第36話  ひとつの結末

ヒロイン絡みのサポートを頑張っていたら、暦はいつの間にか3月。

ゲームはというと、卒業式に告白イベント、そしてエンディングとなる。

後半からは完全に別ゲーとなっていた本作も、間もなく終わりを迎えようとしていた。


ちなみにヒロインの攻略条件だが、全てを満たしてしまっている。

能力値も好感度もマックス。

アナログな指標なら針が振りきれてるほどに。


となると、迎えるのはハーレムエンドか。

……嫌だなぁ、5人の暴走嫁と暮らすなんて勘弁だ。

面倒だがここでも一工夫やっておくか。


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卒業式はつつがなく終わり、生徒たちは各所へ散っていった。

教室で、廊下で、部室棟で別れを惜しむ姿が散見される。

オレはというと、職員室側に居る。

目の前には大きく貼り出された紙。

3年生の進路がビッシリと書き込まれたものだ。



「ミナコは地元の国立大学か……頑張ったなぁ」



後に聞いた話によると補欠による滑り込み合格らしい。

それでも十分だと思う。

浪人確実と踏んでいたオレは、アイツのための予備校とかピックアップしていたからな。

徒労に終わっても嬉しいという数少ないケースだろう。



「リリカは就職、まぁウチにだろう。ルイズはやっぱり音大か」



ルイズは既にメジャーレーベルと契約を済ませており、さらにはツアーチケットやCDの売れ行きは絶好調だ。

サクッと学費分を稼いでしまったらしく、際どい時期まで悩んでいたっけ。

その結果が進学か。

とりあえず応援しとくか。



「メルは小説家になるのか。この一覧で見ると浮いてんな」



アイツ自身執筆の世界にのめり込んでしまったようだ。

オレが指導して以来、いつ見てもスマホをモチモチいじくっていたな。

まぁガチの通り魔よりは遥かに健康的だ。

ぜひともそのまま突き進んで欲しいと思う。


ちなみにオレは就職、というか会社経営だ。

あれからも業績は史上類を見ない程に伸び、今では日本に限らず世界中から依頼が飛び込むようになっていた。

従業員2人しかいないのに、とんだブラック企業になっちまった。

早いところリリカに参入してほしいもんだ。



「あ、こんな所に居たんだ! リンタロー!」



オレが掲示物相手に独り言を呟いていると、遠くから声をかけられた。

ミナコだ。

卒業証書や色紙を片手に、足をもつれさせながら走ってきた。



「おうミナコ。何か用か?」


「うん、そう。今日はこのあと暇?」


「まぁな。やる事は何も無いぞ」


「じゃあ……さ。このあと噴水の前に来てくれない?」


「噴水って、中庭の? 別にいいけど」


「ありがとう。先行って待ってるからね」



ミナコが階段を駆け降りて行った。

途中で段差を踏み外しながら。

しかも2回。


さっき話に出た『中庭の噴水』だが、ただのオブジェではない。

そこで結ばれたカップルは永遠に結ばれるとか、在り来たりな噂があるのだ。

気持ちが通じあったら男子はネクタイ、女子はリボンを相手に渡すルールらしい。

可愛らしいというか何というか。

無人島で飢餓状態の暮らしを送った身上から見ると、おママゴトみたいに感じてしまう。

まぁ、ちゃんとやるけどさ。



「来てくれたんだね、リンタロー……」



ミナコが緊張した面持ちで待ち受けていた。

そんな表情も珍しいなと思う。

オレはひとまずネクタイを締めたままで話を進めた。



「いきなり呼び出してごめんね。でも、どうしても気持ちを伝えたかったから……」



ミナコは懐をまさぐった。

そして……。



「お願いします、私をお嫁さんにしてください!」


「お、お嫁?」



差し出されたのはリボンじゃ無い。

婚姻届だ。

しかもご丁寧に片方記入と捺印済みのものが。



「結構ってお前……これは何の真似だ?」


「あれ、知らなかった? この前アップデートがあったでしょ? それで告白イベントの時は婚姻届を使う事になって……」


「言葉のチョイスには気をつけろぉ!」



オレが懐かしさすら感じるツッコミを響かせると、別のヒロインが現れた。

アスカだ。

もちろんその手には婚姻届け、そして退学願がある。



「リンタロさん。ミナコちゃんじゃなくて私と結婚してくださいッス! そんでもって2人でサッカー選手になって、次のW杯を優勝するッスよ!」


「ちょぉっと良いかしら? ごめんあそばせ」


「うひっ。リリカ先輩!?」


「リンタロウ。こんな小娘じゃなくて、ワタクシを選んでもらえるわよね?」



アスカに割り込んで来たのはリリカだ。

その手にはやはり婚姻届、さらに雇用契約書がある。

こんな提出の仕方なんて世界に類を見ないだろうな。



「お待ちなさい。先生は私のものよ。私と一緒に世界を焼き芋塗れにするの」


「師匠! 師匠! どうかこのメルの願いを聞いてください!」


「やっぱりお前らも来たか……。予想はしてたよ」


「リンタロウ先生。私を選んでちょうだい。免許皆伝と言われたけども、まだまだあなたから学びたいの」


「師匠、どうかお願いです。マリスケさんと付き合ってください!」


「あのなぁお前ら……おいメル。今何て言った?!」


「私は本気です! どうかマリスケさんをお願いします!」


「念を押すなこの野郎!」



想定した通りの混沌が顕在化した。

こうなったら落としどころとなるパターンは多くないだろう。

仕方なく、チート能力全開の戦友を呼び寄せた。



「マリスケ。やっぱりこうなった。実行してくれ」


「了解でござる。まさかあのアニメと同じような状況が生み出せようとは、感激でござる!」


「そういうのは後にしてくれ。収拾がつかなくなりそうだ」


「失敬。ではやるでござるよ」



エルイーザ人形の両目が不気味に点滅する。

そして間をおかずに、オレたちのステータスに変化が与えられた。

それは血縁関係。

今この瞬間に、オレと5人のヒロインたちは血を分けた兄妹となったのだ。


ちなみにこの解決方法のヒントはマリスケからだった。

アイツが愛して止まないアニメのひとつに「ろり子魔女り娘(こ)」という作品があるが、登場するヒロイン全てが実の妹というアレな世界観である。

その痛々しい発想をなぞるのは少しだけ嫌気がさすが、重婚の五重奏(クインテット)よりはマシだろう。



「え、え、何これ? 妹って?」


「どうしたものかしら。いきなり血縁関係が……?」


「そういう事だから、みんな。悪いが、実の妹とは結婚できねえ」


「ハァ!?」


「じゃあみんな。元気でなー。ああ、リリカの契約書は貰っとくぞ。週明け月曜から会社来てくれ」


「ちょっと待ちなさい! その終わり方はあんまりではなくって?」


「リンタロー酷いよぉ! 私頑張って大学生になったんだよ? もうアホの子じゃないでしょ!?」



ジリジリと迫るヒロイン勢。

その顔は怒りに満ち溢れている。

それも無理ないとは思いつつ、オレは逃げるのである。

多くのものを置き去りにして。



「マリスケ、ゲーセン行こうぜ!」


「了解でござる! また格ゲーやるでござるか?」


「おうよ。今日こそはお前をブチのめすからな」


「ふふ。何度やっても拙者の勝ちでござるよ」


「コラァー! 待ちなさーい!」


「やべえ追ってくる。アイツらも結構早いな」


「必死でござるからなぁ。モテモテで羨ましい限りでありんす」


「待てぇーー!」



見慣れた通学路を逃げるオレとマリスケ。

それを追うヒロインたち。

こうやってバカ騒ぎしている方が落ち着くってもんだ。

叶う事なら、この先もずっとこうしていたいもんだ。

爺さん婆さんになっても変わる事なく、ずっと。

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