第27話 異世界巡り

眼前には大海峡。

晴れることのない暗雲の下、波は人を拒むように荒れ続ける。

その波間から覗く小島。

邪神の棲む城まであと一歩だった。



「ようやくここまで来たか……」


「駆け足を重ねた強行軍でござったが、意外と手間取ったでござるな」



マリスケが清龍王の帽子をクイと上げ、海峡の向こうをジッと見た。

胸に去来する景色を写すかのように。

世界を震撼させるほどの事件、人々の触れ合いに裏切り、そして別れ。

オレたちの身上はスッカリ重たいものとなっていた。



「さぁ、リンタロウ。今こそ宝珠の出番でござる」


「八神よ。約定に従い、邪なる裏切りの神の元へ我らを導け!」



大小8つの宝石で彩られた秘宝を高々と掲げ、天に叫ぶ。

すると、たちまち海は凪ぎ、ガラスのように半透明な橋が出来上がった。

突如現れた足場は小島まで繋がっているようで、もはや船を用意する必要すら無い。

オレたちは急かされたように駆けて行った。



「リンタロウ、敵でござるよ!」


「雑魚どもが邪魔するんじゃねえ!」



現れたのはガーゴイル・キング、双頭飛竜、ゴーストキメラの群れだ。

オレは背中の『天明剣』を抜き放ち、一閃。

瞬きの間すら足止めを許さずに全てを両断した。



「おおお、さすがは伝説の剣でござる。哀しみを背負う程に強くなる唯一無二の宝剣よ!」


「ゴチャゴチャ言ってんなよ。急ぐぞ!」



邪神の居城に辿り着いた。

中は凶悪な迷路になっていて、恐ろしいまでに探索時間を要するのだが、それに付き合う気はない。

オレが天明剣で天井に穴を開け、マリスケの飛翔魔法でひたすら上へ。

数々の仕掛けや罠を強引に突破していった。


各フロアを守る『邪神十傑』も、オレの剣技、あるいはマリスケの即死魔法で瞬殺。

良いところ一切無く、みるみる精鋭の数を減らしていく邪悪なる軍。

側近の全てを葬り去り、とうとう最後の部屋へと辿り着いた。

そこは、邪神の間と言われる場所だった。



「よくぞ参った。勇者よ」


「お前だけは許さねえぞ。これまでの悪行も今日限りでお終いだ!」



突きつけた剣が呼応するように光る。

そう、終わりにすべきなんだ。

この世界の悲劇を背負った天明剣によって。


囚われた恋人を救うために命を散らしたエーリック。

故郷を守るために龍神鬼の生贄となったヒルダ。

それから、それから……。


えーっと。


この瞬間にパッと出てこないけど、とにかくたくさんの悲劇を目の当たりにしてきた。

それらの哀しみを受け、最強の武器となった天明剣の力、とくと味あわせてやる!



「行くぞ、邪神!」


「フハハ! 来い、か弱き人間よ!」


「ヘップションウス一刀流、三の太刀ィ!」


「こ、この力は!? ぐわぁぁぁああーーーッ!」



両断、そして霧散する邪神。

一合すら刃を交えることなく悪は滅びた。


ーーフワリ、フワリ。


宙からはエルイーザ人形が落下し、それが地に着く手前でマリスケがダイビングキャッチ。

ニコリと微笑むマリスケの顔に、エルイーザの口から油じみた液体が飛ばされる。



「いやあ良かった良かった。どうにか取り返せたでござるな」


「あー……すっげえ疲れた。もう手放すんじゃないぞ」


「分かってるでござる。もう二度と、決して。心から誓うでごなす」


「ああ、勇者様! きっと助けに来てくれると信じていました!」



突然女の人が駆け寄ってきた。

見覚えが無いんだが、誰だろう。



「マリスケ、知り合いか?」


「いやぁ、特に記憶に無いでござるよ」


「さぁさぁ共に国へ帰りましょう。そして私と延々〓〓〓〓して子供を山のように作りましょう。もう二度と邪悪な者どもに負けないように、強い子だらけにするのです!」


「なんかとんでもない事を口走ってんぞ」


「むぅ……これは早めに退散した方が良さそうでござるな」


「そうだな。早いところサーバに繋いでくれ」


「承知でござる!」



放電に似た特有の音を鳴らしながら脱出路が出来る。

オレたちは勝利の美酒に酔う間もなく、その世界を後にした。



「お待ちください、勇者様! せめて子種だけでも、〓〓だけでも残していってくださいまし!」


「アイツはやべぇ、絶対にやべぇ。早く閉じてくれ」


「完全に同意でござる」



そして穴は閉ざされ、オレたちは暗闇の通路へと戻って来た。

無機質さや静寂が妙に懐かしく感じられる。



「ふぅ。ようやく1個終わったのか。こんなに時間かけて大丈夫なのか? ミナコたちの救出に間に合わなくなるんじゃ……」


「その点は心配無用。重要なのはリアル時間、ゲームのプレイ時間そのものでありんす。さっきの世界では半年ほど過ごしても、実際には2時間かかってないでござる」


「そうか、大丈夫ならいいんだ。もちろんノンビリしてられないが」


「早く動くに越した事はない、このまま休まずに次の世界へ行くでござる」


「2番目の候補地は遠いのか?」


「すぐ傍でごわす」



マリスケの案内のもと、次の穴へと向かう。

やってきた先の様子は最初のものと同じだ。

外側から覗いただけでは何もわからなかった。



「さて。今度は正解だと良いな」


「そればかりは神のみぞ知る事でござる」


「ともかく行くぞ!」



オレたちは闇に身を躍らせた。

そこが修正所に繋がるものと信じて。


ちなみに結論から言うと、次もその次もそのまた次もハズレ。

無人島だのサッカーグラウンドだの、見当違いの世界へと飛ばされてしまう。

更にはその都度マリスケがエルイーザ人形を手放してしまうもんだから、キッチリ異世界体験をさせられるハメになるのだ。

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