第14話 個人ランキングの結果

 合計18時間ほどゴロゴロと自由な時間を過ごした翌日のこと。


「あん? なんだよオッサン、今日もスーツで行くのか?」


「あー、まぁな。なんかもう、スーツにサングラスが、俺、って感じになってると思わないか?」


「いやまぁ、オッサンがそれでいいなら良いんだけどさ」


 スーツに身を包み、橘さんから貰ったサングラスを身につけた俺は、将吾と共にグラウンドに来ていた。


 周囲には昨日と同じように、美少女やイケメンたちの姿がある。


「あっ、スーグラさんだ! おっはよー!」


「うぃっす! 今日もスーツが決まってるっすね!」

 

 昨日とは打って変わって、今日はクラスメイトたちが楽しげに話しかけてくれる。


 その姿が素直に嬉しかった。


「スーグラさん、スーグラさん! 昨日の個人ランキング見ました?」


「個人ランキング?」


「あっ、見てないんですね。動画の下の方に投票出来る場所があるんです。昨日はスーグラさんが1位でしたよ」


 気が付かなかったが、そういう物もあったのか。


「そうなんだ。教えてくれてありがとう」


「ぃ、ぃぇ……」


 俺が優しく微笑むと、なぜか少女が瞳に怯えを浮かべて後ずさった。


 その視線は、俺の背後に向けられている。


 周囲の話し声が、波を引くように消えていった。


 振り向いた先に見えたのは、担任にデモンストレーションを仕掛けたあの少女。


「あー、これはどうも」


 鋭い瞳で俺を睨みながら、ゆっくりとこちらに近付いていた。


 体ごと振り向いて、彼女を正面に見据える。


「榎並さん、だったかな? 俺になにか?」


「えぇ、あなたに言いたいことがあって」


 胸の前で腕を組んだ彼女が、左足に体重をかけて立ち止まった。


 身長は俺よりも少し低い程度。


 それだと言うのに、圧倒されるようなプレッシャーを感じる。


 彼女が指先を小さく動かしただけで、思わず視線で追いかけてしまう。


「あなたのような人がいると、迷惑なの。ずっと今のままなら、その頭を撃ち抜くわ」


 物騒な言葉と共に、彼女が胸の前で組んでいた腕を組み替えた。


 俺を見据える視線が、より一層の鋭さを増していく。


 彼女の手の中に、宇堂先生を襲った時に使った銃はない。


 油断は出来ないが、今すぐどうこうするつもりはないのだろう。


「それは申し訳なかったね。忠告に感謝して、精一杯の努力をさせてもらうよ」


 背中を伝う冷や汗を笑顔で覆い隠して、出来るだけの優しい声音で微笑んでみる。


 真っ直ぐに見上げる彼女の淡い瞳には、冷たい色の怒りがにじんでいるように見えた。


「……2度目はないわ」


 もう1度強い殺気を撒き散らして、榎並さんがポニーテールをひるがえす。


 左右に揺れるポニーテールの先では、クラスメイトたちが気まずそうに進路を開けていた。


 出来上がった一本道を進み、彼女がゆっくりと離れていく。


「あーぁ、殺気立ってるねー」


 入れ替わるように近付いてきた将吾が、隣に並んで肩をすくめて見せた。


「確かに昨日はオッサンだけが目立ってたからな。いやはや、人気者はつらいねー」


 くくくっ、と声を漏らしながら将吾が彼女の姿を流し見る。


 サッカーゴールの前を居場所に決めたのか、ポストに背を預けて腕を組み、彼女は未だに俺を睨み続けていた。


「銃で撃たれないのなら、何だっていいさ」


 ふぅー、と肩をすくめて、彼女から視線をそらす。


 居心地は悪いが、俺に出来ることなど何もないだろう。


 同じクラスのメンバーとして、背後から突然撃たれることはないと思いたい。


「高校生相手に脅されて現状を曲げるのは、大人としてどうかと思うからな。可愛らしい子の嫉妬くらい、正面から受け止めるさ」


「おっ、かっこいいね、オッサン」


 隠れて冷や汗を拭う俺の肩を将吾が楽しそうに叩いていた。


 そうこうしているうちに約束の時間となり、宇堂先生が校舎の影から姿を見せる。


「授業をはじめるぞ。全員で隊列を作れ」


 その背後にはなぜか、全身を迷彩服でキメた2人の男がいた。


 サバイバルゲームマニア? 自衛隊?


 そう思いたくなるような出で立ちの2人だった。


 宇堂先生も含めた全員が、体を包めそうなほど大きな袋を背負っている。


「今日は基礎訓練だ。まずは俺が手本を見せる」


 宇堂先生が背負っていた袋の口を解いて、中に手を入れる。


 引き抜かれたのは、カバーに入れられた1本のナイフ。


「これは国からの支給物だ。全員に配るが、取り扱いには細心の注意が必要になる」


 そう声を飛ばしながら、カバーを外して中身を引き抜いた。

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