第31話 あなたの暮らしをサポートします
無事、学校に帰還。
そこにはミナコたちの仮データが居座っていたが、そっちの処理は簡単だった。
修正所から本物を連れてきただけでデータが差し代わり、偽物の方は消えてしまったからだ。
アップデート扱いになったようで上書きされたのだ。
こうして戻って来た学校生活。
ミナコはアホドジ、リリカは虫食い、アスカはゴリラでルイズ放火魔のメル通り魔。
この無茶な連中をどうにかして解決させる、あるいは暴走をマイルドにすることがオレの目標となる。
そうすると、もはやゲームどころじゃなくなってくる。
ユーザーが置いてきぼりになるが、そこは気にしない。
嫌なら電源を切ってくれと思うだけだった。
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11月。
教室の中は受験一色と言って良い雰囲気となっていた。
誰もが単語帳やら参考書を真剣に眺めている。
一限目前だと言うのに、真面目なもんだと思う。
「ええと、【覆う】とは……布などで包みこんだりして隠すことを指す。なるほどなるほど」
ミナコの勉強法は、相変わらず国語辞典を使用しているものだった。
「お」から始まる言葉を読んでいるということは、「あ〜え」までは制覇したという事だろうか。
その努力は凄いと思うが無意味だ。
少なくとも大学受験という場面においては。
「おい、ミナコ。これを使え」
オレは全科目の参考書をドサリとミナコの机に置いてやった。
計20冊にも及ぶ本の塔は、自壊寸前に揺れる。
「すごい数だね。これはなぁに?」
「勉強するならそれを当たれ。重要なポイントには全部マーカー入れてある。それを覚えるだけでかなり違うだろうさ」
「ええ!? これ、全部にマーカーやってくれたの?」
「おう、感謝しろ。おかげでここ数日寝てないからな」
公式に重要語句、汎用性の高い類題などを選りすぐった。
難関大学には通用しなくてもセンター試験対策くらいにはなるだろう。
「ありがとう! これで私も賢くなれるかな?」
「まぁ……少なくともバカにはされんだろうさ」
「よぉし! いっぱいやるぞぉぉ!」
ミナコが本を下から引いた。
何というか……想定通りに塔が崩れる。
重力という約束事に倣って本が落ちるが、その全てをオレはキャッチ。
数冊に小分けしてから、再び机に乗せてやった。
「ご、ごめんねぇ。崩しちゃったよ」
「いや、今のはオレも悪い。もっと丁寧に渡してやるべきだったよ。眠すぎて判断が狂った」
それから軽く諭してやった。
ミナコは1点しか見ようとしない癖があるから、周りの状況を確認する習慣をつけること。
気持ちがたかぶった時こそ要注意だと。
そこまで言うと、ミナコはニッコリ笑い「わかった、気をつけるね!」と元気良く返した。
その顔は修正所の時とは比べようもない程に晴れ渡っている。
牢屋の前でその笑顔を見たかったと、軽く苦笑してしまった。
労力考えたら、圧倒的にあの時の方が苦労してたんだからな。
それはさておきサポートだ。
ミナコは細かく、頻繁にトラブルを起こしていた。
オレが把握しきっていなかったのは、2週目でそれほどミナコと接していなかったからだろう。
例えばこんなシーン。
部活が終わって一緒に帰っている時だ。
自販機で飲み物を買おうとしていたが、ミナコは財布から100円玉を落としてしまう。
「あっ。待て待てぇー!」
彼女はノロノロと後を追うが、その先は車道だった。
すぐ側には大型トラックが迫っている。
小銭に夢中なのか、自分の身に迫っている危機に気付けていないようだ。
「仕方ねえな。プッ!」
オレは口をすぼめて息を吐いた。
それはアスファルトを直撃し、転がる100円玉を逆方向へと打ち上げた。
そしてそのままフワリとミナコの手元へ。
「え、え、凄い! 今の何?!」
「息を圧縮して吐いただけだ。つうかさ、周りを良く見ろよ。小銭の為に大怪我したんじゃ割に合わねえだろ」
「あ、うん。そうだね。つい……」
子供かよ!ってツッコミたかったが、ここは我慢。
言葉を選ばないと拗ねる可能性がある。
たとえ正論だったとしても、常に適切な言葉とは限らないからな。
ミナコのドジはもちろん他にも。
放課後に、オレが独り部室に行こうとしていると、突然脳内の「ミナコセンサー」が反応した。
場所は2階の階段エリア。
オレは光の速さで現場に向かうと、まさにミナコが階段を踏み外して落下している瞬間を目撃した。
「全く、世話の焼ける……」
地面に落下しきる前に、宙を漂うミナコの体を3/4回転させ、足から着地させた。
もちろん衝撃を和らげる為、掌底打ちで空気を送り込み、落下速度を落としている。
「ふぇ!? 今のどうなったの?」
「しっかりしろよな。階段から落ちたら、捻挫とか骨折だってあり得るからな?」
「うんうん、そうだね。気をつけ……」
そこでミナコが自分の足元を見た。
次の瞬間、かつてない速さで制服のスカートを両手で押さえた。
「ねぇ、もしかして……見えた?」
「あー、その、何だ。一瞬だけだよ、バッチリは見えてない」
「……なぁんてね。別に見られても平気なんですぅ」
「えっと、どういうこと?」
ミナコがいたずらっこのような表情をしながら、スカートを捲り上げた。
両手でバサバサとめくり、しきりに上下させた。
オレの顔を扇ぎでもするかのように。
「今日はちゃんとブルマー穿いてきてるからね。だから大丈夫なんだぁ」
「何……だと……!?」
両膝が折れる。
邪神との決戦ですら膝を着く事の無かったオレが。
そのままの姿勢で、この瞳は真っ直ぐ見つめ、眼前の尊きものに熱い視線を送り続けた。
「曲線、質感、全てが完璧だ……素晴らしい! ブルマー文化は滅びてなかったんだ!」
「え、ちょっと、怖い。なんで拝んでるの? ねぇったら!」
世の中は持ちつ持たれつ。
まさかこんな場面で、得難き光景を目の当たりに出来ようとは。
予期しない幸運だった為に、胸に巡る喜びが半端じゃない。
ありがとう!
ありがとう!!
ありがとう!!!
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