第23話 楽しい呼び出し?
「失礼します。お呼びだと伺ったのですが」
「おお、成川くん。待っていたよ」
職員室を経由して校長室に通された俺は、橘理事長の温かい言葉に迎え入れられていた。
天井にはシャンデリアが輝き、高そうなソファーには3人の男たちが座っている。
水谷さんの姿は、側にいない。
彼女と一緒でも良い、と言う話だったのだが、俺の判断で外で待っていて貰うことにした。
「それで、お話と言うのは?」
「それなのだがね……。まぁ、とりあえずは座って貰えるかな?」
「わかりました」
橘さんに促されるまま、ソファーの中央に腰を下ろす。
対面に座る男たちは、真剣な眼差しを浮かべて、俺の仕草を観察してるように見えた。
秘書らしき女性が机の上にコーヒーを添え、中央に座る男が口を開く。
「単刀直入に言おう。ペアを考え直せ」
予想外の言葉に、飲みかけていたコーヒーカップが大きく揺れた。
男の視線はただまっすぐに、俺だけを見詰めている。
彼の瞳には、上に立つ者特有の色がにじんで見えた。
「……どういう意味でしょうか?」
前の職場を思い出してしまうために、あまり良い印象は浮かばない。
思わず冷たくなった俺の声に、橘さんがオホンと咳をした。
「成川くん、この方々は本校のスポンサーなんだ。僕たちは、彼らから融資を受けている立場だよ」
「……なるほど。そうでしたか」
つまりは、この学校の本来の持ち主。
歯向かえば退学も容易。そういうことだろう。
確かにそれらしい貫禄は感じる。
だからといって、このまま引き下がるわけにも行かない。
外で待つ彼女のために。そして俺自身のために。
「そんなお偉い方が、なぜたかが1個人のペアを?」
俺の切り返しに、左右に座る男たちが息をのむ。
「……なるほど。根性はあるようだな」
中央の男が好戦的な笑みを浮かべて、出入り口に視線を向けた。
スカウトの時と同じ楽しげな笑みを浮かべた橘さんが、席を離れてドアの前に立つ。
出口は封鎖した。そういう意味だろうか?
中央の男がソファーから身を乗り出して、1枚の名刺を引っ張り出す。
「防衛省の
渡された名刺には、確かに防衛省の文字が書き込まれていた。
しかしながら、学校の運営は文部科学省の管轄だったように思う。
なぜ防衛省が……?
「なるほど、頭の回転も悪くない。だが、ポーカーフェイスは苦手と見える」
「…………」
浮かび上がる疑問が顔に出ていたのか、中央に座る男――柳が楽しげに笑っていた。
「キミはたかが1個人ではない。それだけの話だよ」
持ち上げたコーヒーカップを鼻の下で揺すり、柳が小さく口を付ける。
「優秀な者は、より優秀な者と組み合わせる。それが国のためになる」
彼の置いたカップが、小さく音を立てていた。
「俺は優秀で、彼女は優秀じゃない。そういうお話ですか?」
「その通りだ。キミは入学テスト以降、1位に君臨し続けている。そのペアが落ちこぼれでは、全体の視聴者数に大きな影響を及ぼすのだよ」
どこまでも威圧するような態度で、柳が口元を緩ませていた。
その態度を見ていると、やはり反感を覚えてしまう。
「柳さんとしては、誰と組むのが良いと思われますか? やはり榎並さんですか?」
「榎並? ……知らん名だな」
「…………」
もれかけた声を飲み込んで、柳の瞳を見詰める。
しきりに首をかしげながら、手元の資料を見返しているあたり、本当に知らないようだ。
「まずは、相場 将吾だな。次点で神原 優香。どちらも優秀な成績を収めている。キミとの関係も良好だと聞いているが?」
「えぇ、まぁ。優秀な点には同意しますし、仲良くさせて頂いてますよ」
ルームメイトの将吾はいわずもがな、クラスのムードメーカーで頭の良い神原さんは素直に良い人だと思う。
だがやはり、柳は所詮その程度だ。
彼の頭の中には資料で見た情報しかないのだろう。
もしかすると、座学を含めた点数しか見ていないのかも知れない。
「だとしても、やはり俺は、水谷さん――水谷 結花が、クラスメイトの中では1番優秀だと思いますよ。無論、こんな俺よりもはるかに」
それが俺の本音だった。
無論、将吾が悪いわけじゃない。
それ以上に、彼女の姿が光って見えた。
「ふん、何を馬鹿なことを。これを見たまえ。座学は最下位、実技は最低限の"力”すら感知できず。担任が付けた総合点は、29位を大きく引き離しての最下位だ」
「えぇ、現時点ではそうでしょう。宇堂先生も現状を査定するのであれば、そう書くしかない」
「……なにが言いたい?」
「あなたが見ている数字ではわからない事が沢山ある。そういう話ですよ」
柔らかなソファーに身を沈めて、ニヤリと笑って見せた。
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