episode5 出会い
「随分とカーリ様と仲が宜しいのですのね。
心ここに在らずと言った様子で空を見上げるレイオスに声をかけたのは、この王国の第四王女であるラティス。
ラティスは頬を少し膨らませて、拗ねたようでレイオスの服の裾を掴み、上目遣いでレイオスの瞳をじっと見つめていた。
「おや、ラティス様。お久しぶりです。」
「お久しぶりですレイオス様。この前、買い物に行く時にお会いした以来ですね」
「ええ、そうですね。」
極月(十二月)某日。
レイオスは公爵家主催の舞踏会へと足を運んでいた。
普段は学業を方便に参加を断っているのだが、今回は主催者側から直々に名指しで指名が入ったため、断るわけにはいかず、仕方なくといった形で参加している。
レイオスは一通り挨拶を済ませた後、いつもの訓練場と遜色ないほどの大きな会場の外にあるバルコニーで手すりにもたれかかり、グラスに入った果汁をチビチビと飲んでいた。
その時に、遅れてやってきたラティスがレイオスを発見して声をかけたというわけだ。
「昨日も一緒にいるところを見かけましたが…」
「毎日付きまとわれて大変です。」
「そんな事を言って、いつも模擬戦のお相手をされてるではありませんか」
「ご存知だったのですか?」
「将来、私と生涯を共にする殿方の事はなんでも知っております」
意外そうな顔を浮かべるレイオスを見て、ラティスは冗談目かしく笑う。
「それは怖い。夜遊びも満足に出来そうにありませんね。」
「あら、夜遊びをする予定でも?」
「いえいえ、滅相もありません。」
会場のバルコニーで二人、少年少女が楽しく談笑している姿は会場でもとても目立っていた。
普通ならば目立つことは無いだろう。だが、この二人はあるいみでは、今、貴族界の子供の中で一番注目を集める二人と言える。
レイオスは二年前、十歳の時にフィエルダー家を継いだ王国上始まって以来の神童と名高い。
既に戦場の最前線で結果をいくつも残しており、剣術や魔術の才能は圧倒的だと噂だ。
その上、会場の照明を反射し、キラキラと光る艶のある黒髪。
キツい印象を与えるが、引き込まれるかのような綺麗な瑠璃色をした瞳。
どこかカリスマ性を感じさせる、人を引きつけるようなオーラ。
大人びた雰囲気だが、歳相応の幼さを残す顔もレイオスの魅力を引き上げている。
ラティスもレイオスに負けじと様々な長けた能力を持っている。
戦闘に関しては素人と言ってもいいが、戦闘や国政に関する知識や、他人との交渉術や話術、さらにそれを実行する手腕を持っていた。
第四王女だとしても、王家の血を引く正当な後継者。
レイオスも、ラティスの言葉や表情、仕草一つに繊細な注意を払うほど、ラティスは側にいて気が抜けない相手である。
ラティスが目立つ理由は他にもある。
整った容姿もそうだが、王妃譲りの背中まで流れる淡い桃色の髪に同色の優しい瞳。
誰に対しても優しく、謙虚で、子供らしさもあり、なによりも聖母のような笑顔に既に何人もの男性が骨抜きにされ、国王に結婚の話を申し込んだことは有名だ。
この二人が会場のバルコニーとはいえど、並んで座っていれば自然と視線を集めるのは仕方ないことだろう。
「やはり、レイオス様は変わりましたね」
ふと、ラティスの顔が暗く曇る。
「そうですか?」
「ええ、そうです。いつも他人と距離を置き、話すのは最低限。舞踏会や披露宴にも顔を出さず、ずっと剣や魔術の特訓をしてましたから」
「……。」
「今も確かに他人との距離はありますが、その距離は前よりも近くなっています。私の知らないレイオス様が増えていくようで…最近、寂しく感じていました…」
「ラティス様は随分と演技が上手いのですね。先ほどからチラチラと、流行りの演劇のペアチケットが見えるのですが?」
「あら、なんのことでしょうか?」
先ほどまでの暗い表情から一変、コロッといつものように優しい笑みを浮かべたラティスに変わっていた。
「丁度、入学式の日の夕方のペアチケットが取れたものですから」
「わかりました、その日は空けておきます。」
「楽しみにしていますね」
チケットを口元にあて、嬉しそうに微笑むラティスの誘いを断れるはずもなく、レイオスは素直に将来の伴侶に従うのだった。
ラティスはその言葉を最後に、スカートを両手で少し摘み、綺麗にお辞儀すると会場中心へと戻っていった。
「丸くなったか…確かにそうかもな。」
レイオスはグラスの残りを一気に飲み干すと、窓から見える星々に再び視線を移しながら、カーリと初めて模擬戦をした時のことを思い出した。
☆
入学してから二日後、初めての実習。
レイオス自身、どこを選択しても良かったのだが、机に
【総合戦闘】を選択したのはレイオスを含めて約百二十人。
中等部一年の専用訓練場である第九訓練場で、動きやすい服…言うところの体操服を着用した生徒達が規則正しく整列して、目の前に立つ教師二人に視線を集めていた。
「よし、全員揃ってるな…じゃあ模擬戦やるか!」
「ちょっと!初日から模擬戦だなんて!」
「いいんだ!これくらい自由な方がな!ガハハハハ!!!」
「はぁ…もう、貴方は昔から…」
開口一番告げられた『模擬戦』という言葉に、【総合戦闘】を選択した生徒達はポカンと大きな口を開けて呆けていた。
中等部一年の総合戦闘担当は元第一級冒険者と呼ばれるベテラン冒険者のレックスとサラ。
二人共同じパーティーに所属しており、顔なじみでとても仲がいい。
偶然、初心者冒険者の指導をしてたところを学園長にスカウトされ、学園に来たそうだ。
ちなみにこの二人、付き合ってるわけではない。お互いにパートナーがいて、子供もいる。
レックスは筋肉マッチョな暑苦しい男で、サラは細身のクールな女性だ。
「模擬戦の相手は今、隣にいる奴とやってもらう!武器は各自、訓練場表にある武器庫の訓練用を好きに使っていいぞ!次の小鐘から開始するから、それまで各自、準備するよーに!」
爽やかに笑いながら唐突な事を言うレックスの合図に、不安そうな顔を残しながらも立ち上がり、武器庫へと向かっていく。
レイオスも武器庫に向かおうとすると、隣から声がかかる。
「俺はカーリ!よろしくな!」
ニコリと言うよりはニカッと爽やかな笑顔を浮かべ、レイオスに握手を求めるカーリ。
だが、レイオスはカーリに見向きもせず、武器庫へと歩いていく。
「お、おい!」
手を差し出したまま、その場に置いていかれるカーリ。大声を出したことでかなり目立っているが、カーリは慌ててレイオスの後を追いかける。
「なんで無視するんだよ!」
カーリは後ろから追いかけてレイオスの肩を掴むと、レイオスの歩みを無理矢理止める。
「なんだ。」
「っ…」
カーリが見たのは、振り向いたレイオスの静かな瑠璃色の瞳。
自分を見ているのに、自分を見ていない。
そこにあるのは自分への無関心。
生まれて初めて向けられる視線に、カーリは戸惑っていた。
「な、なんで無視をしたんだ!」
「気づいてなかっただけだ。」
「気づいてないわけないだろ!」
「煩わしい。離せ。」
カーリからの言い分をレイオスは軽く受け流すと、掴まれた肩を振り払うと再び歩き出す。
「なんのつもりだ?」
カーリは歩きだしたレイオスの前に飛び出て、精一杯腕を広げ、通せんぼの形でレイオスの行く手を阻む。
「無視はよくないんだぞ!」
「だから気づいてないだけだと言っているだろ。」
「ぐぬぬ…!」
どうやら、カーリは自分が納得できる理由をレイオスから聞くまで、レイオスの前から一歩も動く気は無いようだ。
レイオスを見ていると忘れるが、カーリも十二歳とまだ子供で精神的にも未熟。
強情になってしまったら、譲れない。そんな気持ちがカーリにはあるのだろう。
「どけ。」
「どかない!」
「邪魔だ。」
「邪魔じゃない!」
カーリの言い分は無茶苦茶だが、カーリ自身もこれ以上引くことはできないくらいところまで来ていた。
その時、今まで興味の無さそうにレイオスの目がスッと細められる。
「最後だ。どけ。」
「どかない!」
「そうか…。」
唐突に右腕を挙げるレイオス。
右手に魔力が集中し、淡い光が現れる。
「おっと、そこまでそこまで」
「チッ…」
二人の間に体を割り込むように入ってきたのは、揉めている生徒がいると聞いて駆けつけたレックスだ。
レイオスは舌打ちをし、挙げていた手を降ろすと、二人を避けるように武器庫へ向かう。
「危なかったなカーリ学生!」
「え?」
「今、レイオス学生は君に殺傷能力こそないが、攻撃系の魔術を使おうとしていた。私が止めなければ、かなり危なかったぞ!」
「……」
にこやかに話していたレックスの表情が鋭くなる。
「レイオス学生は貴族だ。それもあの若さで旧家であるフィエルダー伯爵家を継いでいる当主。下手に突っかかれば…君、死ぬぞ」
「っ…」
「本気を出した彼に俺が勝てるとは限らない。いや、勝てないだろう。大事な生徒を死なせるわけにはいかないからな、先に忠告しておく、彼を怒らせるのはやめておけ。わかったな?」
レックスの話が終わるまで、カーリは静かに下を向いたまま、訓練場の外へと走り出すカーリ。
「本当はレイオス学生を注意するべきなのだが…」
訓練場を出ていくカーリを見て、レックスは悔しそうに呟いた。
☆
「レイオス学生の行動に全て目を瞑れと?」
入学式の始まる前、ヒカルはレックスを含めた教師全員を前に新入生を迎えるオリエンテーションを行っていた。
滞りなく行われたオリエンテーションの最後で、ヒカルから告げられた一人の生徒に関することだった。
「ええ、行動、発言、何をしても黙認してください。」
「それは彼が貴族だからですか?」
「違います。理由は言えませんが、彼の身分は何も関係ないとだけ言っておきます」
いつになく真剣な表情で語るヒカルに、教師達はヒカルの馬鹿げた発言が、間違いではないと感じていた。
「分かりました。ですが、もしレイオス学生が他の生徒に何か危害を加える場合は止めさせてもらいます」
承諾はするが納得のいっていないレックス。
レックスは、ヒカルを子供の頃から心から尊敬しており、普段からヒカルの頼みは絶対に断らない。
だが、今のレックスは何があっても引かないといった強気でヒカルに向かっていた。
「……わかりました。その場合のみ例外を認めましょう」
少しの沈黙の後、彼ら教師達の協力無しでは事を進められないため、致し方ないと言ったように無く無く認めるヒカル。
入学式の前から、教師達の間でレイオスという学生に対して警戒と不穏な空気が流れていた。
☆
「よし、じゃあ模擬戦をやっていくぞ」
「怪我をしても私が回復させてあげるから、心配しないでね」
「じゃあ最初は…レイオス学生とカーリ学生の二人だな」
レックスに指名されたレイオスとカーリは、訓練場の真ん中まで移動する。
他の生徒は、二階の観客席へと移動する。
「双方、準備はいいか?」
レックスの合図に二人が武器を構える。
使用武器はレイオス、カーリともにスタンダードな両刃の木剣であるが、二人の構えは異なっていた。
レイオスは半身で剣を右手に構え、左手を剣を握っている右手首に添え、剣先を相手へと向けるという自己流の構えだ。
一方のカーリは大雑把に両手で剣を持ち、お腹のあたりで構えている。
他の生徒達も周りから見ていて、カーリは素人で、レイオスの方が剣に精通しているとわかる。
「はじめ!」
レックスの開始の合図が鳴るも、動こうとしない二人。
「どうした。かかってこないのか?」
「お前こそ」
「ハッ!笑わせるな。先手をお前にくれてやってるんだ。」
「っ…行くぞ!」
レイオスの舐めきった表情に物言い。明らかな挑発だが、カーリは頭に血が上り、挑発に乗せられてしまう。
地面を思い切り蹴り上げ、真っ直ぐとレイオスに突っ込んでいくカーリ。
レイオスは意外そうに片眉を少し上げるも、すぐに直り、カーリの攻撃に身構える。
「おりゃぁぁ!!!」
掛け声と共に、レイオスの頭へと真っ直ぐ振り下ろされるカーリの剣。
それを剣を使わず、左手で木剣の刃を握りしめて受け止めるレイオスに目を見開いて驚くカーリ。
「軽い。」
レイオスは、掴んだ剣をカーリごと横に投げ飛ばす。
「ぐっ…!」
地面を勢いよく転がるも、途中で勢いを緩和させて、立ち上がるカーリ。
再び、レイオスへ斬り掛かろうとする。
「ここは学園だ。自分の弱さを存分に学べ。」
レイオスのその言葉をカーリが耳にした瞬間、剣を握っていた両手から両腕。両腕から全身へと衝撃が走り、後ろに吹き飛ばされる。
レイオスがカーリの剣に合わせ、思い切り剣を振り抜いた結果だ。
カーリが地面に尻餅を付いたと同時に、カーリは後ろで自分の木剣が地面に落ちる音を耳にすると、ようやく自分が何をされたかを悟る。
「拾え。まだ時間はあるぞ。」
いつの間にか先程までカーリがいた場所にいるレイオス。
カーリは一瞬、悔しそうに奥歯を噛み締めるが、すぐに後ろの木剣を拾いうと、一旦、レイオスから距離を取って構え直す。
「それで距離を取ったつもりか?」
「え…?」
一瞬でカーリの後ろへ移動したレイオスが、カーリの背中を蹴飛ばす。
後ろから再び激しい衝撃に襲われ、吹き飛ばされるカーリ。いきなりのことで、受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
「がはっ…!ぐふっ…」
カーリは背中を強く叩きつけられたことで、肺の中の空気が全て吐き出され、そのまま地面を転がる。
「っ…うぅ…」
「まだだ。」
「うぐっ…!」
霞む視界の中、カーリは、天井を見ながら嗚咽を漏らす。
だが、レイオスの攻撃は終わらない。追い討ちをかけるようにカーリのの胸に足を乗せ、体重をかけるレイオス。レイオスが体重をかける度にミシミシと音をたてるカーリの肋骨。
「ぅ…ぐ…ぁぁ…」
味わったことのない痛みに、カーリは声にもならない悲鳴をあげ、顔は涙や、途中ぶつけた時に出た鼻血でグチャグチャになっている。
「【ヒール】」
レイオスは初級の回復魔術であるヒールを唱え、カーリの体の傷を癒すと、カーリから離れていく。
「ぁ…え?」
不思議そうに首だけを動かしてレイオスの方を見ると、レイオスはカーリの木剣がある場所まで歩き、木剣を拾うと、カーリの前に投げ捨てる。
「おい、そこまでに…」
「まだ…まだやれる!」
あまりの実力差に止めようと二人の間に入ろうとするレックスに対して、その声を振り切ったのは意外にもカーリだった。
投げられた剣に手を伸ばし取り、剣を支えにして立ち上がるカーリ。
見ている教師二人もカーリの強い意志を見て、止めるべきか迷っていた。
「まだ俺は…やれる!」
カーリの体から目視できるほど色濃い金色のオーラが湧き出る。
「負けるもんかあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次の瞬間、姿が
「チッ!」
初めてレイオスの顔に焦りの表情が浮かぶ。
レイオスに向かって右へ左へ繰り出されるカーリの高速の剣。
レイオスはそれを自身の剣を使って受け止めるも、徐々に押され始める。
「逃がすかァ!!」
一瞬の隙をついて振り下ろされるカーリの剣。
レイオスは振り下ろされる剣を一歩下がり、紙一重で躱す。流石にまずいと思ったのか、カーリとの距離を置くため、後ろに下がるも、すぐに距離を縮められてしまう。
(今の俺よりもパワー、スピードが上。全体的に体が強化されているのか?このままじゃ、押し切られる…!)
内心に焦りを感じながら、レイオスがカーリを分析しようとするが、金色のオーラを纏ったカーリの剣を前に打ち切られる。
横薙ぎされたカーリの剣を素早く察知し、飛び上がるレイオス。
その後を追って、カーリも飛び上がる。
先に飛び上がったレイオスは、まだ上昇中のカーリに向けて掌を向けると、魔術陣を展開する。
「【
殺傷能力の低い、拡散性の微弱な雷を放つ麻痺系の魔術。
それを正面から受けたカーリは空中で体の自由が効かなくなり、地面へと落ちていく。
「…のるな…」
カーリが地面に落下したと同時にレイオスの胸のあたりから通常の魔術陣よりも複雑な魔術陣が五枚出現する。
「調子に乗るなよ!平民風情が!!」
レイオスは怒気を含んだ声で叫ぶと、目の前にある魔術陣の中で、手前にある、五枚の魔術陣の中でも一番小さな魔術陣を握りつぶす。
甲高いガラスの割れる様な音と共にレイオスの体から黒い靄が立ち上る。
訓練場にいる生徒達は、レイオスに対してカーリを甚振る姿を見て恐怖、というよりは自分達との力の差を見せつけられていた気分だった。
だが、訓練場に響き渡るようなレイオスの怒号と共に黒い靄を纏ったレイオスを見て、心臓を握りつぶされるような圧迫感と、本能的にこの場から逃げ出したくなるような危機感を覚えていた。
軽く指を鳴らすレイオス。
空中に数十の魔術陣が不規則に浮かび上がる。
レイオスは、落下していく自分の足元に配置した魔術陣の上に乗ると、次の瞬間、レイオスの姿が掻き消える。
「あぶっ!」
カーリはギリギリのタイミングで麻痺が解け、地面を転がることで紙一重でレイオスの攻撃を躱す。
「やはり、模造品では駄目か…。」
レイオスが地面に突き立てた剣を引き抜くと、木製の剣にヒビがはいり、刃の半ばの所で折れてしまう。
レイオスは気だるそうに木剣を後ろに放り投げると、カーリの元へ歩みを進める。
「はぁ、はぁ…」
カーリは自分の危機的状況に冷や汗を流しながら立ち上がると、レイオスから距離を取るように、姿が霞むようなスピードで訓練場の中を逃げ回る。
「遅い。」
レイオスは目で追えないような速さで、先程空中に配置した魔術陣を足場に、最短距離で逃げ回るカーリとの距離を詰めていく。
「がはっ…!」
遂には後ろを取られ、レイオスから背中に蹴りをもらうカーリ。
カーリは崩れた体勢をなんとか立て直し、レイオスの配置した魔術陣を蹴り、逃げようとするも…
「なっ!?」
魔術陣を蹴ろうとした瞬間、魔術陣が薄れ、魔術陣が空気に溶けるかのように消える。
その勢いで訓練場の壁に激突するカーリ。激しい音ともに訓練場全体が少し揺れる。
「魔術陣を配置できるのなら、消すのも自由に決まっているだろ、馬鹿が。」
カーリへとゆっくりと近づいていくレイオス。
カーリの体から出ていた金色のオーラもいつのまにか消えている。
「そこまで!そこまでだ!これ以上の戦闘は認められない!」
二人の間に入るレックス。
レイオスは再び指を鳴らすと、配置してあった多くの魔術陣を消し、レックスを無視してカーリに近づく。
「おい、ド平民。」
「ん…ぁ…?」
薄れ行く意識の中、カーリはレイオスの方に視線を向ける。
「平民の分際で俺にギアスを一つ解放させたことは評価してやる。が、剣を扱う技術も咄嗟の判断力も魔術の才能も何もかもが足りてない無い。貴様は俺を敵視しているようだが、貴様は一生俺には勝てない。それだけ言っておく。」
カーリに言い残すと、踵を返し、訓練場を後にしようとするレイオス。
「カーリ!カーリ!」
一階の入口から麻色のローブをかぶった少女、ロゼがカーリの元へと駆けつけると、カーリの名前を何度も呼ぶ。
「気絶している。頭を強く打っているからな。あまり揺らすのはオススメしない。」
レイオスの言葉を聞くとキッとレイオスをローブの中から睨みつけるロゼ。
「なんでここまでしたんですか!」
レイオスは睨みつけるロゼを一瞥いちべつすると、ロゼを無視して外側へと歩いていく
「サラ、俺はこいつを医務室に連れていく。続きは任せた」
「は、はい!」
レックスはカーリを動かさないように細心の注意はらっておぶると、訓練場を後にする。
「身体能力そのものを強化する魔術…少し調べてみる必要があるな。」
そう呟き、訓練場を後にしたレイオスは、
「そう言えば、まだ実習終わってなかったな…。」
まだ実習が終わってない事を思い出し、訓練場の観客席へと気配を隠しながら戻ったそうだ。
演出にこだわる一方、ところどころ抜けているレイオスであった。
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