを見てくれますか?」


「ん……?」


 俺たちの前にぼんやりとした画面が浮かび上がり、『クエスト一覧』と書かれたページが映し出された。



――――――――――――――


受注可能クエスト


スライムの討伐

期限 1週間 初心者向け



以上 1件です


――――――――――――――


 

「どうしますか? って、聞くまでもなく受けます、よね?」


「そうだね。わざわざ初心者向けって書いてあるし、慣れるためにも受けておいたほうが良いだろうね」


「そうですよね。うん、やっぱり受けるべきですよね」


 うんうん、となぜかしきりにうなずいた水谷さんが、予約のボタンに視線を向ける。


 細い指先が優しく触れると、一瞬で画面が切り替わった。


「あぅっ……」


 水谷さんの口から、謎の悲鳴がもれる。


「ん? どうかしたのかい?」


「いっ、いえ、大丈夫です。えっと、明日は満員でダメみたいなんですが、明後日は若干の空きがあるみたいですよ。明後日で良いですか?」


「そうだね。明日は軽くトレーニングをして、明後日はスライムの討伐、それで良いんじゃないかな?」


「わかりました。……うん、登録完了したみたいです」


 彼女の言葉通り、目の前に浮かぶ画面には、19時より受け付けを開始します、という文字が浮かんでいた。


 あと決めるべきは、この後の予定なのだが、


「今日はこのくらいにしておいて、明日の9時にグラウンド。そんな予定でも良いかな?」


「え? あっ、はい。私はそれで構いませんよ」


 口ではそう言いながらも、彼女は不思議そうに首をかしげていた。


 今日から一緒にトレーニングを始める、そう思っていたのだろう。


「実は、理事長からランクアップを言い渡されていてね。Eランクの部屋に引っ越しをしなきゃいけないんだ」


 学年トップのご褒美だから、と問答無用だった。


 写真を見せてもらった限りでは、そこそこ値段の張りそうなファミリー向けマンションと言った感じだ。


 家賃は無料。

 テレビやパソコンも使い放題。


 今の寮より学校に近い。


 将吾と離れることになるのは寂しくもあるが、アイツもEランクにアップなので、どっちみちお別れだった。


「明日からはちょっとしたアドバイスも出来ると思うからさ。今日だけはごめんね」


「いっ、いえ、そんな。……Eランクへの昇進、おめでとうございます」


「うん、ありがとう」


 あわあわ、とした様子で、彼女がペコリと頭を下げて、微笑んでくれた。

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