第12話 俺らのニュース?

 缶を握り、将吾が机の上に目を向ける。


「うわっ、すげー買ってきたな。オッサンってあれ? 燃費悪い系男子?」


「いやいや、化物から助けてくれたお礼だよ。その名目で昼間から飲もうかと思ってな」


 自分用に買ってきたビール缶を持ち上げて笑って見せた。


 発泡酒でも第3のビールでもない、お高いやつだ。


 高校の施設に酒があっていいのか? と思わなくもないが、注文したら普通に出てきた。


 まぁ、理事長があの人だもんな。

 ってことで納得する自分もいる。


 ベッドの上から見下ろしていた将吾が、呆れたように肩をすくめていた。


「ほんとにオッサンだな。まぁいいや、付き合ってやるよ」


 ニヤリと笑って降りて来てくれる。


 金髪のイケメンと言えど、相手は高校生男子。

 揚げ物に炭酸の組み合わせは、最高に好きなのだろう。


「それじゃ、俺たちの出会いに」


「「かんぱーい」」


 冷えたビールとジュースの缶を大胆に叩き合う。


 可愛い少女にもらった手作りクッキーをサクリとかみしめて、ビールを流し込む。


「ぷはぁー……」


 窓から差し込む光、静かな空調の音、これ以上ない背徳感。


 昼間から飲むビールは、最高に幸せだった。




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 




 ビールが1本、2本と空になり、ふわりと酔いが回ってくる。


 俺は3本目を手にとって、カシュっと飲み口を開けた。


「いや、本当にさー、上司が最悪でな。社長も最悪でな。クライアントも……」


「あー、うんうん、わかったよ。本当に辛かったんだなオッサン」


「そうかー、わかってくれるかー。今は本当に幸せだー」


 意識も感覚も正常だが、今までため込んでいた物が、知らないうちに溢れ出したらしい。


 仕事以外で飲んだのもひさしぶりだと思う。


 残業と持ち帰り仕事に追われて、飲む暇すらなかったからな。


「オッサン、今日はもう飲むなよ? 次からはこっちのジュースにしとけ、な。悪いことは言わないからさ」


「お? そうか? ノンアルでもこのまま愚痴り続けるぞ?」


「うわ、めんどくせ。ならもうドンドン飲んで酔いつぶれてしまえ」


 小さく肩を震わせながら、将吾が唐揚げを口いっぱいに頬張り、炭酸ジュースを流し込む。


 山盛りだった揚げ物が、見る見るうちになくなっていく。


 さすがはイケメン高校生。翌日の胃もたれに対する恐れは、欠片もないらしい。


 それにしてもコイツ、うまそうに食うよな。


「唐揚げ追加するか? 今日はお礼だからな、気の済むまで食べていいぞ」


「いやいいよ。他にも食うもん大量にあるし」


 3本目のジュースをカシュっと開いて、将吾がポテチの袋に手を着けた。


 パリパリと噛み締めて、そういえばさー、とポケットからスマホを引っ張り出す。


「俺らのニュース見た?」


「ニュース?」


 首を傾げる俺に、将吾が得意げな顔で画面を掲げてくれた。


 画面に映っていたのは、ヤホーニュースのトップページ。


『現代の冒険者始動! 国の方針に賛否の声』


 そんな文字が踊っていた。



 日本独自の技術が公となり、高校生が主体になって世界にアピールを始めた。


 いずれは日本のエンターテインメントを背負うと共に、財政の助けになるだろう。



 そんな内容の記事だった。


 入学式の写真が大きく掲載され、スーツとサングラスを身につけた俺の姿も映っている。


「予想以上に盛り上がってないか?」


「いやいや、序の口でしょーよ。それに、ほれ、こっちの方がやばいぜ?」


 将吾が指差した先にあったのは、『国営 冒険者@TV』と書かれたリンク文字。


 指先が触れて画面が切り替わり、アップされた動画の一覧が見えてきた。


『1年2組 入学祝のテスト VSティラノサウルス』


 そんなタイトルが俺の意識をひきつける。


「俺らのやつ。すげー人気みたいだぜ?」


「人気?」


 将吾の言葉通り、閲覧数ランキングでは1組と3組を抑えて、堂々の1位だった。


 将吾の指先が文字にふれ、軽快な音楽が流れ出す。


 冒険者@TVのロゴに続いて映し出されたのは、宇堂先生が投げたビー玉のアップ。


『始まりのチャイムだ』


 先生の渋い声と同時に、視聴者からの書き込みも画面に流れていた。

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