最終話(第37話) 延々遊べる恋愛ゲーム

「お疲れっしたぁーー!」


「お疲れぇーーっす!」



学校の多目的ルームに演者の声が響く。

ゲームは無事エンドロールを迎え、こうして2週目終了となった。

現在は反響の結果待ちだ。

全員の視線がエルイーザ人形と、それを操るマリスケへと注がれた。



「どうかな。まだかな……」


「集計中……集計中……黙ッテ待ッテロ豚女」


「なぁマリスケ。コイツの態度はどうにかならんのか?」


「あいにく仕様でござる」


「集計完了。アウトプットモード開始」



微かな振動と共に、エルイーザの口から巻物のような紙が延々と吐き出された。

そこにはレビューやら感想やらが集約されているはずだ。

さて、気になる頑張りの結果はというと……。



「評価平均……4.8! ほぼ最高評価!」


「ぃいやったぁーー!」


「リンタロウ、すっごい好評みたいだね!」


「実はちょっと不安だったが……大成功だな。ほんと良かったよ」


「感想は? 感想コメントはどうッスか?」


「量がハンパないでごわす。ちょっと待つでござるよ」



数々の好評を裏付けるように、感想コメントの熱気もすさまじかった。

まとめると、こんな感じになるか。


・何このゲーム、訳わからんけどクッソ面白れぇわww

・恋愛SLGを遊んでいたはずが、いつの間にかノベルゲーにすり替わってたぜ!

・これどうやってプログラム組んでんのw 前作もそうだけどPG(プログラマー)がマジで神だわwww

・メルたんのケツ毛で出汁取りたい。


といった所か。

称賛に紛れてド変態コメントが寄せられたが、それは気にしない方向で。



「ところで、これ以降はどうするつもりかしら?」


「これ以降ってのは?」


「3週目からよ。私たちの身の振り方もそうだけど、リンタロウはどうするのよ」


「そうですね。熊を小指で吹き飛ばす高校生なんて、現実的じゃありませんね」



確かに気になる点だろう。

完全に超人となってしまったオレはどうすべきか。

そして、ヒロインたちが各自克服した、異常なまでのキャラクタ性についてはどうするのか。

オレは予(あらかじ)め用意していた考えを提案してみた。



「そうだな。ミナコはアホを解消、アスカはサッカーも始めたりと、2週目で各人が随分と成長したよな。その変化についてだが、引き継ぎ要素として捉えようか」


「引き継ぎ要素ってどういうこと?」


「3週目からは、2週目の結末時点の情報を反映させる。つまりミナコはそこそこ勉強が出来るようになり、メルは小説を延々書いたりする感じで」


「妹設定はどうするんですか? それも引き継ぎますか?」


「いやいや。あれは重婚回避のための緊急避難だから。血縁関係はリセットするぞ。じゃないとゲームコンセプトが破綻するからな」


「リンタロウは自身はどうなるの? 強いまま?」


「それだとゲームにならないよな。だから好感度と身体パラメータは初期値に戻す。つってもオレ自身が弱くなったりはしないから、進行中はか弱き男子を装う事にする」


「装うって、そんなに上手くいくかしら」


「まぁやってみるよ。ちなみにオレの育て方次第では熊を退治したり、メジャーデビューさせたらトリプルミリオンだし、サッカーなら代表選手入りするまでに成長するからな」


「それって、1週目の時のクレームに抵触しちゃうわね。そこは平気かしら?」


「2週目の顛末(てんまつ)を見たユーザーなら納得するだろ」



1週目のサクセスストーリーには必然性がなかったが、3週目からは違う。

ユーザーはオレの視界越しに、色んな世界での苦労を追体験しているのだ。

だから史上最強の超人になったり、世界的企業を立ち上げたとしても、彼らが違和感を持つことはあるまい。



「引き継ぎつつ3週目かぁ。面白そうだねぇ。じゃあ、4週目や5週目も?」


「そうだな。それぞれ前の周回までを引き継いで良いんじゃないか? ゲームクリアする度に成長するヒロインってのも斬新だろ?」


「悪くないわね。そこまでユーザーが付き合ってくれるかは置いてといて」


「100週とかしたらどうなってるかなぁ? お婆ちゃんみたいな思考になってたりして」


「どうもメルです、趣味はゲートボールです」


「どうもアスカッス。週末は公民館でお茶してるッス」


「お前ら、これ以上変な属性を生やすのは……」



その時だ。

懐かしい気配が辺りに漂う。

この感じはもしかして……。



「あぁ。また始まるのね。ユーザーって暇人なのかしら?」


「もう3週目かぁ。再開が思ってたよりずっと早いね!」


「みんな、今回もキレッキレで行くッスよ!」


「大変、急がないと。ギターはどこへやったかしら?」


「フフッ。3週目こそ、マリスケさんとくっつけてみせましょう。身命を賭して……」



慌ただしい空気になるが、誰もが嬉しそうだ。

今後どんな展開になるのかは、演者側からも楽しみで仕方ないのだから。



「よし、じゃあ3週目だ。気合い入れていくぞ!」


「おーーう!」



こうして3週目が始まった。

果たしてユーザーは何度巡るつもりだろうか。

10回か、20回か。

さすがに100回やる……なんて事は無いだろうが。


ユーザーの真意も物語の結末も知らないままに、オレたちはステージに立ち続ける。

それはこの先も変わらない。


求められる限り何度でも、いつまでもだ。



ー完ー

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クソゲーって言うな 外伝! 〜今度は恋愛SLG〜 おもちさん @Omotty

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