第28話  流浪の民

マリスケの野郎。

お手軽に重要アイテムをポロりと無くすマリスケこの野郎。

学校ではお前に助けられたけど、今はお前のせいで散々苦労している。

頼むからいい加減学べよ、新しい世界に飛ぶ度にゲームクリアを強制されてんじゃねぇか。


例えば今現在。

今度の舞台はサッカーゲームだ。

国立競技場にて、W杯の優勝をかけた試合が繰り広げられている。


オレはセンターフォワードで、マリスケはトップ下のミッドフィルダー。

サッカーなんてど素人のオレたちだが、ここまで危なげなく勝ち進んできた。

ゲーム知識が役に立ったのか、それともRPGで培ったLV99の肉体のおかげかは定かじゃない。


優勝景品であるエルイーザ人形まで、あと1勝。

ここで負ける訳にはいかない。

ちなみにオレ選手の背景には、優勝しないと『恵まれない子供たちへの支援金』の話が頓挫するというモノがある。

重たい……、フラリとやってきた来訪者に重要なものを背負わせないでくれ。


ーーピピィイ!


試合はキックオフ。

これより決勝戦の幕開けだ。

オレのちょいパスで、ボールがマリスケの足元へ。

そして、その場ですかさずシュート体勢に入った。



「いくでござるよ、サッカー超大国め! 東洋の妙技を身をもって堪能するでござる!」



これはドラゴニック・ガイア・ブレイキングシュートだ。

自陣から放たれたロングシュートは、8匹の龍に連れられて、見事に敵陣をかち割っていく。

それは文字通りの話。

何人もの選手がボールに蹴散らされ、競技場の屋根の上まで飛ばされてしまう。

残すはキーパーをなぎ倒して加点するのみだ。

オレは先んじて脳内でスコアボードを書き換えるが……。


ーーパシィッ!


鋭い音とともにボールが止まる。

敵のキーパーは不敵な笑みを浮かべつつ、ボールを片手持ちで掲げた。



「確かに強烈なシュートだ。……だが、オレを抜くには威力が足りなかったな!」


「なんと! 拙者の殺人シュートを片手だけで!?」


「落ち着くんだマリスケ。敵陣にはキーパーしか居ねぇんだから、オレたちの敗けはねぇ!」



マリスケのシュートで敵のフィールダーは全滅だ。

立っているのはゴールキーパーただ1人なのだから、攻め込まれる事はないはず。



「敗けはない、だと? これを見ても同じことが言えるかぁぁ!」


「な、何ィ!?」



放たれたゴールキックは、マリスケの足技よりも遥かに上を行くものだった。

大砲から射ち出された砲弾のように、一直線にこちらのゴールへ。

オレもマリスケも反応できなかった。


そしてボールは仲間たちを青空の彼方まで吹き飛ばし、ゴールネットを突き破って消えた。

これで0ー1だ。



「なんだよ今の……。化け物かよ」


「ともかく、点を取られてしまったからには攻めなくては! このままでは敗けてしまうどござるよ!」


「そうだな。攻めて攻めて、攻めまくってやる!」



だが、それからも試合は散々だった。

攻めては守られ、打ち返されて失点する。

その繰り返しだった。

前半戦終了時には0ー10という絶望的な点差となっていた。



「どうすんだこれ……無理ゲーすぎるわ」


「リンタロウ、諦めるのはまだ早いでござる。敵チームに動きがあったようでごわす」


「朗報だと良いんだがな……」



そのまま迎えた後半戦。

開始のホイッスルが鳴るが、相手は誰一人フィールドに現れない。

唯一残っていたキーパーでさえも。

刻一刻と減っていく試合時間に急かされて、とりあえずシュート。

もちろんゴールして1ー10となる。

何だこの状況。



「なぁマリスケ。これはどうしたんだろうな?」


「どうやら、敵キーパーが逮捕されたようでござるよ」


「マジかよ。傷害とか器物損壊?」


「いや、盗撮でござる。ハーフタイム中にやらかしたらしくて」


「いやいやいや、おかしいだろ。おとなしく休んでろよ!」


「常習犯だったようでござる。業という魔物に心まで喰われてしまったのでござろう」


「まぁ、オレらにとっちゃありがたいけどさ。しまらねぇ話だな」



それからも様子は変わらない。

オレとマリスケで交互にゴールへボールを転がすだけ。

それを10回繰り返した頃、試合は終わった。

結果は11ー10の辛勝。

スコアの上だけは大熱戦だ。



「エルイーザたん! やっと会えたでござる、済まなかったでござるよぉぉ!」


「ペッ!」



表彰台でマリスケがエルイーザを高い高いして、御礼としてエルイーザから油の唾が顔に吐かれた。

その仕草からは怒りの感情のようなものが感じられる。

人形の癖になまいきな。



「マリスケェ……次こそは頼むぞ?」


「任せるでござる。今度こそは離さぬでござるよ!」


「いや、当たりの部屋を引くのが目的だからな?」



サッカーの世界から脱したオレたちは、第3の候補地へと向かった。

次こそ当たりを引きたかったが、無情にもそこは別ゲーの世界だった。


やってきたのはSF・ロボットゲームの舞台だ。

開始地点は宇宙船の中にあるメンテナンス室だ。

目の前には高さ5メートルほどの『登場型・戦闘ロボット』が一機ある。

初期装備なのでモッサリしたフォルムだが、なんとも男心をくすぐるものだった。



ーーよう新人ども。実際のバトルスーツを見た感想はどうだ? VR訓練じゃ分からないマシンの鼓動みたいなのを感じるだろ?


スピーカーから馴れ馴れしい声が聞こえてきた。

どうやらこれはチュートリアルなんだろう。


ーーそこの赤いボタンを押してみろ。目の前のリフトが上昇して、マシンに乗り込むことが出来るぞ。月面基地に着く前に、一通りの動作を確認しておけよ。



「だとよ。どっちが乗るんだ?」


「格好から考えて、拙者はエンジニアでござろう。リンタロウも搭乗員の出で立ちでござる」


「じゃあオレが乗るぞ。ええと、ボタンっていうのは……」


「きっとコレでござろう」



ポチりとマリスケがボタンを押した。

リフトから大分離れてるけど、それで合ってるのか?


ーーバカ野郎! それは外への射出用だ! 早く緑のボタンを押して解除しろ!


スピーカーが割れるほどの怒声。

それからすぐに辺りが赤いランプで照らされ、機械音声によるアラートが聞こえ出す。



「カタパルト起動。カタパルト起動。総員、室内より直ちに退避してください。繰り返します……」


「おい、止めるぞ! 緑のボタンを探せ!」


「ええと、ええと、これ!」



ほんのわずかに開いた船の壁はすぐに閉じられた。

ものの数秒ながら、室内の細々したものが吸い上げられ、出口の方へ殺到した。

おそろしや宇宙の法則。



「リンタロウ! エルイーザたんが、エルイーザたんがぁ!」


「何だと! もしかして……!」



慌てて通路の窓から外を見た。

そこには、ただ一人で宇宙空間を遊泳するエルイーザの姿が。

その体を超高速でキリモミ回転させながら。



「マリスケてめぇえ! 何やってんだよぉおお!」


「済まぬでござる! 堪忍でござるぅぅ!」



それからエルイーザはどうなったか。

後日の通信によって知ることとなる。


人形は運よく地球に落下し、地球連合政府が確保してくれたらしい。

それは朗報だが、同時に面倒の始まりでもあった。

オレたちの船は月面にある研究基地に向かっている。

そこでのトラブルを解決するまでは地球に帰れない。

つまり、ゲームクリアまでの流れを三度やらねばならないのだ。


マリスケこの野郎。

次からは鎖でしっかり繋いでおけ!



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